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血液がんにおける免疫チェックポイント阻害療法

古典的ホジキンリンパ腫に免疫チェックポイント阻害薬が承認 慎重な投与時期の検討が必要、重篤な合併症にも注意

監修●蒔田真一 国立がん研究センター中央病院血液腫瘍科
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2017年4月
更新:2019年8月

  

「免疫チェックポイント阻害薬はよく効きますが、慎重な投与時期の選択が必要です」と語る
蒔田真一さん

免疫療法が有効であるとみられてきたホジキンリンパ腫で2016年12月、免疫チェックポイント阻害薬オプジーボが承認された。魅力的な薬剤であることは確かだが、その扱いには慎重さが求められる。血液がんにおける免疫チェックポイント阻害療法の現状を専門家に伺った。

オプジーボ承認、キイトルーダも申請中

悪性リンパ腫はその形や性質の違いにより、大きくホジキンリンパ腫(HL)と非ホジキンリンパ腫(NHL)に分類される。ホジキンリンパ腫は日本ではリンパ腫全体の5%程度と少ない(欧米では20~30%程度)。ホジキンリンパ腫はさらに、古典的ホジキンリンパ腫(cHL)と結節性リンパ球優位型ホジキンリンパ腫(NLPHL)に分かれる。NLPHLはホジキンリンパ腫の中でも5%ほどしかない極めて稀な疾患であり,前向きな臨床試験はほとんど行われていない。治療開発はcHLを対象に進められてきた。

そこに登場したのが、これまでの薬剤とは作用機序の異なる免疫チェックポイント阻害薬のオプジーボである。悪性黒色腫(メラノーマ)や肺がんに対してはすでに保険承認されていたが、2016年12月に再発/治療抵抗性のcHLに対しても適応拡大された。同じ作用機序をもつキイトルーダも承認申請中だ。

「cHLに対する高い奏効が確認されており,患者さんにとっては非常に大きなことです。しかし、治癒的な治療法ではなく,稀ではあるが一度起こると管理が難しい重篤な副作用もあるので、慎重な対応が必要です」と国立がん研究センター中央病院血液腫瘍科の蒔田真一さんは話す。

オプジーボ=一般名ニボルマブ キイトルーダ=一般名ペムブロリズマブ

ホジキンリンパ腫とは

そもそも、悪性リンパ腫の中でも希少であるcHLはどのような病気だろうか。患者年齢分布は,若年層(20歳代)と中年層(50~60歳)という2つのピークがある。リンパ節腫大を自覚して受診することもあるが,無症状で、定期健康診断の胸部X線撮影で発見されるケースも多い。

蒔田さんは「cHLの診断には腫瘍の生検が必須です。生検検体から作製した標本を顕微鏡で確認する病理組織検査によって確定診断が得られます。顕微鏡で見てみるとcHLの腫瘍細胞は、孤立散在性に存在し、周囲に“お伴”の炎症細胞をたくさん伴っています。腫瘍細胞は免疫からの攻撃を逃れるための分子(PD-L1など)を細胞表面に備えているため、周囲の免疫細胞から攻撃されることはありません」と説明する。

このPD-L1をはじめとる免疫チェックポイント分子は、以前から腫瘍の免疫回避に関連していると想定されており、免疫療法の重要な治療標的と考えられてきた。

限局期に対する初回治療では放射線を併用する

免疫チェックポイント阻害療法の前に、cHLの治療法の歴史を概観する。蒔田さんは「cHLは適切な初回治療により治癒できる可能性が高いです。cHLに対する治療の歴史は古く、1920年代には放射線治療が行われるようになりました。その後,多剤併用化学療法の開発が始まりました。1970年にMOPP療法という治療が開発され、cHLの化学療法は飛躍的に進歩しました。しかし毒性が強く,その後開発された,より毒性が低く有効性の高いABVD療法が現在も使用されています」と話す。ABVDは、ドキソルビシン、ブレオ、エクザール、ダカルバジンの4薬剤を指す(図1)。

