子宮頸がん予防ワクチンは承認された。だけど、予防はまだ完全ではない
若い女性たちよ! もっと検診を受けて。もっと自分の人生を大切にして

取材・文:常蔭純一
発行:2010年1月
更新:2013年4月

  
写真:渡部享宏さん
NPO法人「子宮頸がんを考える市民の会」
事務局長の渡部享宏さん

子宮頸がんの予防ワクチンが国内で初めて承認された。しかし、その承認を求めてきたNPO法人「子宮頸がんを考える市民の会」は、それを手放しで喜んでいない。「とても嬉しいことだけどワクチンだけでは子宮頸がんの予防は完全ではないから」として、若い女性たちに検診を受けるよう強く呼びかけている。


2009年10月、厚生労働省により日本では初めての子宮頸がん予防ワクチンが承認された。承認申請から約2年――。医薬品承認後進国、ワクチン後進国といわれる日本でも、ようやく承認された。

しかし、「ワクチンが承認されたことはもちろんいいことです。しかしそれで子宮頸がんの予防対策が確立したわけではありません」

承認された予防ワクチン

他の患者会などと共に厚生労働省に対して子宮頸がん予防ワクチンの早期承認を求めていた、NPO法人「子宮頸がんを考える市民の会」事務局長の渡部享宏さんは意外な言葉を発した。そしてこう話す。

「ワクチン接種で子宮頸がんの予防は100パーセントとはいえません。今回の承認は予防対策確立に向けての第1歩が踏み出されたと考えるべきです」

子宮頸がんはHPVの感染で起こる

写真:子宮頸がん予防についての共同声明を発表

子宮頸がん予防ワクチン承認の日、NPO法人子宮頸がんを考える市民の会、子宮頸がん征圧をめざす専門家会議、社団法人ティール&ホワイトリボンプロジェクト、財団法人日本対がん協会は、子宮頸がん予防についての共同声明を発表

「子宮頸がんの原因はHPV(ヒト・パピローマ・ウイルス)による感染です。しかしそのHPVには100種以上の種類がありますが、今回承認されたワクチンは、発がんを引き起こすすべてのウイルスを対象としているわけではないのです。現在では70パーセント子宮頸がんを無くすと言われていますが、子宮頸がんを完全に予防するには、やはり定期的な検診受診が欠かせません。ワクチン接種は子宮頸がん予防のための選択肢が増えたと考えるのが妥当でしょう」

と、渡部さんは指摘する。渡部さんは大学在籍中、エイズを引き起こすHIV(ヒト免疫不全ウイルス)予防・啓発団体を主宰。それを契機に多くの産婦人科医士、細胞検査士らに知己を広げ、若い世代の女性の間で急激に増加を続ける子宮頸がんへの問題意識を募らせる。そうして2005年には、より多くの人たちに子宮頸がんの実情を理解してもらうために、子宮頸がんの専門家らとともに前述のNPО法人を立ち上げている。

「子宮頸がんはがんのなかではめずらしく原因がはっきりしています。検診でがん細胞の手前で発見することにより、ほぼ100パーセント予防できることがわかっています。にもかかわらず、病気や予防についての知識がないために多くの若い人たちが子宮頸がんに罹患し、将来子どもを持つ機会を奪われるなど、深刻な状況に追いやられているのが実情です。若い人たちにもっと自分の人生を大切にしてもらいたい。そのために子宮頸がんについての啓発運動に取り組むことにしたのです」

20~30代女性の発症が激増

子宮頸がんは女性特有のがんとしては、乳がんに次いで発症率が高いにもかかわらず、その知識と理解がまだ浸透していない、と渡部さんは指摘する。

「日本での年間発症者数は初期の上皮内がんを含めると約1万5000人に達し、毎年約3500人がこの病気で命を落としています」

子宮頸がんの原因はHPVの感染にあるが、その感染経路はほとんどセックスに限定される。

このウイルスは感染力が強く、1度のセックスでも感染することが少なくない。性体験があれば、誰でもこのウイルスに感染している可能性があるわけだ。

「深刻なのは20代、30代の若い世代で発症が急増していること」と渡部さんは懸念する。

実際20代での罹患率は1980~2001年の間に3倍以上に増加している。発がん年齢の低下の背景としては、性の低年齢化が指摘されている。

現在、40歳以下の女性の発がんで、乳がんを抑えて約4割を占めているのは子宮頸がんなのだ。だからこそ、渡部さんは20~30代への子宮頸がん啓発の必要性を強く感じている。

