胃がん手術後の後遺症と対策 なぜ後遺症は起こる? 不快な症状を緩和する方法は?
東京慈恵会医科大学
消化器外科医局長の
鈴木 裕さん
手術法の進歩によって胃がんの治療成績は向上してきました。半面、胃切除後の後遺症対策は、今もって十分とはいえず、後遺症に苦しむ患者さんが跡を絶ちません。なぜ後遺症が起こるのか、不快な症状を和らげるにはどんな方法があるのか、東京慈恵会医科大学消化管外科医局長の鈴木裕さんと胃を切った人友の会「アルファ・クラブ」にお話をうかがいました。
胃がん手術に後遺症はつきもの
手術の範囲やつなぎ方によっても異なる
胃を切った人友の会「アルファ・クラブ」が術後3年以内の会員を対象に行った2004年のアンケート調査によると、回答者の98.5パーセントに後遺症があり、そのうち4割以上が重症と回答しています。胃の切除手術という治療法は、胃がんを治る病気に変えてきた一方で後遺症を生み出すというジレンマをかかえてしまうようです。
東京慈恵医大消化管外科医局長の鈴木裕さんは、こう語ります。
「胃は食物をいったん貯めて、消化液を出して撹拌しながらすりつぶし、少しずつ腸に送り出す働きをしている臓器です。動物の進化の過程でも胃がなくならないことは、胃の重要性を示しています。外科医の間でも、後遺症を防ぐために手術の範囲や再建法(食道や腸とのつなぎ方)が創意工夫されていますが、胃の機能を元通りに再現できるわけではありません(下コラム参照)。胃の手術後は、多かれ少なかれ後遺症がつきものと考えたほうがよいですね」
胃が切除されると、胃酸やタンパク分解酵素のペプシンなどの消化液が出なくなったり不足したりするため、腸で栄養が吸収されにくくなり、栄養障害ややせにつながります。また、胃の入り口(噴門)や出口(幽門)の関所が失われ、食物が急激に腸に流入したり、食道に逆流したりするために、「ダンピング症候群」や「逆流性食道炎」などの症状が現れることも多いもの。胃やリンパ節の切除に伴い、迷走神経という自律神経が傷つくことも、後遺症の原因になります。
「術後の後遺症対策は、医療者側と患者さん側の2つの視点から考える必要がありますね。
医療者側は、術後に起こる事態を一足先に予測して治療戦略を立てる必要があります。術後の栄養管理に、経管経腸栄養法(腸ろう=PEJ、後述)を取り入れるのもよい方法です。患者さんの側は、たとえば薬を飲む場合、どういう症状を改善するために必要なのか、よく理解することが大切です。また、先輩患者さんたちの工夫を参考に、自分の症状に合った食べ方のコツをだんだんにつかんでいくとよいでしょう。どうしても症状が改善しないときは、再手術などの方法もあります」(鈴木さん)
鈴木さんより一言
胃がんの手術は、がん病変を含む胃を切り取る「切除手術」と、その後、食道や腸とつなぐ「再建術」という2つの要素から成り立っています。切除手術の術式には、胃をまるごと摘出する「胃全摘術」、胃の出口側を切除する「幽門側胃切除術」のほか、胃がんが胃の入り口近くにある場合、入り口側を切り取る「噴門側胃切除術」などがあります。また、病変や部位によっては、局所切除、幽門(胃の出口)を残す術式、胃や胆のうの運動に関係している迷走神経(交感神経)を温存する術式などが行われています。 切除した胃を食道や腸とどうつなぐと障害が少なくなるか、再建術(つなぎ方)も工夫されてきました。食道または残胃と空腸をつなぐルーワイ法や、空腸や回腸などで胃の代用物を造る空腸間置術、回結腸再建法などはその1例です。しかし、これらの工夫をしても、臓器を失ったことによる症状は避けられないのが現実です。
[幽門側胃切除の場合]
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