仕事と治療を両立させる外来化学療法
医療技術や薬剤の進歩により入院治療から外来・在宅治療へ
東海大学医学部乳腺・
内分泌外科学教授の徳田裕さん
勤め先の公休日に抗がん剤治療を受ける
乳がんを再発させた吉田尚子さん(49歳・仮名)が、東海大学医学部付属病院オンコロジーセンターの外来化学療法室に通い始めたのは今年の5月からだ。毎週水曜日は朝9時に乳腺外科の主治医の診察を受け、その後、5階の外来化学療法室にあがる。ベッドに横たわり、3~4時間かけて分子標的治療薬のハーセプチン(一般名トラスツズマブ)と抗がん剤のタキソール(一般名パクリタキセル)の投与を受けるのがいつものコースである。
吉田さんが乳がんを発病させたのは3年前の46歳のときだ。病期2B期の早期がんのため乳房温存療法を受けたが、今年の5月に肺と腰椎への再発を招いた。
医師から再発を告げられたときは、さすがにみっともないほどうろたえた。肺など他臓器へ再発したら、もう治る可能性はほとんどないと熟知していたからだ。先がないことの絶望感にうちひしがれたたものの、「いくらでも再発の治療法がありますから頑張りましょう」と主治医に励まされ、乳がんの外来化学療法を受けることになったのである。
現在、HER2陽性の再発乳がんに有効とされるハーセプチンとタキソールの併用療法だが、吉田さんもそれを受け始めた。2つの薬はかならず毎週1回投与し、治療効果が認められる限り継続する。
幸いなことに吉田さんにはハーセプチンとタキソールの併用療法がよく効いた。肺と腰椎の転移巣は徐々に縮小し始め、それと同時に腰の痛みも和らぎ出したのだ。
現金なものだが、症状が改善するにつれて気分も明るくなり、再び生きる希望が芽生えてきた。紳士服売り場を任されてきた会社(デパート)を1度は退職しようと思い詰めていたが、一転、「外来化学療法ならこれまでと同じように働き続けられる」との自信もついてきた。毎週外来化学療法室に通う水曜日は、デパートの公休日でもある。
新薬の登場により大きく様変わりした抗がん剤治療
患者1人ひとりの元を回り、病状を聞きながら処置を施す徳田さん
東海大学病院にオンコロジーセンターの外来化学療法室が創られたのは一昨年の2002年だ。
「ベッドが21、リクライニングシートが6、計27床で、月に500~600人のがん患者さんが通院外来の抗がん剤投与を受けています」と東海大学医学部乳腺・内分泌外科学教授の徳田裕さんは語る。
スタッフの医師は外科や内科、婦人科等の各科の腫瘍専門医が持ち回りであたり、看護師はがん化学療法のベテランを配置している。 現在、外来化学療法を受けている患者の約3分の2が乳がんだ。次に肺がん、リンパ腫等の血液腫瘍、卵巣がん等の婦人科がんなどが続く。
毎月平均500人ほどの患者が訪れる。このうち乳がん患者が3分の2をしめる
「乳がんの患者さんが大半を占めるのは、乳がんの化学療法が比較的、副作用の少ない抗がん剤を使用できることや、効き目の高い抗がん剤が他のがん種と比べて多いこと、その結果、症状の改善と延命効果が得られ、長期にわたって化学療法を受けられるからです」(徳田さん)
説明と同意文書と共に患者に渡される。同一のものが担当医、
薬剤師にも渡され、抗がん剤投与は厳密に行われる
乳がんの化学療法は手術の前に行う術前化学療法と、手術の後に行う術後補助化学療法、さらに全身に転移している進行がんや術後に再発をきたした再発がんに対する化学療法の3つがあるが、いずれもすべていまは外来で受けられる。キー・ドラッグはアドリアシン(一般名アドリアマイシン)やファルモルビシン(一般名エピルビシン)等のアントラサイクリン系抗がん剤と、タキソールやタキソテール(一般名ドセタキセル)等のタキサン系抗がん剤、分子標的治療薬のハーセプチンである。
「乳がんの化学療法といえば少し前まで*CMF療法が主軸でしたが、アントラサイクリン系抗がん剤を組みこんだ*CAF療法や*CEF療法等の多剤併用療法のほうが高い治療効果を得られると確認されたことや、新たにタキサン系抗がん剤やハーセプチンが登場して大きく様変わりしたのです」(徳田さん)
*CMF療法=シクロホスファミド+メトトレキサート+フルオロウラシル
*CAF療法=シクロホスファミド+アドリアマイシン+フルオロウラシル
*CEF療法=シクロホスファミド+エピルビシン+フルオロウラシル
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