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肺がん(中分化型扁平上皮がん)/胸部エックス線検査&CT検査
影の質感と形、濃淡、位置で骨や血管、感染症とを峻別する

監修:森山紀之 国立がんセンターがん予防・検診研究センター長
取材・文:黒木要
発行:2009年7月
更新:2013年4月

  
森山紀之さん

もりやま のりゆき
1947年生まれ。1973年、千葉大学医学部卒業。米国メイヨークリニック客員医師等を経て、89年、国立がん研究センター放射線診断部医長、98年、同中央病院放射線診断部部長で、現在に至る。ヘリカルスキャンX線CT装置の開発で通商産業大臣賞受賞、高松宮妃癌研究基金学術賞受賞。専門は腹部画像診断

患者プロフィール
65歳の男性Bさん。咳がなかなか止まらないので、近くの病院にて診察を受けた。胸部エックス線検査を行ったところ、左の肺の肺門部(中央付近)よりやや頭側に大きな白い影が写り、がんの疑いが強いと指摘された。国立がん研究センターを紹介され、再検査を受け、左肺の上葉(上のほう)にがんが発見された

健常な肺胞は黒く、腫瘍は白く写る

エックス線検査写真の矢印で示した部位が、がんの疑いがもたれる影です。エックス線写真では、腫瘍は白く写ります。

「骨や血管なども、同様です。エックス線を照射すると体を透過した放射線はフィルム(最近は検出板を使用することが多い)に当たって陰影を写すのですが障害物がなかったり、少なかったりするほど濃い黒になります。したがって健常な肺胞は黒く写り、腫瘍は白く写ります」

エックス線写真のメカニズムを頭に置き、もう1度、矢印で示されたがんと思しき影を見ると、影の白さが前回まで紹介したがんより、はるかに濃い白であることがわかります。

「隣接した大きな血管(大動脈弓)よりはいくぶん薄い色ですがスカスカではなく、しっかりとした濃さがあります。このことは、腫瘍のボリューム(体積)がそれなりにあることを示しています。腫瘍が小さく、薄いと空気を含んでいることが多く、その場合は透視図のようなスカスカの白い影となるのです」

検査写真にある白い影ががんであれば、それなりの質量を伴った進行がんの可能性が高いと想像されます。この影がなぜがんの疑いが強いとわかるのかについては、まず影の輪郭がギザギザとしていびつであること。次に白いかたまりの中にも濃い部分、あるいはいくぶん淡い部分が幾重にもあることです。

「特徴が写真では顕著に出ており、がんを疑うには充分な状況証拠になっています」

Bさんのケースは、エックス線写真で、がんの診断がほぼついてしまう典型例といえるようです。

中分化型扁平上皮がんの胸部エックス線検査写真
中分化型扁平上皮がんの胸部エックス線検査写真
解説イラスト
矢印で示した部位が、がんの疑いがもたれた影

CT検査で治療方針を決める

エックス線検査写真で目立つのは大動脈弓と腫瘍がぴったりとくっついている点で、がんが血管にかなり食い込んでいるのではないか、と心配になります。その程度はエックス線写真ではわからないので、CT(コンピューター断層撮影装置)検査を撮ることになります。がんの存在を確認して、同時に浸潤の具合を見る検査です。治療方針を決める検査ともいえます。さて、そのCTの検査写真を見ると、予想通り、腫瘍はしっかりとした質感を示しています。一定の厚さを持っているのは間違いありません。

がんと大動脈弓の境の黒い線を見る

中分化型扁平上皮がんのCT検査写真
中分化型扁平上皮がんのCT検査写真
解説イラスト
矢印のがんと大動脈弓の境の黒い線は、
がんが血管壁の外側にとどまっていることを示している

大動脈弓との接点は、どうなっているのでしょうか。

「がんと大動脈弓の境に黒い線があるのがわかります。これはがんが血管表面に浸潤はしているものの、中には食い込んでおらず、血管壁の外側にとどまっていることを示しています。黒い線がなくなると、がんの浸潤の度合いは高くなり、血管の壁の中まで食い込んでいる可能性が高くなります」

Bさんの肺がんは、血管内まで及んでおらず、このことが治療方針を決めるうえで重要な指針となりました。

「がんを手術によって剥がせるのかどうか、は難しい判断になります。大出血の危険性があるからです。手術を断念して、抗がん剤や放射線療法をするという選択肢も考えられました」

検討の結果、国立がん研究センターでは手術によってがんを大動脈弓から剥がして、放射線治療と化学療法を併用するという治療方針が立てられました。手術のみでは、目に見えないがんが残る可能性がなくはないからです。手術でがんがどこまで剥がせたかは、取った腫瘍組織の端を顕微鏡で見ればわかります。

「切除した端の部分にがん細胞があれば、がんが残っている可能性が高くなります。こういう場合は切除の範囲を広げるか、放射線治療や化学療法を併用する治療法がよく選ばれます」

Bさんは手術後に放射線治療と化学療法を受けて、今は社会復帰を果たしています。ただ、がんは肺の壁を越えて左右の肺を分けている縦隔という臓器の脂肪組織にも浸潤していました。その部分は手術で切除したのですが、肉眼や画像検査では捉えることのできない微小がんが広がっている可能性が皆無ではないので、用心のため、定期的に検査を受けて様子を見ています。


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