TS-1、シスプラチン、タキソールを軸にさまざまな臨床試験が実施中 スキルス胃がんの最新治療はこれだ!
研究・臨床に積極的な
吉川貴己さん
胃がんの中でも、悪性度の高いスキルス胃がん。腹膜播種があると、外科手術はほとんど不可能という。鍵となってくるのが化学療法。その化学療法はどこまで進んでいるのだろうか。
胃壁全体にがん細胞が広がってしまうタイプ
[図2 スキルス胃がんが進展していく過程]
スキルス胃がんは、胃がんの中でもとくに発見しにくく、治療が難しいことで知られている。このスキルス胃がんについて説明するには、ボールマン分類を使うのがよい(図1)。神奈川県立がんセンター消化器外科医長の吉川貴己さんは、次のように語っている。
「ボールマン分類は進行胃がんの分類ですが、がん細胞の固まりやすさによって、胃がんを分類しています。スキルス胃がんの特徴は、まさにそこにあるわけですね」
胃がんは1~5型に分類される。
1型は、細胞と細胞が密にくっついて固まり、隆起を作るタイプ。
2型は、それにえぐれたような潰瘍ができているタイプである。
3型は、細胞と細胞が離れやすく、潰瘍ができて崩れているタイプ。
4型は、表面にほとんど凹凸がなく、がん細胞が胃壁の中にパラパラと広がっていくタイプで、これがスキルス胃がんである。
5型はその他で、1~4型に当てはまらない胃がんがここに分類される。
スキルス胃がんは、がん細胞とがん細胞が集まって隆起を作らず、胃壁の中に広がる特徴を持つ(図2)。そのため見つけにくく、発見されたときには進行がんということが多いそうだ。
スキルス胃がんは腹膜に転移しやすい
スキルス胃がんは、胃がんの7~10パーセントを占めている。そして、比較的若い人、それも女性に多いという特徴がある。早期の段階で発見するのは難しく、スキルス胃がんと診断された患者さんの半数余りは、すでに腹膜まで転移した進行がんの段階だったというデータがある。
「早期発見するには、3カ月ごとに検診を受ける必要があるといわれています。もちろん、そんなことは現実的ではありませんから、スキルス胃がんの早期発見はなかなか困難だということですね」
スキルス胃がんは腹膜に転移することが多い。腹膜とは、胃や腸などが入っている腹腔の内側を覆っている膜のこと。がんが胃壁の外側まで広がると、そこから種を播いたように、腹膜に飛び散ってしまうのだ。このような転移を、とくに腹膜播種と呼んでいる(図3)。
「がん細胞が腹膜に飛んでいても、増殖して大きくなるまで肉眼では見えません。肉眼で見えるようになって、初めて腹膜転移と診断できるわけです」
スキルス胃がんが発見された段階で、腹膜播種などの転移が見られなければ、基本的には手術が行われる。
しかし、手術後に腹膜播種という形で再発してしまうケースが多いという。腹膜播種が見つからなくても、肉眼では見えないほどの微小転移がすでに起きていて、それが大きくなってくるのである。
標準治療で使われる抗がん剤はTS-1
スキルス胃がんの標準治療は、普通の胃がんの治療と同じである。腹膜播種などの転移がない場合には、胃を切除する手術を行い、その後1年間、TS-1(*)という抗がん剤による術後補助化学療法が行われる。再発予防が目的だ。補助化学療法を加えることで、普通の胃がんの場合、3年生存率が7~8割に、5年生存率が6~7割に向上することが明らかになっている。
「スキルス胃がんの場合、生存率はもっと低くなります。この治療が標準治療となったのが2007年なので、まだ明確なデータはありませんが、3年生存率が約2~3割、5年生存率は1~2割くらいだろうと推測されています」
スキルス胃がんは、たとえ手術ができる段階で発見されても、治療後に再発してしまうケースが大半なのだ。
腹膜播種など、すでに転移が起きている場合や、手術後に再発が起きた場合には、TS-1とシスプラチン(*)の併用化学療法が標準治療となっている。スキルス胃がんに限らず、すべての進行・再発胃がんに共通する標準治療である(図4)。
「この治療を行った場合の生存期間中央値(半数の患者さんが健在でいられる期間)は13カ月です。かつては7カ月くらいでしたが、TS-1が登場し、それをシスプラチンと併用したことで、延長されました。ただ、13カ月ですから、患者さんにしてみると、とても十分とはいえないでしょう」
現在、標準治療の成績を超えることを目指し、いくつかの治療開発が進められている。それを紹介していくことにしよう。
*TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム
*シスプラチン=商品名ランダ、ブリプラチン
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