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卵巣がん(粘液腺がん)・MRI検査
大きく膨らんだ嚢胞の中に、がんを示す黒っぽい充実成分がある

監修:森山紀之 国立がんセンターがん予防・検診研究センター長
取材・文:黒木要
発行:2008年2月
更新:2013年4月

  
森山紀之さん

もりやま のりゆき
1947年生まれ。1973年、千葉大学医学部卒業。米国メイヨークリニック客員医師等を経て、89年、国立がん研究センター放射線診断部医長、98年、同中央病院放射線診断部部長で、現在に至る。ヘリカルスキャンX線CT装置の開発で通商産業大臣賞受賞、高松宮妃癌研究基金学術賞受賞。専門は腹部画像診断

患者プロフィール
58歳のMさん。半年ほど前から、下腹部に違和感を持つようになった。触れてみると、左側の下腹部がやや膨らんでいるようでもある。鏡に写しても、やはりやや膨らんでいる。気になって近くの婦人科を受診。左右両方の卵巣にがんが見つかり、国立がん研究センターを紹介された。再度の検査で、左卵巣に13センチ、右卵巣に4.8センチのがんが確認された

腫瘍の性状を調べる検査として優れるMRI

卵巣がんが疑われる場合は、順序として腹部の触診や内診で当たりをつけます。

卵巣は親指の先ほどの小さな臓器ですが、がんになって進行すると、風船のように腫れることが多く、この有無を調べるのです。

「ただ3センチ以下のがんであれば、触診で触れるのは難しいので、最近は触診のあとに、あるいは触診を省略して経腟超音波検査を行うことが多くなりつつあります。腫瘍の大きさによっては腹部からの超音波検査を組み合わせます」(森山さん)

経腟超音波とは腹部にプローブ(探針)を当てる一般的な超音波検査と違い、腟へプローブを挿入して超音波を発射。その反響像をテレビモニターに映す方法です。

この検査で、卵巣腫瘍の存在をほぼ確認できるのですが、腸管(図を参照)にガスがあるときなどは映像が見にくくなり、良性腫瘍か悪性腫瘍か、わからないことがあります。

「そういった場合、一般には次にMRI検査を行います。腫瘍の性質を調べる、いわゆる質的診断です」(森山さん)

人体を左右に分割して腫瘍の性状を調べる

MRI画像

MRI画像。組織の違いによる鮮明な画像コントラスト(対比)により、腫瘍の存在や性状がわかる

MRI画像の解説イラスト

MRIは、任意の断面像を得られる、腫瘍と筋肉などの組織および水を区別する能力が高い点に大きな特徴があります。人体を左右(右側と左側)に分割することもできますし、前後すなわち腹側と背中側に分けることもできます。

「このMさんのMRI画像は人体を正面から見て左右方向に平行な断面画像で、これを冠状断面といいます。子宮や腸管との縦の位置関係がよくわかるのと同時に、MRIの特徴である組織の違いによる鮮明な画像コントラスト(対比)により、腫瘍の存在はもちろん、その性状がよくわかります」(森山さん)

検査画像の向かって右側に左卵巣、左側に右卵巣があります。

「左卵巣は風船のように大きく膨らんで、液体が溜まっています。白く写っている部分がそうで、粘液です。液体を持った腫瘍は嚢胞性の腫瘍といって、子宮内膜症に伴う内膜症嚢胞など、がんと鑑別しなければならない良性腫瘍があります」(森山さん)

良性嚢胞の可能性があるときは、日を空けて検査をして、腫瘍の成長の様子を追っかける経過観察となります。その過程で嚢胞が縮小して消失してしまうことがよくあるのだそうです。

ですが、このMさんの場合は、そうではありませんでした。

「嚢胞の下のほうに黒く写っている塊があります。充実成分といって、この部分ががんなのです。したがってこの腫瘍は粘液腺がんであるとの診断が容易につきました」(森山さん)

腹水の有無も鮮明に写す

一方の右卵巣には、白っぽい部分と黒っぽい部分があり、そのコントラストをMRI画像は見事に捉えています。

「白っぽい部分は液体(粘液)で、黒っぽい部分ががんを示しています」(森山さん)

嚢胞の大きさは左卵巣に比べてずっと小さいのですが、黒っぽい部分、すなわち全体に比するがんの部分が広く、悪性度はこちらのほうが高いのだそうです。

「嚢胞には皮があって、がんはそれに沿って増殖しています。画像の右卵巣の左下側のがんは今にも皮を破って外(腹腔)に飛び出しそうです。
外に飛び出したら腹膜播腫という転移になり、腹水が溜まります。それがあると病期はさらに進むのですが、その存在もMRIは容易に捉えることができます」(森山さん)

卵巣がんにおいてCT検査もすることがありますが、腫瘍の質的診断には適さず、腫瘍がはっきりがんとわかってから、リンパ節への転移の有無などを調べる検査として適するのだそうです。

したがって一般にCTはMRI検査で腫瘍の存在や性状を調べた後に全身の転移の有無を調べるために行います。

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