初期の膀胱がんが再発したが、ベストの治療法は?

回答者:赤倉 功一郎
東京厚生年金病院 泌尿器科部長
発行:2011年7月
更新:2013年12月

  

昨年11月に膀胱尿路上皮がん(T1 N0 M0)と診断され、TUR-BTを受けました。腫瘍は1センチ弱が1個、3ミリが1個の計2個でした。今年1月から毎週1回、計7回の抗がん剤の膀胱内注入療法(エピルビシン塩酸塩10ミリグラムを注入して1時間後に抗がん剤を出す治療)を行いました。しかし、4月に3ミリの腫瘍が1個見つかり、再度TUR-BTを受けました。胸部、腹部のCTでは異常ありません。

お聞きしたいのは次の3点です。①もう少し再発リスクを下げるような治療法はないのでしょうか。②主治医には「3カ月ごとの検査で腫瘍が見つかったら切り取ればいい」と言われていますが、本当にそんなに深刻ではない状態なのでしょうか。③ほかに検査は必要ありませんか。

現在、働き盛りの年代であり、仕事で活躍したいのに、何度も入院していたら仕事になりません。かといって命が最優先であることは言うまでもありません。仕事と命の2つを天秤にかけたとき、どうするのがベストか悩んでいます。ぜひアドバイスをお願いします。

(京都府 男性 30歳)

A がんが浸潤していなければ、BCG膀胱内注入療法を行う

「尿路上皮がん」は膀胱がん罹患者の90パーセント以上を占め、膀胱がんの中では1番発症頻度が高いものです。このほかには扁平上皮がん、腺がんなどがあります。

ご相談者の膀胱がんのグレード(がん細胞の悪性度)がわからないのでリスク分類は難しいのですが、がんの大きさや個数、「T1 N0 M0」という診断、抗がん剤の膀胱内注入療法(以下、膀注)をされていることなどから、初発のときには中リスクだったものと思われます。

中リスクの場合、TUR-BTを行った後に、抗がん剤膀注またはBCG膀注を行うのが標準治療です。再発予防効果としてはBCGのほうが高いのですが、副作用はBCGのほうが強く出ます。

エピルビシンという抗がん剤は、TUR-BT後の抗がん剤膀注で一般的によく使われています。ただし、この治療法の標準的な投与スケジュールは決まっていません。そのため、計7回投与が標準かということは一概にはいえません。いろいろなやり方があります。

質問に順にお答えしましょう。

①ご相談者の場合、初発の段階では多発ではあったものの、T1、つまり「筋層非浸潤性膀胱がん」という、筋肉にまで浸潤していない表在性のがんだったと思われます。残念ながら再発されたということですが、病理検査の結果、今回も筋肉にまで浸潤していない(T2になっていない)ことが確認されれば、その後、BCG膀注の「維持療法」が主治医から提案されるのではないかと思います。再発した場合はBCG膀注を行うのが標準であり、また、その後の再発リスクも明らかに下げます。

以前はこのBCG膀注のスケジュールは1週ごとに計8回(「導入療法」といいます)と決まっていました。しかし現在は、この導入療法以降も、最低でも1年間は間隔を空けながらBCG膀注をくり返し行う維持療法のほうがさらに再発リスクを下げるというデータが得られており、こちらが推奨されています。この維持療法は2010年8月に保険適用になりました。

以上の治療法は、「T1だったら」ということが大前提です。T1であれば、普通がんは転移しないし、直接すぐ命にはかかわりません。筋層非浸潤性膀胱がんでも再発をくり返していると浸潤する可能性もありますが、これはグレードによります。

しかし、T2、つまり筋肉にがんが浸潤している状態にまで進行していれば、転移もありえるので膀胱全摘が標準治療となります。

主治医の見立てとして、あるいは病理検査で「T1だけど、浸潤も否定できない」などの結果が出た場合は、再度TUR-BTを行うことになると思います(セカンドTUR-BT)。セカンドTUR- BTは、治療とステージング(評価)という意味で重要です。主治医から「もう1度手術しましょう」と言われるかもしれませんが、それは妥当な判断です。仕事が大事なのはわかりますが、「先日、手術したばかりなのに……」などと思わずに、ぜひ再度TUR-BTを受けてください。

②深刻なものか深刻でないかは、T1かT2か、つまり筋肉にがんが浸潤しているか、していないかが大きなポイントとなります。

③検査方法については、通常、膀胱鏡検査と尿の細胞診の2つで診ます。浸潤の疑いがある場合には、MRI(またはCT)を使うこともあるかもしれません。

なお、ご自分でできる1番の再発予防策は禁煙です。膀胱がんの発症要因の1つが喫煙であることは、はっきりとエビデンス(科学的根拠)が出ています。喫煙されているのであれば、ぜひ禁煙なさってください。

TUR-BT=経尿道的膀胱腫瘍切除術。主に、筋層非浸潤性膀胱がんに対する治療法。開腹手術をせずに、尿道から内視鏡(膀胱鏡)を入れて膀胱内のがんを観察しながら電気メスでがんを切り取る エピルビシン=商品名ファルモルビシン

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