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マインドフルネス・ヨガ:それでいいのだ! 第77回 「やけたトタン屋根の上の猫」<マインドフルネスの実習>

森川那智子 こころとからだクリニカセンター所長
発行:2024年10月
更新:2024年10月

  

もりかわ なちこ こころとからだクリニカセンター所長。カウンセラー・ヨガ指導家。心療内科と提携し、カウンセリングを中心に、ヨガ、リラクセーション、瞑想を取り入れた療法で、心と体のサポートに取り組む。『なんにもしたくない!』(すばる舎)『リラックスヨガ』(成美堂出版)『心がラクがずっと続くヒント』(青春出版社)など著書多数

『やけたトタン屋根の上の猫』、ご存知テネシー・ウィリアムズ作の戯曲のタイトルです。どんな筋書きだったかすっかり忘れてしまったけれど、このタイトルは一度聞いたら忘れられない。

足の裏に火ぶくれが出来そうなアチチ体験は、裸足で生活してないわたしたちは滅多に遭遇しません。

昔、南インドの聖なる山アルナチャラに登ったとき、早朝に程よく暖められた石のうえを裸足であるくのはとても気持ちよかった。

しかし、昼過ぎになり熱くなった石の道を歩くと、足裏に火ぶくれができかけ、熱くて痛くて裸足ではとても歩いていられない。悔しいけれど、ぼられているとわかっていても、所々で売られているビーチサンダルを買うことになる。

古ぼけた中古のビーチサンダルが定価の5倍くらいで売られています。それこそ背に腹は代えられません。履物の威力に恐れ入ったものでした。

いてもたっていられない気持ち

話がわき道にそれてしまいました。

「やけたトタン屋根の上の猫」は比喩として、焦燥感にかられて、〝いてもたってもいられない〟心理的に追い詰められた状態をリアルに連想させます。誰にとっても身に覚えのある感覚・感情。イライラが高じて、すっかり落ち着きを失っています。

こんなとき、人は何とかしようと頭の中でいろいろもがき考える。

やけたトタン屋根の上の本物の猫なら、きっと瞬足で走り抜けるに違いありませんが、ここでは〝のような人間の気持ち〟についてです。

煽られながら、ジリジリしながら、自動的に浮かぶ自己破壊的な思考の渦に巻き込まれそうになりながら、何とかスッキリさせる方法をあれこれ考えます。

自分では必死になって導き出した解決策が、落ち着いて見直すとあまりいい手とは言えません。たいていはそうなのです。怒りに振り切られそうになりながら、恐れにおののきながらも、でも考えずにはいられない。

ジタバタしながらも一晩眠った後になると、不思議なことにやけたトタン屋根はどこかに消えている。消えないまでも距離ができている。

「一晩眠って考える」、それはより現実的な対処法です。人生の大問題の9割は、眠っているうちに解決します。

こんなときの出番がマインドフルネス!

寝覚めて、しばらくしてまたやけたトタン屋根が迫ってくることもあります。いつの間にか、またやけたトタン屋根の上の猫になっている。

そのうち、よく眠れなくなってしまうことも。からだは休んでいるのに、頭の中が休まらない。心は絶えずやけたトタン屋根の上の猫状態。

しかし、ちょっと待って、しばし。

こんなときは、マインドフルネスの出番なのです。

マインドフルネスとは、今この瞬間に起きていることをしっかりていねいに味わうこと。どんな考えや感情が沸き起こっていても、良し悪しと価値判断しないで〝そのまま、そのまま〟うけとめる。

私は今この瞬間、「こんな考えが頭をかすめていっている」ことに気づく。

すると自動的に、こんなこと考えるなんて「人としてどうなの? と思ってしまっている」ことに気づく。

そのまま気づきをただうけとめる。

「ああそうか、そうなんだね」と思いやりをもってうけとめる。

「今という瞬間はどこにある」という問いは屁理屈です。今という瞬間はここだと点では示せない。〝今〟は、次の〝今〟につながり流れてる。

たとえば、今している呼吸、吐いている息、吸っている息に注意を向けるのは、今この瞬間この瞬間に注意を向けることになります。

でも何呼吸くらいの間、注意を呼吸に向け続けていられるかしら。

心は移ろっていく、ここではないどこかに。息をして生きてるこの身体は今ここにあるのに、心は瞬時に昨日にも明日にもいく。そうしようと思わなくてもそうなっているのが心の本性です。

今この瞬間に心の働きをとどめておくには、少しトレーニングが必要です。〝考えない訓練〟といったらいいのかな。

マインドフルネスを〝心の筋力トレーニング〟にたとえるのも、ほんの少しの練習が必要だからです。

<マインドフルネスの実習>

習熟するとマインドフルネスは、どんな姿勢でもどんな作業をしていても実践できるようになります。

ですが、ここでは〝心の筋力トレーニング〟の1つとして取り上げ、その1例を紹介します。

①まず安定した姿勢が必要です。マットや座布団に腰をおろし、脚部を楽にします。
ここでは吉祥座(’20年3月号参照)をしていますが、あぐらでも正座でもOKです。畳んだバスタオルを坐骨の下に敷くと、股関節が楽になり、姿勢が安定します
②脊柱をすっと立てます。
身体の真ん中を縦に走っている脊椎のライン、背骨より内側です。イメージを使うと、チューリップや菊の花で、腰から下は根のようにどっしりしていて、脊柱は茎のようにすっと伸びて、頭部は花となぞると、脊柱が無理なく立ちます
③目は軽く閉じるか半眼にします。
両腕は楽な位置に伸ばします
④今、自分がしている呼吸に注意を向けます。
どのように呼吸するかは問いません。吐いている息、吸っている息、その プロセスに注意を向けます。
これでいいのかな、これでいいのです。
呼吸に注意を向けるとうまく吸えない気がする――今この瞬間にそんなか考えがよぎるかもしれません。そうしたら、こんな考えがよぎったと気づき、そのまま「そうか……」と受け止め、また今自分がしている息に注意をもどします
*喘息を患ったことのある人、過呼吸に悩んだことのある人は呼吸に注意を向けることが難しいことがあります。その場合は脊柱に注意を向けます
⑤もういいかなと思ったら、目をしっかり開き、覚醒します。
初めに時計を見ておいて、「もういいかな」まで何分か記録しておくのも、実習を続けるコツです。
3分、10分、15分、長ければいいというものではありません。今日はこうだったんだな、とただうけとめます

 

がんサバイバーやそのご家族でヨガのご体験がありましたら、ぜひ体験記などをお寄せください。kokokara@center.email.ne.jp

こころとからだクリニカセンター
PC www.kokokara.co.jp/
携帯 www.kokokara.co.jp/m/

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