がん細胞にくっつき放射線を放つ治療で治療困難な患者さんにも希望が
難治性B細胞リンパ腫に放射免疫療法
近畿大学医学部
血液内科准教授の
辰巳陽一さん
悪性リンパ腫の中でも、ろ胞性リンパ腫を主とする再発および治療抵抗性低悪性度B細胞性非ホジキンリンパ腫は、完全に治癒することが困難な病気として知られています。近年、こうした悪性リンパ腫に対し放射免疫療法という新しい治療法が登場し、これまで治療困難であった患者さんに希望をあたえられるようになりました。この療法のメカニズムを解説するとともに効果のあった患者さんの具体例を紹介します。
放射免疫療法が変えた難治性悪性リンパ腫の治療
悪性リンパ腫の治療には、放射線療法、化学療法、免疫療法、造血幹細胞移植、そして放射免疫療法(RI標識抗体療法)の5つがあります。病気の種類や進行度合いによって、治療法が決まります。
例えば、悪性リンパ腫の発生場所が1~2カ所に限局された例ではまず腫瘍に放射線をかけることから始めることが多いのですが、進行すれば、抗がん剤で全身を治療することになります。また、将来、再発が予想されるものには始めから造血幹細胞移植も考え治療計画が立てられます。
これまでB細胞性リンパ腫の抗がん剤治療のスタンダードはCHOP療法(エンドキサン、アドリアシン、オンコビン、ブレドニゾロンの4剤併用療法)でした。悪性リンパ腫は、進行のスピードによって低悪性度、中悪性度、高悪性度に分類されるのですが、この中で、中・高悪性度のリンパ腫の患者さんであれば、抗がん剤が効いて、10年、15年と長期生存されることが期待できます。
しかし、抗がん剤は腫瘍細胞があまり分裂しない低悪性度のリンパ腫には効かないことが多々あり、進行の早いタイプよりも、むしろ長期で生存される方が少ないという傾向がありました。
最近になって、分子標的薬・リツキサン(一般名リツキシマブ)という、B細胞性非ホジキンリンパ腫に対するワクチン(抗体)療法が開発され、既存の抗がん剤とともに使用することで治療効果に改善を認めるようになりました。この療法を使うと、従来の抗がん剤だけの場合(CHOP療法)と比べて、生存率が約15パーセントアップします(図1)。
しかし、それでも治療抵抗性や再発を認められる患者さんがおられるのも事実で、再発時に抗がん剤の種類や量を変えても効果のないことがあります。
ところが、2008年にゼヴァリン(一般名イブリツモマブチウキセタン)という薬を使った放射免疫療法が登場し、治療に苦しむ悪性リンパ腫の患者さんに福音をもたらすことになりました。難治性あるいは治療抵抗性の低悪性度B細胞リンパ腫が消失するケースが出てきたのです。
放射免疫療法は、悪性リンパ腫の治療法のうちで1番新しい治療法です。治療対象は、悪性リンパ腫の半分を占めるB細胞性非ホジキンリンパ腫のうち、ゆっくりと進行する「低悪性度」のものになり、ろ胞性リンパ腫、MALTリンパ腫、小細胞性リンパ腫、そしてマントル細胞リンパ腫の4つがあります。
がん細胞に結合し放射線で死滅させる
放射免疫療法は、免疫療法がベースになっています。免疫療法には、抗CD20抗体が使われます。これはB細胞性リンパ腫のがん細胞の上にあるCD20というタンパクを認識するワクチンです。そのメカニズムはこうです。
CD20にワクチンがくっつくと、がんを攻撃するキラー細胞がくっつき、タンパクを分解する酵素を出します。または、火薬のような「補体」がワクチンに取りつき、がん細胞にいくつも孔を開けて死滅させます。
この免疫療法に放射線療法を加味し、多発、または抗がん剤に抵抗性のある再発がんにも効く治療として考え出されたのがゼヴァリンによる放射免疫療法です。
CD20を認識するワクチンに放射性物質(イットリウム90)を結合させると、身体中でCD20分子を発現する敵にくっつき、放射線をかけてくれます。チウキセタンというタンパクが、ワクチンと放射性物質との橋渡しをします(図2)。
イットリウム90は半径5ミリの範囲で飛散し、リツキシマブ単体では破壊できないがん細胞や、周辺のがん細胞も死滅させることができます。放射線はさまざまな方向から交差し、がん細胞を貫きます(図3)。イットリウム90は比較的弱い放射性物質ですが、局所で働くので十分に効果があります。
また、健常組織へのダメージが小さいため、1度放射線をかけた部位にもゼヴァリンを使うことができますし、逆に、ゼヴァリンの治療後にも放射線治療は可能です。また、患者さんのそばにいる人が被曝することはありません。
この治療法は、当初大腸がんや卵巣がんに対して考案されましたが、それらのがんにはCD20のような、安定した標的がないために、効果が不十分でした。悪性リンパ腫で、初めて放射免疫療法が有効的に使われるようになったと言えます。
ただし、照射距離が5ミリですから、直径5センチを超えるような大きな腫瘍には効果が乏しい場合があります。従って、腫瘍が大きい場合は、事前に抗がん剤治療などで腫瘍を小さくしてからゼヴァリンを使うこともあります。
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