初の本格的ガイドラインが登場
「造血器腫瘍診療ガイドライン2013年版」患者さんの治療への理解のために
かかわる奥深いものです」と話す大西一功さん
2013年10月、血液がん(造血器腫瘍)の領域で初めて「診療ガイドライン」が編纂された。白血病、リンパ腫、骨髄腫の3本の柱で構成され、最前線で治療に当たる医療者たちの治療選択に大きく貢献している。編纂の指揮を取った医師にその意義と内容を聞いた。
作成に至る経緯
「これまでは、簡単なものはあったのですが、本格的な診療ガイドラインはありませんでした。血液がんの領域では、各医師はそれぞれ海外文献などをよく勉強していました。治療の根拠となるエビデンス(科学的根拠)も、日本のものは少なく、海外での臨床試験データが多かったというのも理由の1つです。このガイドラインができて、患者さんにも治療指針を理解していただきやすくなったことはとても大きなことです」
疾患別作成委員会委員長としてガイドラインを取りまとめた浜松医科大学附属病院腫瘍センターの大西一功さんはガイドライン作成の経緯を話した。
造血器腫瘍は、2005年に『抗がん剤適正使用ガイドライン』の中に項目として入ってはいたが、今回は2011年にガイドライン作成の委員会が設置され、『造血器腫瘍診療ガイドライン2013年版』に結実した。
エビデンスが第一 そして、患者さんの価値観
「ガイドライン作成では、エビデンスに基づくことが大切なことに変わりはありませんが、近年は患者さんが何を一番大事にしているかということのウエイトが大きくなってきました。このガイドラインは医師と患者さん両方が治療法を考えるときの資料になることを目標にしています。生存率の改善だけでなくQOL(生活の質)も含めてです」
血液がんは、その種類によりそれぞれ治療が全く異なるのが特徴だ。
「相当絞り込みました。白血病でも1冊できますし、リンパ腫ならもっと厚くなるでしょう。しかし、臨床の現場ですぐに調べられることが大切なので、このボリュームにまとめました」
大西さんは続ける。
「標準治療とは、従来の治療よりも優れていることが臨床試験で証明された治療法のことですが、一方ですべての人に当てはまるかというとそうではありません」
多様な性質を持つがんの分野だけに、標準治療の設定は難しいのだと言う。
「臨床試験ではきちんとしたデータが出ないと科学的な評価が難しいから対象を絞ります。合併症のない患者さんなどを対象としています。しかし、医療現場には、糖尿病の方も高血圧の方もいる。それを画一的に診療できるかというと、それはできません。ガイドラインは臨床的な判断をするための支援のツールです。患者さんの価値感が、治ることなのか、QOLの維持なのか、また費用と効果の兼ね合いなど、保険制度も絡んで総合的に判断することが医師の熟練、技量といえます」
白血病 「total cell kill」
大西さんは、白血病治療の基本として「total cell kill」という言葉を挙げた。
「白血病細胞をゼロにするまで治療しなければなりません。強力な化学療法をするので、感染症で高熱が出たり、出血が起こったりということがありますが、近年は支持療法(サポーティブケア)が進んできたので、管理も十分できます」
ガイドラインに沿って、急性骨髄性白血病で治療法を見ていく(図1)。この疾患は、骨髄における白血病細胞の異常な増殖の結果、正常な造血機能が阻害され、白血球減少、貧血、血小板減少などに伴う様々な症状が出る。
多剤併用療法が用いられるが、適応は臓器毒性や合併症に耐えられるかを年齢や臓器機能、全身状態(PS)などにより慎重に判断される。化学療法だけでは良好な長期予後が得られない場合は、同種造血幹細胞移植が適応となる。
標準的な治療を受けた若年成人は70~80%の完全寛解(CR)と40%前後の5年無再発生存が得られるが、予後因子によって治療成績が変わり、予後良好群、中間群、不良群に分けられる。因子の中には、染色体異常や遺伝子変異があり、FLT-ITD遺伝子変異は長期予後に対する不良因子として重要となる。遺伝子変異を従来の染色体核型に基づく予後因子を組み合わせた、予後層別化システムが提唱されている。
若年者の急性骨髄性白血病の標準的寛解導入療法は、アントラサイクリン系薬剤+標準量*キロサイド。アントラサイクリン系薬剤の種類と投与量は限定されないが、高用量*ダウノマイシン、または常用量*イダマイシンが推奨されている。
1コース目の寛解導入療法で寛解が得られない場合は、同一レジメンが繰り返されることが多い。予後中間群、不良群には同種造血幹細胞移植が推奨されている。
*キロサイド=一般名シタラビン *ダウノマイシン=一般名ダウノルビシン *イダマイシン=一般名イダルビシン
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