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抗体療法と放射線療法を組み合わせた放射線免疫療法薬の実力
完治しにくい低悪性度タイプに放射線を駆使した治療薬が効果的

監修:後藤明彦 東京医科大学病院血液内科講師
取材・文:柄川昭彦
発行:2011年5月
更新:2013年4月

  
後藤明彦さん
東京医科大学病院
血液内科講師の
後藤明彦さん

リンパ腫細胞に取りつき、そこで周囲に放射線を照射するという新しい作用を持つ悪性リンパ腫の治療薬がある。
再発・難治性、低悪性度のB細胞性リンパ腫なら、80パーセントに奏効し、完全寛解率は64パーセントだという。

がん化したリンパ球がかたまりを作って増殖

白血球の一種であるリンパ球が、リンパ節などでかたまりを作り、増殖するのが悪性リンパ腫だ。ホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫に分けられ、日本では後者が大部分を占めている。リンパ球には、B細胞、T細胞、NK細胞があり、非ホジキンリンパ腫の約8割はB細胞性だ。

こうした分類とは別に、臨床経過の進み具合によって、低悪性度、中悪性度、高悪性度に分類される。東京医科大学病院血液内科講師の後藤明彦さんは、わかりやすく説明してくれた。

「低悪性度は年単位で進行するタイプ。中悪性度は月単位、高悪性度は週単位または日単位で進行するタイプです。低悪性度のリンパ腫は、進行はゆっくりですが、完治しにくいのが特徴。すぐに死亡する人は少ないのですが、何年たっても少しずつ生存率が下がり続けます。その点、中悪性度は進行が速いので、1年後に亡くなっている可能性もありますが、全体の4~5割は完治します。若い患者さんにとっては、低悪性度のほうがたちが悪いと言えます」

低悪性度というと、治りやすいと思われがちだが、そうではないのだ。

抗体に放射性同位元素を結合させた薬

[RⅠ(アイソトープ)標識抗体療法の模式図]

図:RⅠ標識抗体療法の模式図
90 Yとイブリツモマブを結合する役割を持つ

[RⅠ(アイソトープ)標識抗体療法のイメージ]

図:RⅠ標識抗体療法のイメージ

イットリウム90が放射線(ベータ線)を照射してリンパ腫細胞を攻撃する

[低悪性度B細胞性リンパ腫に対するゼヴァリンの効果]

図:低悪性度B細胞性リンパ腫に対するゼヴァリンの効果
CD20陽性の再発または難治性のB細胞低悪性度非ホジキンリンパ腫、マントル細胞リンパ腫の患者さん50名を対象

低悪性度のB細胞性非ホジキンリンパ腫の代表的な治療法は、R-CHOP療法である。エンドキサン()、アドリアシン()、オンコビン()、プレドニン()を併用する CHOP療法に、リツキサン()を併用する。リツキサンはB細胞性の悪性リンパ腫がよく出している抗原を標的とした抗体薬。

この他、フルダラ()の単剤療法、フルダラとリツキサンの併用療法などが行われることもある。

「こうした治療を行い、効きが悪いものを難治性といいます。また、いったんよくなって消えたように見えたのに、再び増殖してきた場合が再発です。どちらも困った状態ですが、再発もしくは難治性の低悪性度B細胞性リンパ腫には、ゼヴァリン()が効果をあげています」

ゼヴァリンは抗体のイブリツモマブと、放射性同位元素のイットリウム90が結合した構造になっている。

「リツキサンとの違いは、イットリウム90が放射線(ベータ線)を照射してリンパ腫細胞を攻撃するのです」

リンパ腫はかたまりを作るので、内部の細胞には抗体が結合できないが、かたまりが小さければ、放射線で内部のリンパ腫細胞も殺すことができる。リツキサンがあまり効かなかった場合でも、ゼヴァリンがよく効くことがあるのは、そのためだと考えられている。

ゼヴァリンの効果を調べる国内の臨床試験によると、奏効率(腫瘍が治療前の半分以下に縮小した患者の割合)は80パーセント、完全寛解率()は64パーセントだった。

ゼヴァリンによる治療を受けるには、再発・難治性の低悪性度B細胞性リンパ腫であることが前提だが、それに加え、最大の病変が5センチメートル未満であることが望ましい。

「ゼヴァリンのもう1つの適応にマントル細胞リンパ腫がありますが、低悪性度リンパ腫より進行が早い場合があり、使用が適切か主治医とよく相談して下さい」(後藤さん)

エンドキシン=一般名シクロホスファミド
アドリアシン=一般名ドキソルビシン
オンコビン=一般名ビンクリスチン
プレドニン、プレドニゾロン=一般名プレドニゾロン
リツキサン=一般名リツキシマブ
フルダラ=一般名フルダラビン
ゼヴァリン=一般名イブリツモマブチウキセタン
完全寛解率=腫瘍がほぼ消失した患者の割合

安全性を確認してから治療薬を投与する

ゼヴァリンの治療を行うときには、イブリツモマブが骨髄などの重要な臓器に集まり過ぎないことを確認しておく必要がある。イットリウム90が骨髄に運ばれると、血球になる細胞が死滅してしまうからだ。その危険を回避するため、まずインジウムを結合させて投与する検査が行われる。インジウムは診断用のガンマ線を出す放射性同位元素。投与の2~3日後にガンマカメラで撮影し、骨髄などに集積していないかどうかを調べる。

「この撮影で安全性が確認できたら、イットリウム90を結合させたゼヴァリンを投与できます。治療は1回の静脈注射だけで、入院期間はインジウム投与を含めて10日前後で終了します。通常の化学療法のように、繰り返し投与することはないのです。また、薬の毒性がきわめて低いので、治療中の患者さんはほとんど苦痛を感じません」

ただ、放射性同位元素を使う治療なので、投与から3日間は注意が必要だ。配偶者や子どもとの長時間の接触を避ける。着用した衣類は他の衣類と別に洗濯する。放射性物質が尿に出るので、周囲に飛び散らないように男性も座って排尿する。

「副作用で最も問題になるのは骨髄抑制です。平均すると治療の1カ月後くらいから始まり、2カ月後にはほぼ元の状態に戻ります。基本的には特別な治療を必要としませんが、状況に応じて白血球を増やすG-CSF()を使用したり、輸血で血小板減少に対応したりすることもあります」

治療費は薬剤費と医療費を含め、総額が500万円程度になる。3割負担なら窓口での一時的な支払額は150万円ほど。

高額療養費制度による払い戻しの対象になっているので、医療機関などで相談するとよい。

G-CSF=顆粒球コロニー刺激因子製剤


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