前立腺がんの骨転移治療:骨転移には早期発見・早期治療が大切 骨の健康を保ちながらがん治療を!
がんの進行とともに起こる骨転移。とくに、前立腺がんは骨転移しやすいのが特徴です。骨転移による痛みや骨折は、患者さんの生活の質を低下させるだけでなく、余命にも影響を及ぼします。この骨転移について今、”bone health”という新しいコンセプトに基づいた治療戦略が注目されています。
2025年には男性がんのトップに
前立腺は男性特有の生殖器で、膀胱の出口付近に位置しています。内側の「内腺」と外側の「外腺」から成り、真ん中を尿道が貫いています。前立腺がんが発生しやすいのは、尿道から離れた外腺部分で、このため早期には排尿への影響はほとんどみられません。
もともと前立腺がんは欧米人に多く、日本人はかかりにくいとされてきました。ところが最近、日本でも急増しており、12年後の2025年には男性では胃がんを抜き、固形がんのトップになると予測されています(図1)。
その原因としてまず考えられるのが高齢化です。前立腺がんは60歳を過ぎるころから発症し、加齢とともに罹患率が加速度的に高くなっていきます。男性の平均寿命は79歳まで伸びており、長寿が前立腺がんの増加にそのままつながっています。
もう1つはPSA検査の普及です。前立腺がんになると、「PSA(前立腺特異抗原)」という糖タンパク質がたくさん作られ、血液中に増えます。その値を測定することで、がんの可能性をチェックしようというのがPSA検査です。
「検診や人間ドックなどでPSA検査が行われるようになり、以前は見つけられなかった早期がんが発見できるようになったことも、前立腺がん増加の一因になっている」と北里大学医学部泌尿器科講師の佐藤威文さんは話します。
進行前立腺がんの80%に骨転移が
前立腺がんは進行が緩やかで、比較的予後の良好ながんですが、一方で骨転移しやすいという特徴もあります。佐藤さんによると、ホルモン療法が効かなくなった進行性前立腺がんの80%に骨転移が認められるといいます。
骨転移は、がん細胞からはがれ落ちた一部が、血流に乗って骨に到達し、そこに住みつき、増殖することで起こります。前立腺がんの場合、リンパ節転移も多く、リンパ管から骨への転移もあります。部位としては、骨盤骨、腰椎、脊椎など体を支える骨への転移が多く、進行すると他の骨にも転移が進みます。
「骨転移による代表的な症状は痛みです。転移の初期にはあまり痛みを感じない患者さんもいますが、転移の進行・広がりとともに、がん性疼痛を訴えるケースが増えてきます。また脊椎に転移して、中を通る脊髄を圧迫すると、麻痺など重篤な症状を引き起こします。さらに、骨がもろくなるため病的骨折のリスクも高まります」(佐藤さん)
骨の健康を保ちながら、がん治療を
骨転移に伴うがん性疼痛、病的骨折などの症状を「骨関連事象(SRE)」と呼びます(図2)。
前立腺がんでは、骨転移したからといって、すぐ亡くなるわけではありません。しかし、転移が進み、骨関連事象をきたすようになると、活動量(アクティビティ)が落ち、QOL(生活の質)が著しく低下します。そして、それが予後にも影響を及ぼします。このため、転移した患者さんでは、がんそのものの治療とともに、骨関連事象をいかに予防していくかが、大きなテーマとなります。
そこで最近、提唱されているのが「”bone health”(骨格の健康)」を念頭に置いたアプローチです(図3)。”bone health”とは、「形態と運動機能の面で、個人の能力が十分に発揮される状態」のこと。つまり、骨転移のある患者さんでは、骨の健康を保ち、骨関連事象をしっかり予防しながら、がん治療を進めていこうという考え方です。
佐藤さんは「前立腺がんでは転移が起こっても、期待余命(あと何年生きられるかの年数)が2~3年と比較的長い。また北里大学の検討でも、全身で5カ所以内の骨転移症例(EOD1*)の5年生存率は70%と高いことが確かめられています。この残された時間を、QOLを良好に保ちながら、有意義に過ごしてもらうことが大事。そのためにも”bone health”を見据えた対応が欠かせません」と強調します。
泌尿器科医にとって骨は異質な領域。このため、以前はあまり関心が寄せられませんでした。しかし、前立腺がんが急増し、転移例が増えるなか、骨のマネジメントは緊急の課題となっています。こうした現状を踏まえて、今”bone health”という治療戦略が徐々に広がりつつあるといいます。
*EOD=転移の広がりを示す指標で、1~4ステージに分類される
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