「腕を温める」「希釈液を増やす」……
さまざまな工夫で大腸がん患者さんの苦痛を和らげる
XELOX療法の副作用「血管痛」はこうして乗り切ろう!!
現在、進行・再発大腸がんの標準治療の1つとして、エルプラットを含むXELOX療法が広く行われています。
3週間に1回の通院で済むことから患者さんへの負担が少なく、簡便な治療として喜ばれています。
しかし、一方で点滴した腕などに痛みを訴える患者さんが多いこともわかってきました。
そこで、この副作用の問題に先進的に取り組んでいる医療従事者のみなさんにその対策を話し合っていただきました。
1984年大阪大学医学部卒業。94年より現職。07年より外来化学療法室長。日本消化器外科学会評議員、日本臨床腫瘍学会暫定指導医
2003年大阪薬科大学卒業。国立病院機構大阪医療センター薬剤科入職、現在に至る
1996年岡山大学医学部卒業。01年より現職。日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医
1981年岡山大学医学部卒業。四国がんセンター臨床研究部長などを経て、05年より現職。日本臨床腫瘍学会評議員、日本癌治療学会代議員
1996年徳島大学薬学部卒業。同年より現職。07年よりがん専門薬剤師。10年徳島大学大学院医科学教育部修士課程修了
1994年四国がんセンター入職。05年がん化学療法看護認定看護師の認定を受け、同年より外来通院治療室にて勤務
1991年徳島大学医学部卒業。関連病院、MD Anderson Cancer Centerを経て、02年より現職。外科関連専門医、評議員。医学博士
XELOX療法の普及で血管痛が問題になった
兵頭 エルプラット(一般名オキサリプラチン)を含むXELOX療法が大腸がんの標準治療の1つになったことで、血管痛と呼ばれている副作用が問題になってきました。本日は、その対策についてご検討いただきたいと考えています。
エルプラットが原因と考えられるこの副作用は、FOLFOX療法の場合、エルプラットはポートを用いて中心静脈から投与する方法を用いる場合が多かったため、問題とはなりませんでした。ところが、XELOX療法はエルプラットと経口フルオロウラシル系薬剤のゼローダ(一般名カペシタビン)との併用のため、ポートが必要ではなく、エルプラットを腕の末梢血管に点滴投与します。
この治療法の登場で、患者さんにはより負担の少ない治療法が行き渡るようになったのですが、その一方で、投与した腕に痛みを訴える患者さんが多いこともわかってきました。痛みは必ずしも血管に沿ったものだけではないようですので、これを血管痛と呼ぶことが適切かどうかはわかりませんが、まずは多くの施設で確認されているこの症状について、それがどのようなものか、定義づけておく必要があるでしょう。
薬剤による刺激以外の原因もありそう
仁科 血管痛については、症状をきちんと把握し、何によって起きている痛みかを明らかにすることが対策につながります。
XELOX療法を行う前からわかっていたのは、エルプラットを投与する際に用いる5パーセントブドウ糖注射液のpH(水素イオン指数。7が中性で、それより値が低ければ酸性、高ければアルカリ性を示す)が低いことで、血管に障害が起こりうる可能性があるということでした。ただ、それによる静脈炎なら、点滴の針を刺した部位の中枢側(心臓に近い側)に起こるはずですが、それだけではなく末梢側(指先に近い側)まで、ピリピリ、チクチクと痛み、冷感があるという患者さんもいます。エルプラットの副作用として末梢神経症状が知られていますが、このような患者さんの場合、急性の末梢神経症状も関わっているのではないかと考えられます。
森 血管痛とは、血管が薬剤のpH、浸透圧、濃度などによる刺激にさらされることで生じる症状と捉えています。通常は薬剤の通るところに痛みが生じますが、エルプラットの場合、針を刺した部位より指先側に痛みを訴えるケースもあり、別の何かが起きているのではないかと考えられます。
三嶋 XELOX療法の血管痛とは、「薬液が静脈を流れる際に生じる静脈痛」を指し、点滴を受けた患者さんが「腕の痛み」として訴えるもののなかから、薬剤が漏れ出る「漏出」や血管が炎症を起こす「血管炎」を除外したものと、私は考えています。
石倉 これまで想定されていなかった血管痛という問題が、多くの患者さんに起こったため、薬剤師を中心に調べてもらいました。この痛みは、針を刺した部位の周辺関連痛のようなもので、神経や血管もからんでいると思っています。
兵頭 3施設からのお話を、整理してまとめてみますと、エルプラットを末梢静脈に点滴した際に起こる痛みを伴う症状には、このようなものがあります(図1)。いずれも患者さんのQOL(生活の質)を低下させたり、治療の継続を困難にさせたりし、何らかの対策が求められています。
7割程度の患者さんに何らかの問題が生じている
兵頭 この血管痛はどのくらい起こっているのですか。石倉先生、多くの患者さんに起こると言われましたね。
石倉 正確なデータはありませんが、軽い症状を含めると7割くらいという印象です。ただ、がまんしている患者さんがいるかもしれませんので、かなりの確率だと思います。
三嶋 痛みがある、不快感があるという患者さんは、ほぼすべてと考えていいと思います。臨床上、対処しなければいけない患者さんが、1回目の投与で3割くらい、2回目以降では7割くらいと感じています。
仁科 細かいところまで見ていけば、何らかの反応がほぼ全例に現れています。そのなかで、治療継続が困難となる患者さんは、10人中1人か2人でしょう。
針の刺す部位、太さも大事
兵頭 では、対策について話し合いたいと思いますが、具体的な症例も紹介していただきながらお話しください。まず、四国がんセンターから――。
仁科 エルプラットの投与経路ですが、当院では原則として、ポート留置による中心静脈からの投与をお勧めしています。pHの点からも、5パーセントブドウ糖注射液を希釈液として用いるエルプラットは、基本的には末梢血管からの投与に向かないと考えられるからです。末梢血管から投与する場合は、適切な部位に針を刺したり、針の太さの選択が大事になります。
森 あくまで経験的なものですが、肘下の部位に点滴する場合には、親指側の血管より小指側の血管のほうが、痛みが起きにくい傾向があります。また肘下より、肘から肩にかけての部位に投与したほうが血管も太く、症状が現れにくいようです。
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