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シリーズ対談 田原節子のもっと聞きたい ゲスト・堤 寛さん
診断するのは病理医。この事実をもっと広めて、患者と医療を真に結びつけたい
堤 寛
つつみ ゆたか
藤田保健衛生大学医学部第一病理学教授。1976年慶応義塾大学医学部卒業。2001年より現職。悪性リンパ腫、胃がん、内分泌病理などの分野に関与し、現在は感染症も研究対象としている。病理医の側から、患者サイドへの積極的情報発信を旨とし、患者会やマスコミに向けても広く発言を続けている。著書に『病理医があかす タチのいいがん悪いがん』(双葉社)『病院でもらう病気で死ぬな!』(角川新書)他多数。
田原節子
たはら せつこ
エッセイスト。1936年東京に生まれる。早稲田大学文学部卒業後、日本テレビに入社。結婚・出産を経てアナウンサーとして17年、CMプロデューサーとして10年勤務した後退社。現在は田原事務所代表を務める。乳がんを中心に医療、そして女性問題をテーマに各方面で執筆講演活動を行っている。98年10月に乳がんを発症、再発転移はあるが、満5年生存を超えた。
自分はどういうがんなのかを知りたかった
田原 私は、自分の乳がんがどんな性格で、なぜそれをそういう病名として診断なさったのか、患者としてどのような位置にいて、これからどういう経過をたどるのか、それがわかるような専門的な説明がぜひ欲しいと思っていました。それで初めて病理の先生に直接お会いできて、とても幸せです(笑)。
堤 病理診断について、病理医からきちんとした知識として聞きたい、という田原さんと同じような患者さんが数多くいらっしゃるんですね。
今までは病理医自身が患者さんの前に出ることがなかなかなかったし、病理医自身もそれが苦手だと思っている部分が大きかった。患者さんの前に出ることが、自分たちの本来的な業務とは違うのではないか、と抵抗感があったんですね。
でも患者さんにとっては、病理診断によって治療法が違ってくることになるのだし、本当に自分の治療法が正しいかどうかを確認したいという気持ちがあって、そういうことを病理の医師から直接説明して欲しい、というのは当たり前だと思うんです。
田原 病理の先生に対しては、私たちが主治医から「病理はこうこうだ」という説明をいただいたときにも、なかなか質問がしにくいところがあると思います。
堤 一言でいえば、細胞の形を顕微鏡でみて診断するのが病理医の役目なんですが、画像所見や肉眼所見も同じように大切なんです。肉眼で判断がつけられなければ、どの部分から標本を作ればいいのか、わかりません。顕微鏡標本はやみくもにつくるわけではないのです。
田原 ああ、なるほど。そうですね、よくわかります。ミクロの世界だけではないと。
肉眼による所見が大切なのです
田原 それで、私たちのがんというのは、どれくらいの大きさのものがどのように先生のところへ行くのですか?
堤 それはいろいろですね。たとえば、胃カメラで胃の粘膜をつまむのであれば、1ミリぐらいのものですから、肉眼でみてもわからないので、顕微鏡だけをみて、内視鏡の所見などを合わせて診断します。これを生検というのですが、そういう標本が一番多いですね。
乳がんであれば、たとえば2センチの乳房のしこりを切り取ったとすると、そのしこりの全体像がみえますので、どんな性格のしこりか、悪性か良性かをまず肉眼で診断するんです。
田原 それで診断がつくのですか?
堤 肉眼で90パーセント以上は診断がつきます。肉眼で診断して、適切な場所をサンプリングして、顕微鏡で確認するという作業が病理医の仕事です。それはすべてのがんで同じことです。
田原 手術で全摘した乳房をみることもあるのですね。
堤 全摘するのは、乳がんが大きかったり、散らばっている場合ですね。
田原 乳がんでいうと2センチぐらいから乳房全体まで、それほど病理診断のためにみる材料の大きさに差があるのですか?
堤 いやもっと差があります。乳腺の場合は、穿刺吸引細胞診といって、針を刺して吸いだされた細胞だけをみる場合もありますし、最近では針生検といって、太めの針で病変の一部を掘り出すこともあります。この場合は幅1ミリ、長さ1センチくらいですね。
田原 肉眼で見えるほど大きなものを取ってしまって、取った後にこれは悪いものではなかったということもありうるのですか?
堤 最初の診断が間違っていれば、ありえます。でも、外科医が良性だと思っていながら大きく手術してしまうということは、普通はありません。
もちろん病理診断が最終診断となるのですが、もし外科医の臨床的な診断と、病理診断が合わないときには、当然ディスカッションになります。
確認のために病理医と臨床医が一緒に標本をみて、ディスカッションするステップを踏めば、今言われたようなリスクは少ないですが、ゼロではありません。
非常に残念ながら、実際にそういう例はありますし、その場合はどこが欠落していたか、徹底的に検証がなされなくてはなりません。
手術前の病理診断が基本です
田原 現在は、手術前に病理診断をつけることが、かつてより多くなっているようですが。
堤 以前から少ないわけではありません。術前にきちんとした診断がなければ、手術方針が決まりませんよね。基本的には、可能なかぎり病理診断を経て、治療方針が決まっていきます。病理診断の対象は、場合によって細胞診だったり、生検だったりいろいろですが。
ただ、どうしても術前に最終的な病理診断ができない場合もあるのです。脳の奥のほうとか、膵臓の深いところとかは、術前に針を刺すほうがリスクが高いためです。
しかし、例外はあっても、原則として病理診断を経て手術方針が決まり、それでも不安要因があるときは、術中に迅速診断して確認します。かかる時間は全部で10分程度です。
病理医を交えたカンファレンスやディスカッションは、頻繁に行われています。僕たち病理医も疑問や不安があれば、レポートに書くだけでなく、電話で確認したりもします。
田原 行ったり来たりの問答がないと、本当の確定にはならないということですね。
堤 記録や報告の文章だけでなく、プラスアルファの部分が大きいんですね。実際には患者さんが通常考えられている以上に、安全度が高くなるよう、プロの病理医が努力していることだけは間違いないと思います。
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