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診療科の垣根を取り払い、「患者中心」の医療を実践
癌研有明病院消化器センターのキャンサーボード
癌研有明病院(東京都江東区、700床)
まだまだ発展途上の未来都市空間、ゆりかもめの有明駅の左手に高くそびえ立つ真新しいビルに足を踏み入れると、木目調の床にゆったりとした椅子が並べられていた。一見、ホテルのロビーのような雰囲気。そこを過ぎると天井から光を取り入れた吹き抜けのフロアがあり、右隅にグランドピアノが置かれ、壁には絵画が飾られている。ただ、フロアには何も置かれていない。大規模災害が起きたときにケガ人などを収容するベッドが並ぶスペースだ。
ここは、3月1日に開院したばかりの癌研有明病院。がんの専門病院であると同時に、大規模災害の拠点病院として地域の医療に貢献している。
まるでホテルのロビーのような病室の共有スペース
癌研は70年前に日本唯一のがん専門病院として29床からスタートし、長年、豊島区上池袋の歴史を感じさせる病院で診療を行ってきた。が、臨海副都心、有明の地に移転し、700床の近代的な病院へと生まれ変わった。
癌研は設備が新しくなっただけではない。癌研有明病院の武藤徹一郎病院長が、「未来を担う理想の病院を目指す」と掲げているだけに、最先端の医療システム&スタイルを確立している。その一面を垣間見たのは、1階のフロアを通り抜けた吉田富三記念講堂においてであった。
診療科の垣根を越えて医師たちが集結
消化器センター長の山口俊晴さん
正面ステージに大きなモニター画面のある講堂内に、木曜日の午後5時30分、癌研有明病院の医師たちが集まってきた。同病院の消化器センター長・山口俊晴さん(兼同センター消化器外科部長)を中心に、内科、外科、放射線科など、科の垣根を超えた30人近い医師たちが顔を揃えている。これは、毎週1回開かれる「消化器キャンサーボード」。センター化されているので科の垣根がとりはらわれている。そして、治療方針に関する総合的な話し合いが行われている。
一般的に多くの病院では、治療方針について話し合うのは、外科ならば外科医同士。あらゆる角度から症例に対し客観的に検討するのはセンター化の良さである。
この日、キャンサーボードに取りあげられた症例は2例。
1例目は胃がんが再発した男性である。他の病院で、昨年春に胃全摘出と脾臓摘出、リンパ節切除の治療を受けた。しかし1年後、膵臓近くのリンパ節に直径2センチのがんが再発。初回の診療でセカンドオピニオンを担当した山口さんの元へ、今度は、治療もお願いしたいとの依頼であった。
正面モニターには、カルテやCT画像が映し出され、これまでの治療の過程や現在のがんの状態などが説明される。ただし、「消化器キャンサーボード」の対象は、治療のガイドライン(標準治療)に当てはまらない症例。通常、胃がんの再発でリンパ節転移があれば、手術ではなく化学療法が適用される。ところが、この男性の場合リンパ節転移が1カ所だけなので、手術が行えるのでは、という担当医の考えからだった。
「外科の先生としては、手術で切除するほうが予後が良いのではないかという意見です。他の選択肢として、化学療法、放射線治療の選択肢はありませんか?」
司会進行役の医師が意見を促す。それを受けて、外科の山口さんが言う。
「初回手術の所見で、がんの深さが筋層までと比較的浅いこと、リンパ節郭清もきちんと行われていることから、1カ所だけの再発であれば切除後の長期生存例が報告されています。私自身も治癒した症例を経験しています。ただ1つ迷うのは、初回の治療でリンパ節転移が数カ所あったという点です。今回は膵臓のところから1カ所で、これは初回の治療で取り切れずに残ったものではないかと考えられ、1年経って他に転移がなければ、手術できれいに取れるのではないかと考えています。放射線治療を行って良い成績が得られたという報告もあります」
司会進行役の医師は、「放射線科の先生、どなたかご意見は」と意見を求める。参加した医師からは、「手術を先行して化学療法」あるいは「術前に化学療法や放射線を行う意味は?」といった意見が出され、さらに、「再発治療のエビデンス(科学的根拠)はありますか?」と。それを受けて山口さんは、「放射線治療や化学療法は、これで完治するというエビデンスはあまりない。こういう症例は非常に悩む。たくさん転移があれば手術をしないが、今回は患者さんが完治する可能性が少しでもある方法をということであれば手術が良いと思います。癌研としては今後このような症例に対する治療の方向性を示せるように、エビデンスを積み重ねるべきではないか」と意見を述べた。
話し合いの結果、肺への転移がなければ手術を先行し、手術時に画像には映し出されない転移が見つかれば、術後に化学療法をとの意見でまとまる。
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