新薬や投薬スケジュールの変更などの新たな動き
病型ごとに治療の開発が進む B細胞性リンパ腫
悪性リンパ腫は種類が多く、治療選択もそれぞれで異なる。近年は新薬の開発が進むとともに、薬剤の組み合わせ、さらに投薬スケジュールの工夫など様々な取り組みが行われている。今回はB細胞性リンパ腫の中のびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)、濾胞性リンパ腫(FL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)の最新治療についてリポートする。
悪性リンパ腫は 50種類以上
悪性リンパ腫は50種類以上あり、それぞれで進行度や悪性度も異なるので、治療法も変わってくる。しかし、共通して言えるのは、化学療法の効果が高いということだ。とくに21世紀に入ってからは抗体薬である分子標的薬の*リツキサンが広まり、治療成績はさらに向上した。
悪性リンパ腫は、リンパ節、扁桃腺などのリンパ系組織だけではなく、胃、腸、肺、肝臓、皮膚などのリンパ外臓器からも発生する。原因は不明であることが多いが、ウイルス感染症や免疫不全が関係する場合もある。リンパ節に痛みのない腫れとして自覚されることが多いが、発熱や寝汗、気道閉塞や血流障害として現れたりすることもあり、こうした進行性の経過を伴って発症する場合は、腫大したリンパ節に痛みを感じることもある。
たくさんの種類のある悪性リンパ腫だが、大きく「ホジキンリンパ腫(HL)」と「非ホジキンリンパ腫(NHL)」に分けられ、日本ではNHLが90%ほどを占めている。また、細胞の種類によって、B細胞性とT細胞性に分類され、それぞれの悪性度も分類されている(表1)。病期分類にはAnn Arbor分類が広く用いられている(図2)。
図2 悪性リンパ腫の病期(Ann Arbor分類)
ここからは、B細胞性リンパ腫の中で患者数の多い2つの病型と、新治療が加わったマントル細胞リンパ腫について解説していこう。
*リツキサン=一般名リツキシマブ *B症状=それぞれの病期において、B症状があるかないかでAとBに分ける
びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)~R-CHOP療法が標準治療
「びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)は、日本人の非ホジキンリンパ腫の中で3割強を占める、最も発生頻度の高い病型である。現在の標準治療は多剤併用であるR-CHOP療法(リツキサン+*エンドキサン+*アドリアシン+*オンコビン+*プレドニン)だ。R-CHOP療法に落ち着くまでの経緯を国立がん研究センター中央病院血液腫瘍科病棟医長の丸山 大さんに聞いた。
「R-CHOPのR(リツキサン)を除いたCHOP療法が1970年代に開発され、第1世代の化学療法と言われ、一部のリンパ腫患者さんが治ることがわかりました。その後、それを上回ろうと、第2世代・第3世代と言われる複数の抗がん薬を組み合わせたり、治療強度を増したりした多剤併用療法がいろいろ考案されました。
しかし、1993年に発表された、CHOP療法とそれらを比較する無作為化比較試験によって、CHOP療法は第2世代・第3世代の化学療法と治療成績に差がなく、しかも最も副作用が少なかったので、CHOP療法が晴れて標準治療となったのです」
さらに、研究は続いた。
「次に注目されたのは、自家末梢血幹細胞移植です。再発する可能性の高いとされる*IPI(国際予後指標)のリスクが高い患者さんは、CHOP療法を行ってから寛解(画像検査の結果、病変が消えている状態)のうちに自家移殖をすると、治療効果が上がることが報告されました」
そして、登場したのが抗体薬である分子標的薬のリツキサンだ。リツキサンは細胞膜にCD20というタンパクを持つ悪性リンパ腫に対して、治療効果を発揮する。B細胞性リンパ腫はほとんどがCD20陽性なので、リツキサンを使用することが可能だ。
「CHOP療法にリツキサンをプラスしたR-CHOP療法が生まれました。CHOP療法との比較試験で、全生存率(OS)や無増悪生存期間(PFS)を延ばすデータが出ました。そのため、R-CHOP療法がCHOP療法に代わる標準治療になりました」
*エンドキサン=一般名シクロホスファミド *アドリアシン=一般名ドキソルビシン *オンコビン=一般名ビンクリスチン *プレドニン=一般名プレドニゾロン *IPI(国際予後指標)=年齢が61歳以上、血清LDHが正常上限を超える、病期がⅢ(III)またはⅣ(IV)期、節外病変数2つ以上、全身状態が悪いなどが予後不良因子
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