骨病変の進行をとめるには、骨髄腫の治療をしっかりすることが大切
多発性骨髄腫に多発する骨病変にビスホスネートで改善を
国立病院機構岡山医療センター
血液内科の
角南一貴さん
「骨の病気」とも言える多発性骨髄腫では、約8割の患者さんに骨病変が存在し、約5割の患者さんに骨痛や骨折などの骨病変が現れ、QOL(生活の質)を大きく損なう。そんな多発性骨髄腫の骨病変に対して、効果をあらわしている治療にビスホスホネート製剤のゾメタ(一般名ゾレドロン酸)がある。こうした薬剤や、放射線治療、外科手術などの治療で骨病変をいかに改善していくのか。
多発性骨髄腫の約5割の患者さんに骨関連事象が発生
(2)骨吸収(骨を壊す)が進む
(3)骨や骨細胞から増殖因子やサイトカインが放出される
(4)骨髄腫細胞が増殖する
*サイトカイン=特定の細胞に情報伝達する、細胞から分泌されるタンパク質
(資料提供:ノバルティスファーマ)
骨は体の構造を支える柱だ。永久に入れ替わらないビルの鉄筋のように思えるが、実はそうではない。
骨は体の他の組織と同じように新陳代謝をくり返し、毎日少しずつ入れ替わっているし、また骨の中心部の骨髄には赤血球、白血球、血小板などの血液を作り出す“血液の工場”の役割もある。
多発性骨髄腫の症状では、約5割の患者さんが骨痛や骨折など骨に関係した症状に苦しめられている。
そもそも骨は、新しい骨を生産する「骨芽細胞」と、古くなった骨を溶かし、壊す「破骨細胞」が働くことで新陳代謝が行われ、維持されている。健康な骨だと、骨芽細胞と破骨細胞の働きの“収支”のバランスがよく取れた“家計簿”のようなもの。
しかし骨髄腫の骨は、破骨細胞が働いて“支出”ばかりが多くて骨芽細胞の働き“収入”が少ない“赤字家計簿”に例えられる。
岡山医療センター血液内科医長の角南さんが説明する。
「がん細胞である骨髄腫細胞が、破骨細胞を活発に働かせる一方で、骨芽細胞の働きを抑え込んでしまいます。破骨細胞が優位になって収支バランスが崩れるため骨量がどんどん減ってしまうわけです」
骨髄腫細胞は周りの骨に侵入し、破壊しながら増え続ける溶骨性変化や、塊(腫瘤)を作って、骨を圧迫するなどして、全身の至るところで骨が弱く折れやすくなる。
画像では、骨のもろい部分が打ち抜かれたように見える骨打ち抜き像(パンチドアウト)といわれるものがよく観察される。
こうした一連の症状を骨関連事象(SRE)と呼ぶ。一方、骨髄腫の患者さんでも、骨関連事象があらわれない人も5割ほどいる。
「骨関連事象の半分以上のケースで、上からの重みで背骨がグシャッとつぶれる圧迫骨折が起こります。
重いものを持ち上げようとして、背骨に負荷がかかった時などに発生しがちです。また骨が非常にもろくなっているために、腕や足などの長管骨と呼ばれる太い骨も簡単にポキッと折れてしまう『病的骨折』も、骨関連事象の4分の1に見られます。転んだときに手をついただけ、ゴルフのスイングでちょっと体をひねっただけ、ベッドから起き上がるために力を入れただけ、くしゃみをしただけ、と簡単に骨折することも珍しくありません」
骨折の部位やタイプによって痛みの強さや痛み方が異なるが、男女や年齢による違いや傾向があるわけではない。
また、骨粗鬆症や臓器がんの骨転移などでも骨痛・骨折は起こり、骨髄腫の骨病変とよく似ている。とくに骨粗鬆症と同じ症状が出やすいタイプがあり、区別が難しいこともあるという。
骨折や圧迫によって起こる様々な症状
「多発性骨髄腫の患者さんの訴えとして最も多いのが腰痛です。腰痛の治療を受けるために整形外科などを受診して、腰椎X線写真で圧迫骨折やパンチドアウトなどの所見が見られて、骨髄腫が疑われるきっかけになるケースが多くありました。最近では健康診断の血液検査で異常が見つかり、精密検査を受けた結果、骨髄腫細胞によって作られるMタンパクが検出されて病気がわかるケースが増えてきました」
パンチドアウトが最も多くみられるのは頭がい骨で、約44パーセントと報告されている。そのほかに脊椎、胸骨なども多い。
「画像で病変が観察されても必ずしも痛みがあるとは限りません。骨はもともと痛みを感じにくい臓器であり、神経のある骨膜まで骨が溶けて初めて痛みを感じると考えられます。骨の溶ける度合いによっても痛みが違うので、骨病変のあらわれ方は実に多様です」
脊髄の圧迫症状も、2タイプある。1つは骨髄腫細胞が作った腫瘤が大きくなり、じわじわと神経を圧迫し、痛みより先にしびれや麻痺がだんだんと起こってくるタイプ。
もう1つは、積み重なって脊椎を構成している椎体がつぶれる(圧迫骨折)ために、突然の激痛と共に、つぶれた椎体が直接脊髄を圧迫し、急激に麻痺が発生するタイプがある。
「排尿・排便が困難になって、脊髄圧迫症状がわかることもあります。排便・排尿をコントロールする自律神経の中枢がつぶれて便意や尿意が伝わらなくなるのです。骨病変が頸椎や胸椎など体の上部で起こるのと、脊髄など体の下部で起こるのとでは症状が若干異なってきます」
脊椎(腰)の圧迫骨折。矢印の部分に圧迫骨折があるのがわかる(左)X線、(右)MRI画像
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