多岐にわたる多発性骨髄腫の症状と、その診断法とは
早期発見・正確な診断で患者さん1人ひとりに合った治療を!
日本赤十字社医療センター
血液内科部長の
鈴木憲史さん
年々、患者数に増加傾向がみられる多発性骨髄腫。症状がさまざまで個人差もあるが、最近では、そのメカニズムが解明されつつある。
そこで、適切な治療をするために、どのような症状が現れ、どのように診断するのかを確認していきたい。
骨髄で増え、血液細胞を駆逐
血液のなかには、さまざまな血液細胞がある。そのすべての源になっているのが、骨髄でつくられる造血幹細胞。造血幹細胞は何段階も変身(「分化」という)を重ね、最終的に赤血球、血小板、白血球(B細胞、T細胞)などになる。
このうちのB細胞はさらに形質細胞と呼ばれる細胞に分化するが、形質細胞はウイルスなどが侵入すると、免疫グロブリンというタンパク質(抗体)をつくり、ウイルスなどを撃退する。通常の骨髄のなかには、常に1パーセントくらいの形質細胞があるようにコントロールされている。
多発性骨髄腫はこの形質細胞ががん化して発症する、血液がんの一種である。日本では年間10万人に3人、毎年3000人ほどが発症する少数派のがんで、65歳以上の高齢者に多く、女性よりやや男性に多いという傾向を持つ。
では、これががん化するとどうなるのだろうか。日本赤十字社医療センター血液内科部長の鈴木憲史さんはこう語る。
「一般的に、がん細胞は体内で増えることで悪さをします。多発性骨髄腫でも、がん化した形質細胞(骨髄腫細胞)がどんどん増え、造血細胞の数10パーセント、つまり、通常の10倍以上をも占めてしまいます。
結果として、ほかの血液細胞が減るため、初めにそれに伴う症状が出ます。赤血球が減って貧血になり、血小板が減って出血が止まりにくくなり、白血球が減って感染症にかかりやすくなります。こうした血液症状を『骨髄抑制』といいますが、これが第1の症状です」
無用のタンパクをどんどん作る
がん化した形質細胞はあらゆる場所の骨髄で増える。症状が同時多発するため、多発性骨髄腫と呼ばれる。しかし、症状が同時多発する理由はそれだけではない。「がん細胞がいろいろな機能を持っているためであり、それこそが多発性骨髄腫の1番の特徴」と鈴木さんは言う。
「多発性骨髄腫は、数あるがん種のなかでも、まれな『機能性腫瘍』なんです。たとえば、形質細胞はがん化して骨髄腫細胞になっても免疫グロブリンをつくり出す機能を持っていますが、骨髄腫細胞がつくり出す免疫グロブリン(通称『Mタンパク』)は異常で、正常に働きません。つまり、働かないタンパクばかりが増え、働くタンパクは減ってしまう。感染症に対して弱くなるのは、このためでもあります」
どんどんつくられたMタンパクは血液によって全身に運ばれ、到達した先でも悪さをする。たとえば、腎臓では尿細管(つくられた尿を腎盂に運ぶ管)に詰まり、腎機能障害を引き起こす。消化管や心臓や神経にもくっついて、機能不全を起こす。
骨をどんどん壊し、出てくる物質でがん増殖
骨を壊す機能も強力だ。
「骨は常にリモデリング(再構築)しています。骨には破骨細胞と骨芽細胞があり、骨が古くなると破骨細胞が骨を壊し、骨芽細胞が新しい骨を作ります。
ところが、骨髄腫細胞は破骨細胞を刺激する物質を出して、骨をどんどん壊させます。すると今度は、がんを増殖させる物質が骨から溶け出し、骨髄腫細胞が増殖します。破骨細胞と骨髄腫細胞は仲良しで、協力して悪だくみをしているのです。骨は骨髄腫細胞がとても快適に暮らせる環境だということです。
骨がどんどん壊れると、簡単に骨折するようになります。とくに骨折しやすいのは肋骨で、くしゃみをしただけで骨折することも。脊椎がつぶれ、強い腰痛を感じることもあります。骨が壊れると骨内にあったカルシウムが血液中に溶け出し、高カルシウム血症になります。それにより、口の渇きや吐き気などのほか、重い場合は意識障害が出ることもあります」
血液のがんであるにもかかわらず、腰痛や骨折が頻繁に起こる。整形外科で発見されることが多いのもこのためだ。
同じカテゴリーの最新記事
- CAR-T療法、二重特性抗体療法、さらにその先へ 進歩が続く多発性骨髄腫の最新治療
- 「CAR-T療法」「二重抗体療法」など期待される治療法が次々登場 進歩し続ける多発性骨髄腫の新しい治療法
- 新薬サークリサ登場で化学療法がさらに進化 多発性骨髄腫は治癒をめざして治療計画を立てる時代に
- 新薬ラッシュ! 治療選択肢が大幅に増えた多発性骨髄腫
- 医学会レポート 米国血液がん学会(ASH2015)から
- 血栓症リスクを知り、血液がんの治療中は症状に早く気づき受診を
- 造血幹細胞移植患者のリハビリは「継続する」ことが大切
- 新薬が次々に登場!多発性骨髄腫は共存の時代に
- 新薬が次々に登場し、多発性骨髄腫の治療が変わる
- 多発性骨髄腫の治療発展に注目 新薬や移植の導入で目覚ましい治療の進化