腫瘍内科医のひとりごと 128 治療を休みたい しかし……

佐々木常雄 がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長
発行:2021年8月
更新:2021年8月

  

ささき つねお 1945年山形県出身。青森県立中央病院、国立がんセンターを経て75年都立駒込病院化学療法科。現在、がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長。著書に『がんを生きる』(講談社現代新書)など多数

Kさん(63歳 男性)は悪性リンパ腫と診断され、治療が行われて1年。いまだに腹腔内に腫瘤が残っています。

Kさんのお話です。

悪性リンパ腫の10年生存率はどうしてない?

自分が、がんになって、そして、よりによってコロナ流行が重なって、これも運命だと思って頑張るしかない、と思ってきました。

30年間、車の販売会社に勤め、定年後は妻と好きな旅行に行きたいと思っていましたが、病院に行く以外は家でじっとしています。行ってみたい寺院、仏像などの写真集を見ている毎日です。

新聞は死亡記事が気になります。ある有名な方が悪性リンパ腫との病名だったことがとても衝撃でした。

先日の新聞では、がんの10年生存率が59.4%と載っていました。胃がん、大腸がん、乳がんなど、それぞれステージ毎に書いてありましたが、悪性リンパ腫は載っていませんでした。

「どうしてなかったのですか」と担当医に聞いてみました。

「悪性リンパ腫はたくさん種類があって、全体でくくっても意味がありません。Kさんのリンパ腫の場合は、完全に消すことが長期生存に繋がります」と言われ、それ以上は聞けませんでした。

この暑い日に外に出て、電車に乗るのは抗がん薬治療のため、とは考えてもみませんでした。しかも、今回のCT画像でも、悪性リンパ腫の塊は小さくなっているのに、なかなか消えきらないのです。

お腹が時々キリキリする度に、「大きくなったのか?」、とビクッとしますが、それでも痛みはまもなくおさまります。

先日、担当医から「薬を変えてみましょう」と言われました。こんなに頑張ってきたのに、こんどは新しい薬だそうです。担当医にそう言われると、そうするしかないと思うのです。

こんなに我慢して頑張ってきたので、少し治療を休みたい、と思っていたのですが、そうは言えませんでした。

妻は「そう、頑張りましょうよ」と言って、私の話を聞いてくれます。

しかし、それ以上、何も言ってくれないのが、有難いと思ったり、逆に腹が立ったりしています。

カボチャでさえ頑張っている

「おとうさん、降りてきて、見てごらんなさいよ。たくさんカボチャが出来ていますよ。ほら!」

庭の小さな畑に、この春、妻が初めてカボチャを植えたのでした。私は、ここのところ、ほとんど縁側から庭には降りずにいました。

仕方なしに、言われた通りに長靴を履いて見に行きました。黄色い花がしおれ枯れていましたが、葉の陰に、縦に縞のあるカボチャが大きいのでは直径15㎝くらい、小さいので5㎝くらいのがたくさんなっていました。

こんなに暑いのに、手入れもしていないのに、こんなに固く、立派に出来ているのには驚きました。自然はすごいな、もっと大きくなって、秋には、きっとおいしく食べられるのかなと思いました。

みんな自然の中で生きている。カボチャも自分も同じ自然の流れの中なのだ。「カボチャでさえも頑張っている」。そう考えて、無理やり自分自身を納得させていることに気づきながらも、なんとなく明るい気持ちになっていたのでした。

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