「ましてや20代30代というと、人生のなかでももっとも元気で充実している時代です。まさかそんなときに自分ががんになるかもしれないと考える人はそうはいません」

早期なら子宮が温存できる

写真:若い人が集まるイベントなどで、小冊子を配るなどして子宮頸がんの啓発を行う

若い人が集まるイベントなどで、小冊子を配るなどして子宮頸がんの啓発を行う

「HPVに感染しても、9割以上は免疫力によって1、2年で自然に排除されます。しかし、感染が長期化すると、がんの前段階ともいうべき異形成といわれる状態に細胞が変形していくのです」

実際に発がんする場合もウイルス感染から10年以上経過してからというケースがほとんどだ。渡部さんたちが検診率の向上を目指して、啓発運動に取り組んでいるのもそのことによる。

「感染が長期化して細胞の異形化が始まっていたり、またがんの初期段階の上皮内がんが発症していても適切な治療により子宮を温存し、その後の妊娠、出産も可能になる。他のがんはともかく、子宮頸がんに関していえば早期発見で、将来に禍根を残すことなく、完全な治癒を望むことができるのです。だからこそ必要なのはワクチンだけではなく検診受診率の向上をも同時に呼びかけているのです」

ちなみに最近では、同会では腟液からHPVの有無を自己検診できるキットも開発している。そうした自己チェックと検診を組み合わせることで、さらに予防の精度が高められるという。

「時間が無い、恥ずかしいといった理由で検診に行かないことも多いと聞きます。1つの選択肢として、自己チェックでHPVへの感染が陽性であることがわかれば、細胞診()を含めた検診で、詳細にチェックする。そんな流れを全国の医療機関と作っていっています」

細胞診=組織の表面から細胞を採取し、がん細胞の有無を調べる方法

低い日本の検診受診率

では、検診受診率の実情はどんなものなのか。米国、フランス、カナダなどの欧米諸国の受診率が軒並み70パーセント以上に達している中で、日本のそれは2007年の段階で23.7パーセントに過ぎない。同年からは受診対象年齢が従来の30歳以上から20歳以上に引き下げられたが、受診率にはほとんど変化はみられないという。

その背景にあるのが、検診を行っている自治体などの広報活動の手薄さ、そして一般の人たちのこの病気に対する知識、理解の欠落だ。

「日本では、子宮頸がんについての知識や検診の呼びかけは、自治体の広報誌やホームページに記載されている程度。まず教育を受けていないので、それでは誰も検診を自分の問題として捉えられないでしょう。検診の受診率は手間とお金をかければ必ず上がるはずです。諸外国に比べて検診率が低いのは、日本は社会として女性の健康管理に対して対策を行っていなかったと言えるでしょう」

対象年齢が若いことも受診率向上の大きなネックになっている。承認されたワクチンも、実際にどの年代を対象に、どのように接種が行われるのか、接種体制についてはまだ何も決められていない。

4月9日は「子宮の日」

写真:4月9日を『49(子宮)の日』として全国で『LOVE49プロジェクト』を展開

4月9日を『49(子宮)の日』として全国で『LOVE49プロジェクト』を展開

2005年に会を発足させた後、渡部さんは市民公開講座、フォーラムなどの開催で子宮頸がんについての啓発活動に取り組んできた。しかし、そうした従来型の活動では若い世代への訴えかけが難しいことに気づかされたという。

「若い人たちが関心を持っているイベントやカルチャーとうまく連動して、訴える必要があるように感じています。そこで2009年からは以前から『49(子宮)の日』としていた4月9日に、全国で『LОVE49プロジェクト』を展開することにしたのです」

子宮頸がん増加に危機感を持つ全国約300名の細胞検査士と協力し、街角でハーブの種と広報冊子を配布。東京では5年前に子宮頸がんの手術を行った女優の洞口依子さんにも参加してもらい大々的なキャンペーンを実施した。また、若者層に人気のヨガを取り入れた「子宮ヨガ」と「子宮頸がんの講座」をセットに実施し、子宮頸がんの啓発とともに若い人たちに知ってもらうキッカケを作っている。

「子宮頸がんを病気の一種というだけではなく、社会問題としてアピールしたい。そのためにはどんな手法が効果的なのか、今は組織の土台作りを進めながら的確な手法を模索している段階といえばいいでしょうか」

と、渡部さんはいう。

「子宮頸がんになりやすい人、その理由はただ1つ、『検診に行っていない人』です。だからこそ、検診の必要性を1人でも多くの女性に訴えていきたい」 渡部さんたちの今後の活動に注目したい――。


NPO法人 子宮頸がんを考える市民の会
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TEL:03-5821-2151 FAX:03-5821-2156
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