- ホーム >
- 連載 >
- コラム・レポート >
- 腫瘍内科医のひとりごと
腫瘍内科医のひとりごと 140 間質性肺炎……免疫チェックポイント阻害薬の副作用
Aさん66歳男性、進行肺がんと診断され、がんの塊は両側の肺に認め、手術は無理で、薬物治療となりました。
抗がん薬治療では、3~4週を1サイクルとして、4クールの予定で開始されましたが、最初の1クール目でがんは増大し、効果なしと判断され、免疫チェックポイント阻害薬に変わりました。
3週間に1回の投与の繰り返えしで、2回目で奏効していることがわかり、3回目ではがんはわずかな影を残すのみとなり、何事もなく治療が続けられました。
抗がん薬治療では、食欲不振、白血球減少などの副作用があったのですが、免疫チェックポイント阻害薬では、自覚症状、血液、肝・腎障害などまったくありませんでした。
免疫チェックポイント阻害薬が奏功していたが……
2年ほど続いたところで、このまま治療を続けるのか、投与間隔を空けて治療するか、あるいは中止にするのかなど医師チームでは議論されていました。
免疫チェックポイント阻害薬は、効果があった場合、いつまで続ければよいのか、明らかになっていません。
そのある日、Aさんは急に息苦しさを感じ、治療を受けている病院に行きました。CT検査で、両側肺にすりガラス様の陰が出現しており、間質性肺炎と診断されました。酸素飽和度86%と下がり、コロナのPCR検査は陰性で、担当医は薬剤(免疫チェックポイント阻害薬)によるものと考え、そのまま入院、酸素吸入とステロイドホルモンの投与が開始されました。
幸い、翌日から呼吸は楽になり、3日目には、酸素吸入は必要なくなり、間質性肺炎の陰は好転し、ステロイドホルモンは減らして、7日目には退院、外来通院となりました。
ところが、5週間後、再び呼吸が苦しくなり、救急外来に行き、再入院となりました。
CT検査では、間質性肺炎が再び悪化していました。酸素吸入を行い、担当医がステロイドホルモン量を倍増したところ、呼吸は楽になってきました。
今度は、ステロイドホルモンの量を慎重に減らし、約1カ月後退院、さらに少しずつ漸減することになりました。
免疫システムの解明はまだまだ
副作用による間質性肺炎は、5%弱のようですが、なかには重症になる方もおられます。また、治療開始して、早い時期に起こる方のほうが多いようですが、Aさんのように、副作用が全くなく、2年ほど経過し、その後にこのような間質性肺炎が起こることもあるのです。
ステロイドホルモンが有効ですが、Aさんのように、再燃を起こす場合があり、慎重に漸減することが大切のようです。
免疫チェックポイント阻害薬の体への作用が、よくわかっていないこともあるのです。薬が肺の組織を障害しているのではなく、自己免疫が関与しているのかも知れません。
しかし、抗がん薬では全く効かなかったがんに著効する、がんが消える方もおられます。
このような副作用に遭うと、人間の体、免疫システムはまだまだわかっていないことを実感します。