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患者さん側から医療者に思いや気持ちを教えてほしい 2
たなか ゆうじ
1970年生まれ。徳島大学卒業。東京大学、都立駒込病院を経て、米国デューク大学に留学。
現在は東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワーク部門客員助手。
2000年、患者会血液患者コミュニティ「ももの木」を設立し、定期的な交流会を続けている
2008年4月12日土曜日、韓国にある血液の患者会:韓国白血病患友会と僕の主催するNPO血液患者コミュニティももの木、院内患者会世話人連絡協議会との交流会を開催しました。
お互いの患者さんのやり取りの真剣な眼差しをみていると、新しい医療の力が感じられました。
まずは、韓国白血病患友会の説明をしますね。
韓国の患者会はスタッフ5人、ボランティア100人、会員4000人と巨大な組織です。その活動内容は、ホームページ(HP)などによる情報提供、献血を集めるボランティア、外来に同行したり、国に医療制度の見直しを迫る、など多岐にわたります。
今回の来日の主な目的は日本の献血の仕組みを調査することでした。そして可能であれば日本の患者会との交流を持ちたい、という願いがありました。骨髄移植患者であり日本語通訳の仕事をしていたキムさんがその役を務め、NPO血液情報広場・つばさで行っている電話相談を通じて僕らの患者会へ連絡がありました。実は電話相談をしていたのが僕の患者会のメンバーでもあったのです。そして、来日の予定にあわせて患者会の日韓交流会を企画しました。
交流会は急遽決めたので人が集まってくれるのか心配でしたが、当日は20人を越える方が集まってくださいました。お互いの自己紹介が終わると早速互いの質問タイム。通訳の方がいるのでスムーズに会話ができました。お互いの活動の違い、背景の違い、とても興味深い内容が多かったです。保険制度の違い、支払うお金の違いなど韓国の方はまだまだ日本の制度、日本はよい、と連呼していました。
ボランティア活動の盛んな韓国白血病患友会
韓国の患者会は代表を局長と呼ぶそうです。彼の奥様は白血病患者であり、骨髄移植を受けていました。そのこともあり、5年前より患者会の活動をボランティアで手伝い、そして3年前からスタッフである局長として働いています。彼のアイデアで今回の来日、献血の視察、そして交流会が実現しました。局長の志が高く、やる気が高く、その局長に引かれて多くのボランティアが活動しているそうです。
通訳の役割を果たしてくれたのは急性白血病で2年前に骨髄移植を受けた患者さんです。今は薬などは服用していませんが、それでもまだ体力が十分に回復していないにもかかわらず、通訳をこなしてくれました。
彼女は高校で第2外国語として日本語を学び、日本に憧れて1年間ほどワーキングホリデーで日本に滞在していたそうです。発病前に日本語の通訳の仕事をしていました。白血病になったときに韓国白血病患友会に助けられ、支えられたこともあり、今はボランティアとして活動しています。
そして、今回の活動をビデオに収めている人がいました。彼も悪性リンパ腫に対して自家移植を受けた患者さんでした。ビデオに収めた映像をもとにドキュメントを作り、患者会のHPで公開するそうです。
韓国政府や、韓国テレビ局に提出し、採用されればドキュメントとして韓国のテレビで放映されるそうです。彼はビデオカメラをこのボランティアを始めてから勉強したそうです。
また、韓国では移植を受ける前に保証金を払わなければいけない制度があります。移植後に余分に支払った分のお金が戻ってくるそうですが、その一部を患者会に寄付したそうです。
患者会の活動資金は基本的にこのような個人からの寄付でまかなわれているようです。製薬企業や病院からの寄付はお断りしているそうです。その理由は、患者さんのための活動をする、声を上げるために、製薬企業や病院から寄付をもらうと、言いたいことが言えなくなるからだ、と局長が話していました。
訪日の前には台湾をすでに訪問していました。そして、今後はヨーロッパ、そして、アメリカの患者会で1~2年ボランティア活動をしてくる予定だそうです。言うは易し、行うは難しですが、実際に韓国白血病患友会は実現してきています。すごいことだと思いました。
また、韓国の白血病の患者さんの4割が1つの病院に集まっていることもあり、患者会が組織しやすいとも言っていました。また、まだまだ解決しなければいけない問題が多く、患者さんが力をあわせて活動しているようです。
今回の活動を通じ、また交流会を通じて僕自身も韓国白血病患友会の局長と交流を深めることができました。局長より、今後も交流会を続けていこうとの提案を受けています。初めての国際交流でしたが、交流会でのお互いの患者さんのやり取りの真剣な眼差しをみていると、新しい医療の力が感じられました。
患者は医師の技術(医学)を信じ、医師の人格を信頼したいい
日本血液学会が10月に京都で開催されます。最終日の10月12日には患者会の代表が壇上に並ぶセッションに続き、「患者学」のセッションがあります。患者会の活動が国際的に、そして、アカデミアの分野に広がってきていることを実感しました。
前回のこのコラムで僕は、医療現場において人の気持ちはなかなか伝わらない、その解決の1つとして“場”を作ろう、と書かせていただきました。そして、コミュニケーションの大切さに関しては前回の最後にちょっとふれさせていただきました。
韓国白血病患友会のメンバーは交流会の前日に僕と一緒にいくつかの病院見学を行いました。写真にあるように国立がん研究センター中央病院の土屋了介院長にがんセンター内を案内してもらいましたが、その際に韓国白血病患友会の局長からの質問として「医師と患者のコミュニケーション」を真っ先にあげていました。そして、彼なりの解決方法は信頼だと言いました。
「患者は医師の技術(医学)を信じている。患者は医師の人格を信頼したいのだ」
彼の言葉が心に残りました。