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腫瘍内科医のひとりごと 147 薬物療法が効くということ――胃がん
最近の胃がんの診療では、内視鏡検査で、「AI(人工知能)が生検する場所を指示してくれる技術」、手術では、「ロボット技術で、大きく開腹しないですむこと」などがトピックとしてあげられてきました。
胃がんの薬物療法
胃がんで手術が無理と判断された(切除不能)、あるいは、再発した患者の生存期間中央値は3~4カ月、抗がん薬治療を行った場合は約10カ月と言われてきました。薬物療法は、現在では、抗がん薬、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬があります。
抗がん薬では、標準的にはフッ化ピリミジン系(5-FUなど)+プラチナ製剤(シスプラチンなど)が使われ、さらにパクリタキセル(PTX)、イリノテカン(CPT-11) などが使われてきました。
肝臓に転移があり、手術は無理と判断され、抗がん薬治療のために紹介されてきた患者で、確かに肝転移が消えた方がおりました。
肝転移が消えて「神様はいたんだ」と、話されました。
しかし、その効果は30~40%程度で、全体の生存期間はなかなか延びませんでした。
最近では、より有効的な薬物の選択のために、病理組織診断で、さらに詳しく検査することが推奨されています。
1つは、がん細胞の表面にHER2(ヒト上皮成長因子受容体2)というタンパクが多く発現しているかどうかです。HER2は、乳がんや胃がんでみられるのですが、HER2が多く発現している場合には、抗がん薬に抗HER2抗体、ハーセプチン(一般名トラスツズマブ)を加えての効果が証明されています。
もう1つは、MSI-high(高頻度マイクロサテライト不安定性を有する)かどうかの検査で、陽性の場合、抗がん薬に抗PD-1抗体キイトルーダ(一般名ペムブロリズマブ)の併用効果が期待できることです。
また、分子標的薬では、がんへの血流を減少させるサイラムザ(一般名ラムシルマブ)との併用で生存期間の延長が報告されています。
これらの薬剤をどのように使うかは、患者の状況や、担当医との相談になりますが、一般的に、1次治療としてHER2陽性では、抗がん薬とハーセプチン、HER2陰性では、抗がん薬+サイラムザ、あるいは抗がん薬+キイトルーダの併用などが検討されます。
「効く」の判定について
これらの進歩は、画期的なことですが、胃がんのHER2陽性率は20~30%程度、MSI-highは5~10%程度とされています。
がんの薬物療法で効くということは、「奏効率」のことですが、例えば、細菌感染症で、抗生物質が効く、効いたという場合は、「治った」ということを意味すると思います。
ところが、抗がん薬が効いたという場合は、がんの容積、大きさが半分以下になり、それが1カ月以上続いた場合をいいます。そして多くの場合、胃の原発巣は内視鏡で、転移巣はCT検査で判定します。
しかし、本当に効くとは、生存期間が有意に延びることでなければなりません。また、その治療によって、QOL(生活の質)が良くならなければなりません。
臨床試験の成績で、その薬物治療が有効か、推奨される治療法かどうかは、がんが小さくなることよりも、生存期間が延長しているかどうかで判断されるのです。