腫瘍内科医のひとりごと 142 1回だけの治療でがんが消える治療!

佐々木常雄 がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長
発行:2022年10月
更新:2022年10月

  

ささき つねお 1945年山形県出身。青森県立中央病院、国立がんセンターを経て75年都立駒込病院化学療法科。現在、がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長。著書に『がんを生きる』(講談社現代新書)など多数

コロナ流行が続いてもう3年になります。マスク、手の消毒はやっても、人流を制限しないで、本当に大丈夫なのだろうか? 特効薬はなく、亡くなる方もたくさんおられ、毎日、夕方の感染状況の報告が気になります。

若いころのがん治療への夢想

なにか、もっと楽しい、良い話題はないものだろうか?

私は、腫瘍内科医として抗がん薬治療に明け暮れしてきました。

40年前、私たちは「30年後、あるいは40年後には、がんは解決している。きっと40年も経ったら、すべてのがんは薬で治る時代になっているだろう。私たちのがん治療の仕事はなくなる」、そんな漠然とした夢を描いていました。

急性白血病になった患者さんは、我慢して、我慢して治療を受け、治った方もたくさんおられます。残念ながら亡くなった方もおられます。

慢性白血病では、内服治療で効果のある方は、長期生存が可能となりました。

しかし、すべてのがんはそう簡単には治ってくれません。

固型がんで、手術で切除できれば良いのですが、進行したがんでは、転移があってそのようにはいかないことが多くあります。

がんの薬物治療においては、抗がん薬の時代から、分子標的治療薬、そして免疫チエックポイント阻害薬(ICI)と免疫治療の時代へ進んできました。末期的病状の方でも、起死回生、元気で長く生きる方も増えてきました。

ICI治療では、みんなに効く訳でもないのですが、うまく効いて画像からがんが消えた場合でも、その後、何回治療をすれば良いのか?

たとえば、ICIの2回の治療で肺の影が消えた後、1年ICIの治療を続け、止めたら再発し、また治療を開始したら再度消えた方がおりました。

がんが消えてから、さらにどれくらいの期間治療すれば治ったと言えるのか、わかってくるにはまだ時間がかかるのではないかと思います。

たった1回だけの治療でがんが消える治療法も

CD19陽性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫、B細胞性急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)という特殊な血液がんに対して、「CAR-T細胞療法」という免疫療法があります。

患者さん自身のリンパ球の中のT細胞(免疫細胞)を取り出し、遺伝子改変操作で、CAR(キメラ抗原受容体)と呼ばれる特殊なタンパク質を作り出すことで、がん細胞だけを選択的に攻撃ができるようにしてから、このCAR-T細胞を患者さん自身に投与する治療法です。

これは、たった1回だけの治療です。私は、2年前にこの治療法で、がんが消えた方がいることの報告を知りました。

非常に高価な治療だとしても、しかし、たった1回だけの治療法なのです。そのとき、がん細胞が消えたとしても、その方はそれで完治したのだろうか?

私は、CAR-T細胞療法を担当している医師に聞いてみました。

「がんが消えて、長期に生存されている方もおられますが、再燃される方もおられます。長期生存者が根治しているのか、免疫による寛解なのかは判断が出来ないところがあります。再燃の機序として、CD19消失やCAR-T細胞への耐性が言われています」とのことでした。

このように、たった1回だけの治療で、がんが消える治療法もあるのです。がんの種類によって、いろいろな治療法が出現し、治療選択ができる時代になってきました。たとえ進行したがんでも、元気で長く生きられる方が増えてきていることは間違いありません。

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