芸人を諦めてもYouTube(ユーチューブ)を頑張っていけばいつか夢は見つかる 類上皮血管内肉腫と類上皮肉腫を併発
宮野貴至さん YouTuber(ユーチューバー)
現在、YouTuber(ユーチューバー)として活動中の宮野貴至さんは、お笑い芸人を目指して大学を休学して養成所に入所。養成所で出会った相方と漫才コンビを組んで、さぁ、これからという25歳のとき、悪性血管肉腫を発症して左腕を肩甲骨から切断する。そのため、お笑い芸人を断念し、YouTuber(ユーチューバー)として活動していこうと決断する。若くしてつらい大きな決断を迫られた宮野さんに訊いた。
かすり傷が痛み始めて
「いつの頃からか覚えていないのですが、左手の親指の付け根にしこりができていました。そしていまから5~6年前のことですが、友人とバスケットをしていたときに、キャッチした瞬間ボールがしこりに当たり、そこにかすり傷ができてしまいました」
そう語り始めたのは現在、YouTuber(ユーチューバー)として活動中の宮野貴至さん(26歳)。
とくに痛みもなく、かすり傷がかさぶたになっては剥がすことを繰り返して放置していた。ところが5年くらい経った頃、傷は親指の先ほどの大きさになりなり、化膿してズキズキ痛み始めてきた。それでも放っていたらそのうち痛みは治まるのだが、ズキズキする痛みが襲ってくる間隔が段々と短くなってきた。
2022年5月。これは「ヤバイな」と思った宮野さんは近所にある皮膚科クリニックを受診する。クリニックの医師はその傷を見ると即座に「大きい病院で検査してもらったほうがいい」と、大学病院への紹介状を書いてくれた。
紹介された大学病院での病理検査の結果、血管のがんである血管肉腫の疑いがあると診断された。血管肉腫は稀な病気だったので、より専門性の高い病院に紹介状を書いてくれた。しかし、その病院でも同じ結果だった。
「病名を告げられたときは、それまで聞いたこともないし、正直いって肉腫と言われてもピンときませんでした」
血管肉腫と診断され左腕切断を決断
専門病院の医師とのやりとりを宮野さんは動画で撮影しており、後に「片腕男子」というチャンネル名でその動画をYouTube(ユーチューブ)で配信している。
そこでは医師の説明を聞く宮野さんと両親に、担当医はPET検査の画像を見せながら淡々と現在の病状と今後の治療を説明していく場面が映しだされている。
「親指にできた悪性腫瘍が肘から脇まで飛んでいる状態です。そして非常に珍しいのですが、血管肉腫といって血管のがんです。年間でも血管肉腫として登録されている人は20~30人です」(担当医)
続けて治療法について担当医はこう話している。
「手術前にもう一度検査をして、がんが脇の下で留まっていれば、かなり厳しい話ですが、左肩ごと上腕骨・肩甲骨も含めて腕を取れば治る確率はあります。しかし、血管肉腫自体、治療成績があまり良くありません」
そして医師は少し言いよどんで、「数字で言っていい?」と宮野さんに尋ねて、宮野さんが同意すると「いまの医療の現実として、2年後の生存率が50%」と告げている。
いま1つの方法としては抗がん薬を使った縮小治療。
いま左腕を切断すれば、転移した箇所は切除できる。しかし、再発リスクはあると伝えられてもいる。いま左腕を切断すれば助かる可能性があると言われたのは、脇のリンパ節への転移だけだったからだ。もしもがん細胞が内臓に転移していれば、手術はできなくなって縮小治療になる。
担当医から「どうする?」と訊ねられ、即座に「切断でお願いします」と伝えた。そこでの担当医と宮野さんのやりとりがある。
「頑張れそう?」(担当医)
「全然大丈夫です」(宮野)
宮野さんの即決に、担当医も幾分驚いたように「強いね」と言葉を発している。
「正直言って、私にとっての選択肢は切断すること以外ありませんでした。担当医の話を聞いてみて、もっとも生存の可能性があるのが切断することでした。縮小治療を選択したとしても絶対に完治しないレベルなので、それなら完治の可能性に懸けたほうがいい、と思ったからです」
そう決断したものの、内臓に転移が見つかれば手術は出来ない。希望した手術をすることが出来るのか、最終検査が行われることになった。
「転移がほかの臓器にあるかないか結果を待つ10日間は、これまでの人生でもっともキツイ10日間でした。とにかく手術ができるかどうか、メチャクチャ心配でした」
検査の結果、内臓への転移は見つからず手術は行なえることになった。
病理検査で世界でも珍しいがんと判明
2022年6月21日、5~6時間に渡って左腕を切断する大手術が行われた。
術後、丸1日ICUにいた宮野さんは一般病室に戻って鏡に自分の姿を映してみた。
「肩甲骨から切断しているので、左肩だけ病院服がメッチャ垂れている姿を見て〝ちょっといびつやな。ほんまに腕なくなったんやな〟と思いましたが、ショックとかはなかったですね。〝左腕がなくなったら、こんな姿になるんや〟という気持ちでした」
ポジティブシンキングで、エンタメ精神溢れる宮野さんならではの感想である。
「両親は『入院費のことなど心配しないで、本当に治すことだけを考えろ』と言って、僕の選択を尊重して見守ってくれました。入院中は病院の近くのホテルに泊まり、料理をつくったり洗濯してくれたりしていました」
入院期間は2週間だった。
術後の病理検査の結果、宮野さんのがんは類上皮血管内肉腫と類上皮肉腫という2つの希少がんを併発したもので、世界的にも珍しいがんだということが判明する。
「類上皮血管内肉腫が100万人に1人、類上肉腫が10万人に1人ぐらいの発症率で、それぞれあるのですが、それを併発しているという患者は世界でも報告されていませんでした」
これを主治医から聞いた宮野さんは、「同じ病気になるならなるで、パンチがあって人に話せる話やな」と持ち前のエンタメ精神が発揮される。
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