ヨガが死への恐怖や悲しみから自分を守ってくれた 子宮頸がんステージⅢBが重粒子線治療で完治

取材・文●髙橋良典
発行:2021年7月
更新:2021年7月

  

吉川直子さん ACC交流学園校長

よしかわ なおこ 1964年静岡県富士宮市生まれ。1986年千葉大学教育学部卒業後、小学校講師、塾講師を経て2000年ACC交流学園日本語講師。2019年静岡県立大学国際関係学研究科修了。2021年4月よりACC交流学園校長に就任、現在に至る

吉川直子さんは2018年、子宮頸がんステージⅢBと診断され、治療法は化学療法しかないと宣告された。ところが主治医から自分もよく知らないが「重粒子線治療」というものがあることを聞かされ、千葉の病院に入院。5週間の重粒子線と化学療法併用療法で、がんは消滅して退院することができた。うれしい結果をもたらしてくれたのは重粒子線治療だが、それだけではないと確信していると言う吉川さんに話を聞いた。

「手術で取ってしまえば終わり」と思っていたが……

日本語学校の教室で

現在、静岡県富士宮市の日本語学校校長の吉川直子さんに子宮頸がんが見つかったのは2018年8月のことだった。その1年前から生理不順があり、年齢的にもそろそろ生理も終わりかなと思っていた。ところが、しばらくしてまた出血があるという状態が続いていた。

当時、静岡県立大学国際関係学の大学院生だった吉川さんだが、授業が先生の都合でたまたま休講になって時間が空いたこともあって、娘さんを出産した産婦人科の病院で診察してもらうことにした。

予約もなく訪れたのだが、快く診察をしてもらうことができた。

医師に事情を話して、組織検査をしてもらうと「どうも怪しい細胞がある」と言われた。

産婦人科病院から富士宮市立病院を紹介されて、市立病院を受診した。そこで精密検査を受け、子宮頸がんの疑いがあると告げられた。

この病院では手術が出来る設備がなく、どこまで浸潤しているかわからないので、詳しく検査してもらって診断を仰いでほしいと、静岡県立静岡がんセンターを紹介された。

吉川さんは娘さん2人を同行させ、診察室にも一緒に入って医師の説明を3人で受けた。

娘2人を同行させたことについて吉川さんはこう話す。

「1人でがんの宣告を受ける自信がなかったのでしょうね。それにしても娘2人に、いきなり『一緒に来い』と言って、病院に連れて行ったのは本当に乱暴だったなー、と思いますね」

「静岡がんセンターからの帰りに喫茶店に入って、3人で『さてどうしたものか』というような話をしたように記憶しています。ただその時点では手術をして取ってしまえば終わりで、仕事は1カ月ぐらい休むことになるのかな、としか考えていませんでした」

重粒子線治療を勧められる

後日、静岡がんセンターでPET-CT撮影などの検査をした結果、ステージⅡ~Ⅲだろうと言われていたが、がん細胞は膀胱までは浸潤してないが、骨盤までには浸潤していてステージⅢBの子宮頸がんと診断され、手術での切除は難しく「治療法は化学療法しかない」と告げられた。

それを聞いて落胆を隠せなかったが、主治医から思いがけなくこう訊ねられた。

「自分はよくはわからないけど、重粒子線治療がいいらしいと聞いています。もし興味があるなら調べておきますが、どうしますか」

ところで重粒子線治療とはどんな治療なのか。そもそも重粒子線とは何なのか。

重粒子線は放射線の一種で、放射線には大別して電磁波と粒子線があり、電磁波にはよく知られているX線やガンマ線、粒子線には陽子線、重粒子線、中性子線などがある。重粒子線治療とは重粒子線のうち主に炭素イオンを光の速度の約70%まで加速させて照射し、がんを攻撃する治療で、従来の放射線治療に比べ2~3倍の効果があり、ピンポイントで照射できるため副作用は少なく正常な器官への影響も少ない。現在、国内に7カ所の治療施設がある。ただし、頭頸部がんや前立腺がん、骨軟部腫瘍など一部のがんを除いて保険の適用はなく、自費診療になる。

