進行性乳がんに、分子標的薬のネクサバールなどは効くか
乳がん由来の多発骨・肝・肺転移を発症し、国立がん研究センター中央病院で、2つの抗がん剤治療を受けたものの好転していません。治療経過などを説明します。1997年4月、乳がんのため、右乳房切除。エストロゲン受容体(+)、プロゲステロン受容体(+)、HER2(-)。手術後、多発骨転移が判明し、ホルモン治療を開始。2000年7月、腫瘍マーカーのがん胎児性抗原(CEA)が上昇したため、ホルモン剤を変更。その後も何度かホルモン剤を変更。2002年7月、胆のうポリープが発見され、2004年3月、胆のうがんの手術を受ける。
以下は、2006年10月以降の主な経過です。
乳がんの肝転移が判明→腫瘍の増大が確認→タキソテール(一般名ドセタキセル)治療→腫瘍の縮小が認められず、SD(現状維持)→人工抗原(ムック1、WT-1)を使った樹状細胞免疫療法(ワクチン療法)→肝動脈塞栓化学療法→ラジオ波焼灼術を受けて、肝転移の部分が消失→腫瘍マーカーが上昇し、肝転移が再発現。そして2008年4月、抗がん剤のAC療法を開始。7月、肺転移が確認。8月、AC療法を終了。10月、肝・肺の腫瘍は縮小せず、新たな病巣もないため、SDと判定。10月、臨床試験の担当医から参加のための話を聞く。欧米ではすでに使用されている薬だが、日本では未承認で、動物実験が済んだ後、初めて人体に薬剤を投与する第1相臨床試験とのこと。
以上がこれまでの治療経過です。現在、食欲はあり、肝機能は正常値、痛むところはどこもありません。2つ目の抗がん剤治療が終わった今、今後の治療法を早急に決めようと思っています。選択肢は次の3つと考えています。
A.ゼローダ(一般名カペシタビン)、ナベルビン(一般名ビノレルビン)のいずれかの治療を受ける。
B.日本で承認されていない分子標的薬を自費で使用する。
C.臨床試験に参加する。
Bについては、『がんサポート』2008年6月号の中に「ネクサバール(一般名ソラフェニブ)とスーテント(一般名スニチニブ)は今後、期待される分子標的薬である」といった記述がありました。腎がんなどに使用されているようですが、乳がんにも有望であれば、HER2(-)の進行性乳がんである私にも有望ではないかと思います。そこで、次のことを伺います。
(1)ネクサバールとスーテントは、欧米では進行性乳がん患者にすでに使用されていますか。または、臨床試験で乳がんにも有望という結果は出ていますか。
(2)ネクサバールとスーテントは、保険外であれば、国内でも使用できますか。
(3)ネクサバールが服用できる病院はありますか。また、副作用が出たとき、対応していただけるでしょうか。
(4)臨床試験について、欧米ですでに使用されていて、日本国内で承認されていない分子標的薬の第1相および第2相臨床試験がどこの病院で行われているかを知りたい。どのように調べたらよいですか。
(千葉県 女性 66歳)
A まずはゼローダなどを検討。「何もしない」選択肢もある
1つずつお答えしましょう。
(1)ネクサバールとスーテントは共に、欧米では進行性乳がん患者に第3相臨床試験が行われています。しかし、まだ承認はされていません。
スーテントの第2相臨床試験の結果が2008年4月に米国臨床腫瘍学会の機関誌(JCO)に発表されました。
それによると、治療抵抗性となった乳がんに対する単剤での奏効率は64例中7例(11パーセント)でありSDを含めても10例でした。正直なところ、大きな期待を持てるほどの数字ではありません。ゼローダやナベルビンの第2相臨床試験の際の数値と同等程度です。
ネクサバールの第2相臨床試験の結果も最新の2008年12月にJCOに発表されましたが、評価可能な20例の乳がんに対して単剤での奏効例はなく、SDが2例得られただけに終わっています。
(2)ネクサバールとスーテントは腎がんに対する使用は日本でも承認されています。そのため、使用すること自体は可能ですが、乳がんには承認されていないため、保険は使えず、自費になります。
(3)腎がんの治療をある程度以上、行っている医療施設であれば、ネクサバールもスーテントも所持している可能性があります。診療科は通常、泌尿器科ですが、施設によっては臨床腫瘍科のこともあるかもしれません。そうした施設で、かつこれらの薬剤を使用したことがある施設なら、副作用への対応もできると思います。
(4)インターネットで検索する方法もありますが国立がん研究センター中央病院なら詳しい情報を持っているでしょうから、主治医などに聞いてみるとよいと思います。
以上は、(1)~(4)に対するお答えです。以下では、私の意見を少しお話ししてみます。
現状では、残念ながら治癒する可能性は、ほぼ無いと考えられます。従って、ご相談者自身、治療の目的を今1度、お考えになるとよいかもしれません。たとえば、あくまでも奇跡的な治癒をめざすのか、できるだけ長い期間、元気で過ごすことをめざすのか。
なぜこうしたことをお話しするかといえば、治癒をめざすことが容易でないことだけでなく、今現在、お元気でいらっしゃることと、治療をして、副作用が起きた場合、そのことで体調を崩す危険性もあるからです。
食欲があり、肝機能が正常値で、どこも痛まないということは、とても喜ばしいことです。こうした場合、「何もしない」ことも選択肢に入ります。何かしらの治療を行って、重い副作用が出た場合、元気な時間が逆に失われてしまうことも起こりうるからです。
仮に治療を受けるなら、まずはゼローダかナベルビンのいずれかを勧めます。これらはいずれも乳がんに対して承認されています。
ゼローダやナベルビンが効かなかった場合は、アバスチン(一般名ベバシズマブ)とタキソール(一般名パクリタキセル)の2剤併用療法などを勧めます。日本では、この2剤を併せて使うと自費になりますが、少なくともアメリカでは承認されている治療法です。あるいは、「現状維持」の効果があったタキソテールやAC療法の再投与も考えられます。
ネクサバールやスーテントによる治療、臨床試験に参加することは、前記の治療法を受けて、それでも好転しない場合などに検討してみてはいかがでしょうか。