初回治療では、がんが病変部にとどまっている限局期では、ABVD療法を4コース行った後、放射線治療(30Gy)に移る。進行期においてはABVDを6コース行ない、残存病変がある場合には放射線治療の追加を検討する。進行期に比して限局期は予後良好であるため、海外では初回治療の強度を落として、より毒性の低い治療が実現できないかという検討がされている。

「限局期の中でも予後良好とされるグループにおいて、治療の強さを落とせないか、という検討がなされています。ドイツでは限局期cHL予後良好群に対して、ABVD療法のコース数と放射線治療の線量を減らした治療と標準治療とを比較した試験が行われました。その結果、治療強度を落とした “ABVD療法2コース→放射線照射20Gy” が、 “標準治療(ABVD療法4コース→放射線照射30Gy)” と比較して生存期間に差がないという報告がなされました。こうした結果から、限局期の患者さんの中でも特定の条件を満たす予後良好群の患者さんにおいては、ABVD療法2コース→放射線照射20Gyが初回治療として選択可能です。ただし、ドイツ以外のグループから同様な結果を検証したものはないのが現状であり、日本人において適応可能かどうかはわかりません。現時点ではっきり言えることは、限局期cHLの初回治療において、ABVD療法後に放射線治療を抜いてはいけないということです。複数の臨床試験で、限局期cHLを対象に、化学療法のみ施行して放射線治療を省く方法が検討されてきました。しかし、いずれの試験でも放射線を省くと有意に治療成績が下がることが報告されています」

MOPP療法=mechlorethamineメクロレタミン(国内未承認)+ビンクリスチン+プロカルバジン+プレドニゾロン ABVD療法=ドキソルビシン+ブレオ+エクザール+ダカルバジン ドキソルビシン=一般名アドリアシン ブレオ=一般名ブレオマイシン エクザール=一般名ビンブラスチン ダカルバジン=一般名ダカルバジン

図1 HLに対する治療戦略

<略語>HL:古典的ホジキンリンパ腫、RT:放射線照射、IFRT:領域放射線照射、ABVD療法:ドキソルビシン+ブレオ+エクザール+ダカルバジン)

再発治療抵抗性になったら

初回治療で寛解したにもかかわらず、一定の割合で再発してしまう。その場合には、患者の条件が許せば、救援化学療法を行った後に自家造血幹細胞移植(以下,自家移植)を行なう。年齢などの条件を満たさない場合は緩和的化学療法となる。

新しい薬剤も登場した。2014年に承認されたアドセトリスという抗がん薬で、「腫瘍のCD30をターゲットにした抗体薬です。それまでの治療を大きく変える重要な薬剤となりました」と蒔田さん。対象は救援化学療法で十分な奏効が得られていない自家移植を目指している患者さんや自家移植適応がない患者さんである(図2)。

「基本的に再発であっても自家移植が施行可能ならば、まず自家移植を目指します。自家移植は治癒を目指せる可能性のある治療です。免疫療法をはじめとした新薬がどんなに良い治療成績を示したとしても、治癒が得られるわけではありません。したがって,様々な新薬が承認されている現在であっても、自家移植は、cHLの初回再発において最も重要な治療選択肢です。残念ながら自家移植の適応がない場合は、CD30を標的とするアドセトリスを用いた治療を行います。それでもなお病勢が進行する場合の、新たな選択肢として使われるのが免疫チェックポイント阻害薬です」(蒔田)

アドセトリス=一般名ブレンツキシマブ ベドチン

図2 再発/治療抵抗性HLに対する治療戦略

<略語>HL:古典的ホジキンリンパ腫、HDC/ASCT:自家造血幹細胞移植、CR:完全寛解、PR:部分寛解、SD:不変、PD:病勢進行、Brentuximab vedotin (BV):ブレンツキシマブ ベドチン

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