重粒子線治療がどんな治療かまったく知らなかったが、とにかく主治医のその言葉にすがるしかなかった。後日、主治医は横浜にある神奈川県立がんセンターと千葉にあるQST病院(旧放医研)の2つを紹介してくれた。

「その重粒子線治療を行なうと、あなたの生存率が1番高くなると思いますよ」と吉川さんに伝えた。

吉川さんは紹介された2つの病院のうち千葉にあるQST病院を選ぶ。それは出身大学である千葉大学の隣りにあったことで、なんとなく親近感を感じたし、土地勘があったからだ。

診察の結果、9月下旬に入院するまでの間、がんに対する知識がまったくなかったので、とにかくがんについて知るためにがんに関する書籍を読んで過ごした。それらの書籍の多くに、がんに打ち克つためにはとにかく免疫力を向上させることだと書かれていた。

そこで吉川さんは体を温めること、体を動かすこと、深く呼吸すること、食事に気をつけることなど手あたり次第に実践する。とにかくがんにいいと思われることは玄米菜食、断酒はもちろんのこと、挙句には神頼みや除霊までも行ってみた。

しかし、神頼みを馬鹿にしてはいけない。そのお陰かどうかはわからないが、いいことがあった。

重粒子線治療は先進医療で、自分はその「先進医療特約」をつけていないと思い込んでいた吉川さんは、治療費は1,000万円近くするのではないかと覚悟していた。ところが調べてみると314万円だったので、むしろ安いと感じた。

しかし、入院後、夫の知り合いに相談して、加入している保険を調べてもらうと重粒子線治療が受けられる「先進医療特約」に加入していたことがわかり、治療費は保険でまかなえることになったからだ。

入院中、毎朝ヨガとウォーキングを

体を動かすことが、がん治療にもいいと思っていた吉川さんは、入院中にも何か体を動かすことができないか考えていた。そのとき10年前から始めていたヨガなら無理なくできるのではないかと思い立ち、毎朝5時に起床して共有スペースでヨガをすることにした。

「大きな窓の前に立って外を眺めながら、自分が覚えているポーズを自分のペースで行いました。通っていたヨガスタジオのレッスンが1時間だったので、先生の指導を思い浮かべながら自己流でやっていました。6時ごろになると窓の外に朝日が昇ってきて、その光を浴びながら『山のポーズ』をして、がん細胞を攻撃するNK細胞をイメージしたりしていました。最後は『屍(しかばね)のポーズ』を5分ほどやって終了にしていました」

1時間ほど自己流のヨガをした後は、病院内の敷地を1時間かけてウォーキングもした。

「敷地内には治療棟のほかにいくつかの研究棟や研究者たちの宿泊棟、ヘリコプターの発着場などがあって、かなり広くウォーキングするには十分すぎるほどの広さでした。また、敷地のはずれには夏ミカンと柿の木があってウォーキングのたびに捥(も)いで食べていましたね」

病院の窓から朝日を浴びながら1時間ヨガを行っていた

QST病院の敷地で拾ったものを病室に並べて

吉川さんは土日に外泊する以外、毎日これをルーティンワークにしていたおかげで、抗がん薬のシスプラチンによる副作用などでの体調不良もほとんどなく、食事も毎回完食でき、入院仲間と食堂などでおしゃべりも楽しむことができたという。

入院する前、吉川さんは、がん患者の集まりだからすごく暗い雰囲気なのかな、と思っていたのだが、入院している患者さんは皆さん明るかったという。

「それは何故なのか考えてみると多分、皆さんがんの告知を受けてその苦しみを乗り越えて、ここでもう治るんだと思ってこの病院に来てらっしゃるからだと気づきました」

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