新しい医療を作るには、医療者の患者さん側への歩みよりが必要です

文:田中祐次 東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワーク部門客員助手
NPO血液患者コミュニティ「ももの木」理事長
イラスト:杉本健吾
発行:2008年4月
更新:2013年4月

  
ももイラスト

たなか ゆうじ
1970年生まれ。徳島大学卒業。東京大学、都立駒込病院を経て、米国デューク大学に留学。
現在は東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワーク部門客員助手。
2000年、患者会血液患者コミュニティ「ももの木」を設立し、定期的な交流会を続けている

このコラムでもよく書いているのですが、自分自身の活動を支えてくれているのは間違いなく“患者さんが教えてくれたこと”です。

もともとぼくの「ももセンセー」というネーミングは患者さんからでした。

僕が研修医を連れて病棟を廻っていたときでした。お供を連れて鬼(病気)を退治する人、ということで桃太郎、そこから連想して「ももセンセー」と名付けられました。実はそのころの患者さんたちからは「ももちゃん」と言われていたりもするのですが。

そして、患者さんたちと一緒に集まろう、と始まった「ももの木」も、患者会ではあるけれども「ももセンセー」の元に集まるから「ももの木」と呼んでもらえるようになりました。ももの木を良く知る方はご存知の通り、僕は立っているだけで、みんなが集まってくれた。ももの木と名前をつけてくれた患者さんが一緒になって「ももの木」の設立を手伝ってくれました。

患者さんが教えてくれたことこそが大切なんだと実感し、ももセンセーの進んできた道が、その大切さを証明していると思うのです。

患者さんから学んだ言葉

さて、では今回、教えていただいた言葉それは、

“病気で奪われるのは肉体じゃない、精神なんだよ”

です。

改めて言葉にして伝えられるとドキッとします。これはメールで教えていただいた言葉なのですが、これを読んだときにとても納得し、ハッとしました。

果たして自分自身が患者さんと向き合ったときに、目の前の患者さんに対して、奪われたのは肉体じゃない、精神なんだ、と思い自分のできる医療を提供できていたのだろうか、と。医療者は皆、自然と身につけているのだろうか?

以前に患者さんから教えていただいた

“情は理では動かない、情は情で動く”

という言葉に通じると感じました。当たり前のことかもしれないのですが、人の感情はいくら理屈を話されても納得はできないのです。情熱を持って、愛情を持つことで人間関係が、信頼が強くなると思います。医療においても一緒です。医師と患者さんもまずは人間と人間の関わりから始まるからです。

医療においても、サイコオンコロジーがあります。精神の重要さが医療にも見直され始めているのだと感じるのです。とてもよいことですよね。

患者さんの情報を医療者が知らない

イラスト

急に話が飛びますが、

“情報格差”

という言葉を聞いて(見て)どう思われますか? 国同士の情報格差、地域による情報格差、医療者と患者の情報格差、などでしょうか?

その中で、医療者と患者の情報格差、に注目したいと思います。

では改めて「医療者と患者の情報格差」と聞いて何を想像しますか?

いろいろな人にこの質問を投げかけてみると、ほとんどの方が、医療者の持つ情報がなかなか患者さん側に伝わらない、的な話をされます。

実際に、患者会というものの目的の1つにも、この情報格差を何とかしたいという思いがあったと思います。患者会といえば、メディアで活発に出てくるのは医療と対峙する組織です。が、実際には情報をメインにした患者会のほうがたくさんあると思います。

以前はなかなか医療情報が医療者以外の方に届きませんでした。そのため、同じ病気の人たちが集まり、専門家に講演をしてもらうことで医療情報を、とくに自分に関わる情報を教えてもらっていました。情報の患者会へのインプットですね。そして、その後に懇親会などで参加された患者さんや家族の方がわいわいおしゃべりをしますね。

実は患者会の素晴らしさは、この懇親会での患者さんや患者家族の方のおしゃべりの中にお互いの情報交換があることだと思います。そして、このおしゃべりの中に患者さんや家族の方の経験知が含まれています。経験知の伝達ですね。

学校で言えば、OB・OGの方が在校生に伝統を伝えサポートする、といったところでしょうか? なので、患者会で行われている内容には、専門家からの情報伝達だけではなく、患者さんや患者家族の方同士の情報伝達も含まれてることに気づかされます。

しかも、患者さんや患者家族の方同士のおしゃべり(情報伝達)は自然と発生する現象であり、それは、皆が必要としています。

さて、話されている中味ですが、これは僕が話の輪に入って聞いるだけでも多種多様です。生活情報もあり、夫婦問題もあり、就職問題もありました。医療情報以外にそれはもう沢山……。そして、前述のごとく教えていただくことが多い多い。

つまり、ここにも情報格差が生じていたのです。患者さんや患者家族の方が持つ情報の多くを医療者が知らない、という格差が。

医療者側が積極的に患者会に参加すればいい

患者さんや家族の方の中には一生懸命医療情報を集め調べている方がいます。医療者を講師にむかえる患者会もあります。では、患者さんや家族の方の情報を知るための会はあるのでしょうか? それを医療者が積極的に作っているのでしょうか? その情報は患者会の代表がもっているのではなく、患者さん1人ひとりが持っているものです。

ということは、聞いたらいい。患者さんや患者家族の方に教えてもらったらいいのです。ただ、診察室や病院のベッドの上から教えてもらうのは難しい。

患者会での懇親会のようなリラックスした場が良いと思います。そうすることで、患者さんが求めている“精神”“情”が医療者に伝わると思います。僕がそうであるように。そして、これこそが新しい医療を作っていくと思うのです。

医療における情報格差、ここには患者さんや家族の方が持つ情報がたくさんあり、それがとても重要です。皆さん1人ひとりが持っている「知」が大切な情報なんです!!

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