3つの新規薬剤の効果と副作用を把握し、有効な治療を~。
副作用を軽減しながら、長く病気とつきあう多発性骨髄腫の新治療
「寛解を目指す治療が基本です」
と話す
黒田芳明さん
多発性骨髄腫は、新規薬剤の登場で、がんの進行を以前よりずっと長く抑えられるようになりました。
またこれらの薬剤を中心に、上手に長く使うことで生存期間の延長が可能となっています。
高齢化に伴い増加傾向に
多発性骨髄腫は血液がんの一種で、骨髄中のリンパ球が分化した細胞「形質細胞」が腫瘍化(骨髄腫細胞)した病気です。
形質細胞とは抗体(細菌などの抗原に結合し中和などする)をつくる細胞で、細菌やウイルスなどの異物を攻撃する役割を担っていますが、多発性骨髄腫になると正常な抗体ではなく異常な抗体「Mタンパク」が産生されます。このMタンパクには、からだを守る機能はほとんどありません。
現時点で多発性骨髄腫が発症する原因はわかっていませんが、形質細胞の腫瘍化に伴って、①貧血②骨病変(代表的な症状:骨痛、骨折、高カルシウム血症)③Mタンパク沈着による症状(代表的な症状:腎不全)──などの症状が引き起こされます。
また、治療面においては新薬でも十分な治療効果を得られない患者さん(難治性)や再発を繰り返す患者さんが多いことが特徴です。
発症の平均年齢は70歳代と高齢者に多い病気で、主に50歳代以降に発症します。現在、多発性骨髄腫は社会の高齢化とともに、その患者数は増加傾向にあります。
治療は完全寛解を目指す
最近ではベルケイド(*)、レブラミド(*)、サレド(*)などの新規薬剤が次々に開発・承認され、多発性骨髄腫の治療は大きく進歩しました。しかし、残念ながら未だ完治が難しい病気です。そのため、多発性骨髄腫では完全寛解(Mタンパクの消失)を目指し、より長く病気をコントロールする治療が基本となります。
広島大学原爆放射線医科学研究所血液・腫瘍内科医師の黒田芳明さんは、「多発性骨髄腫は、従来の治療法では完全寛解は期待しにくいとされてきました。しかし、ベルケイド、レブラミド、サレドなど新規薬剤の登場によって完全寛解に至る患者さんは増えています」と言います。
治療は、病期、年齢などを考慮して行います。多発性骨髄腫の進行度を示す病期は、骨髄腫細胞の量によって1期、2期、3期に分類されます。通常、1期の場合は経過観察となり、2期から治療を行います。年齢は、65歳を目安に治療法が選択されます。65歳以下の若年患者さんの初期治療は、大量化学療法+自家造血幹細胞移植が標準となっています。
具体的には、移植前処置として大量の抗がん剤でできるだけ骨髄腫細胞を減少させる一方、抗がん剤の副作用として生じた造血の低下を自分自身の血を造る細胞(造血幹細胞)を体内に戻すことでカバーし(自家移植)、寛解を目指すという治療法です。
「腫瘍がたくさんある人への自家移植と寛解状態に近い人への自家移植とでは、その後の再発率、生存期間に差が出ることもわかっていますので、自家移植を併用した大量化学療法までにいかに骨髄腫細胞を減らすかがポイントとなります。これが、寛解導入療法といわれる最初の治療です」(黒田さん)
寛解導入療法に用いられる治療法は従来は抗がん剤が標準とされていますが、新規薬剤の登場により、ベルケイドやレブラミドなどでのエビデンス(科学的根拠)の確立も進められているところです。
*ベルケイド=一般名ボルテゾミブ
*レブラミド=一般名レナリドミド
*サレド=一般名サリドマイド
維持療法でレブラミドが生存期間を延長
移植後は、抗がん剤を用いた地固め維持療法と呼ばれる治療法へと続きます。以前は「維持療法」とだけ呼ばれていましたが、最近では少し強めの薬剤で「地固め」といって、腫瘍化した形質細胞をさらに取り除く治療を行い、その後、「維持療法」といって、寛解を持続させるための治療を続けることも多くなってきています。
維持療法でよく用いられるのは、レブラミドとサレドです。2剤とも飲み薬なので、通院治療が可能というメリットがあります。
「薬の特徴から言うと、移植後の維持療法で生存期間を延長したというエビデンスがあるのはレブラミドです。2010年に国内で承認を取得したレブラミドはサレドの改良薬で、抗腫瘍効果が期待でき、かつしびれなどの副作用の発症率も低いといわれています。しかし2剤とも胎児への暴露を防ぐために適切な薬剤の処方手順・管理が必要です(レブメイト、TERMS)」(黒田さん)
移植治療によって完全寛解例は増加しましたが、移植を受けることができるのは多発性骨髄腫全体の20~30%程度であり、また発症のピーク年齢である70歳代の患者さんには適応されることが少ないという現状があります。
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