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“不治の病”とされていた血液がん。治療法の進歩で、治癒が目指せるがんへ
これだけは知っておきたい! 血液がんの基礎知識 悪性リンパ腫編

監修:鈴木憲史 日本赤十字社医療センター血液内科部長
取材・文:柄川昭彦
発行:2010年4月
更新:2019年7月

  
鈴木憲史さん
日本赤十字社医療センター
血液内科部長の
鈴木憲史さん

白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫は、血液のがんの大半を占める3大血液腫瘍です。かつては、“不治の病”とされていたこれらの血液がんも、分子標的薬や造血幹細胞移植などの治療法が進歩し、治癒が目指せる疾患になりつつあります。
ここでは、3大血液腫瘍の仕組みから、最新治療、患者さんの心得を解説します。

血液がんのほとんどを占める「3大血液腫瘍」

[3大血液がん]
図:3大血液がん

血液がんとは、血液中に含まれている細胞が、がん化した病気である。血液中に含まれる細胞には、赤血球、白血球、血小板などがある。実は、これらの血球は、造血幹細胞というたった1種類の細胞から分化して作られる。造血幹細胞がさまざまに分化していく過程で、染色体などに異常が起き、がん化した細胞が生まれてしまうのだ。

日本赤十字社医療センターの鈴木憲史さんによれば、造血幹細胞から分化していく過程の“どのような細胞”が“どの段階”でがん化したかにより、さまざまな病名がついているという。細かく分類していくと、いくつもの病名が存在するわけだ。

「血液がんの基礎知識ということであれば、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫にしぼって解説したほうがいいでしょう。これらは3大血液疾患と呼ばれている病気で、血液がんのほとんどはこの3つに含まれます」

まず、それぞれについて、ごく簡単に解説してもらった。

白血病は、骨髄中の造血幹細胞ががん化し、どんどん増殖してくる病気である。年間約7000人が罹患している。

悪性リンパ腫は、白血球の1種であるリンパ球ががん化する病気。年間約1万2000人が罹患する。

多発性骨髄腫は、骨髄中の形質細胞ががん化する病気。形質細胞は抗体を作っている細胞だ。年間約4000人が罹患する。

「がんはおもに高齢者に起こる病気です。血液がんも基本的には60歳以上に多いのですが、患者さんは広い年代にわたっていて、10代、20代にも珍しくありません」

鈴木さんによれば、50代までに発病する人が、白血病や悪性リンパ腫では20~30パーセント程度。多発性骨髄腫では5パーセントくらいいるという。

発がんの仕組みや症状の現れ方が異なる

血液がんに対し、胃がんや肺がんなどのように塊を作るがんを固形がんという。鈴木さんによれば、血液がんと固形がんでは、発がんの仕組みが異なっているそうだ。

「血液がんの中でも白血病などは、ある日突然、1つの細胞で染色体の異常が起こり、そうして生まれた腫瘍細胞がどんどん増殖していきます。ワンポイントで起こる代表的な病気です。これに対し、固形がんはいろいろな異常が重なることで、初めて腫瘍細胞が誕生します。そして、この発がんの仕組みでは、白血病と固形がんという両極の間に、悪性リンパ腫や多発性骨髄腫が位置しています」

発生したがん細胞は、“増殖”や“機能性”によって、患者さんの体にダメージを及ぼす。この点に関して、3大血液がんには次のような特徴が見られるという。

「白血病は非常にがん細胞の増殖の速い病気で、どんどん増殖して正常な血球を作れなくするなど、体にとって困った状態を引き起こします。一方、多発性骨髄腫は、がん細胞の増殖よりも、増えた細胞が特殊な物質を放出することで症状を引き起こします。悪性リンパ腫は、白血病と多発性骨髄腫のほぼ中間。がん細胞の増殖も問題ですし、増殖した細胞が放出する物質が症状を引き起こすこともあります」

このように、3大血液がんはそれぞれに特徴を持っている。

[造血幹細胞が分化する過程でさまざまながんになる]
図:造血幹細胞が分化する過程でさまざまながんになる

治療には免疫の力も重要な役割を果たす

かつて血液がんは“不治の病”と言われていたが、治療法が進歩した現在では、治る病気が増えてきた。分子標的薬()などの薬物療法の進歩と、造血幹細胞移植によって、治せる血液がんが増えてきたのだ。

「適切な治療を行うことで、白血病のだいたい3~4割は治癒します。悪性リンパ腫はもっとよくて、5~6割は治ります。多発性骨髄腫はまだ治せるところまできていませんが、新しい治療によって長期生存は可能になってきました」

こうした治療成績が得られるのは、薬物療法のおかげだが、薬の効果だけで血液がんが治癒するのかというと、そうでもないらしい。

「たとえば急性白血病の化学療法を行うと、腫瘍細胞は急速に減少していきます。体の中に腫瘍細胞が1キログラム以上あったのが、2回くらいの治療で、マイクログラム単位にまで減ります。そうなると、患者さんの免疫が腫瘍細胞を異物と判断し、攻撃を開始します。このような働きもあって治癒するのだろうと考えられます」

造血幹細胞移植でも、免疫は働いている。化学療法などで腫瘍細胞を減らせるだけ減らし、そこに造血幹細胞を移植すると、増殖した免疫細胞が残った腫瘍細胞を攻撃し、一掃してくれるのである。

「薬物療法でも移植でも、血液がんが治癒する最後の詰めの部分には、たぶん免疫が関与しているのだと思います」 これが鈴木さんが考える血液がんが治癒する仕組みである。

分子標的薬=体内の特定の分子を標的にして狙い撃ちする薬


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