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大きく変わりつつある多発性骨髄腫の最新治療
注目されるサリドマイド、レブラミド、ベルケイドの新御三家の力

監修:服部豊 慶応義塾大学病院血液・感染・リウマチ内科助手
取材・文:半沢裕子
発行:2006年10月
更新:2014年1月

  

高齢者に多い多発性骨髄腫は、治療によっていったん完全寛解にいたっても、やがてまた再発してくるところがやっかい。
再発を予防する方法も、まだ確立していない。しかし、このような再発・難治例に対してただ今注目されているのがサリドマイド、レブラミド、ベルケイドの3つの薬剤。その効果のほどを確かめてみる。

新しい薬が治療全体を変える可能性がある


終末分化したB細胞(形質細胞)に生じた難治性のがん

多発性骨髄腫の治療に関する最大のトピックスは、サリドマイドなどの新規薬剤の有効性が確認され、適応される範囲が広がっていることだ。これによって、骨髄腫治療の全体が変わりつつあるといえるほどで、世界でも大きな期待感をもって治験が行われている。

しかし、その話をする前に、最近わかってきたことを交えながら、現在行われている標準治療についてご説明したい。

骨髄腫とは、骨髄の中で、白血球の一種である形質細胞ががん化し、まわりの骨に広がる病気だ。骨髄は骨の中にあり、赤血球、白血球、血小板などを作り出す「血液工場」だが、体中の骨髄でこうした異常が起こるため、「多発性」骨髄腫と呼ばれる。

骨髄腫の症状は、がん細胞によって骨が壊れること、異常な形質細胞(骨髄腫細胞)が増えることから、主に起こる。異常な形質細胞が増えると、正常な血液が造られなくなるので、それ自体深刻な症状を引き起こすが、さらに、異常な形質細胞は異常な「抗体」を作り出し、これがまた、さまざまな症状を引き起こす。

[免疫グロブリンの分子構造]
図:免疫グロブリンの分子構造

正常な形質細胞は、免疫グロブリンというタンパク質を作り出す。この免疫グロブリンが、病原体など体内に侵入した異物を見分ける「抗体」であるが、がん化した形質細胞で作られた免疫グロブリン(Mタンパク)は抗体として働かず、逆に悪さをするのである。

具体的には、骨の痛みや折れやすさ、カルシウムが血中に溶け出して起こる高カルシウム血症、貧血、貧血から来るだるさ、血中のカルシウムとMタンパクが引き起こす腎臓障害などが、主な症状としてあげられる。

免疫が働かないため、感染症にもかかりやすくなる。Mタンパクが血液中に増えると、血液の粘りけが高くなるため、血管の流れが悪くなり、目が見えなくなる、鼻血が出るといった症状が出ることもある。さらに、治療にともない、ステロイド剤によって糖尿病が悪化する、といった合併症を起こすこともある。

治療をいつ開始するかその見極めが大切

[多発性骨髄腫の経過]
図:多発性骨髄腫の経過

多発性骨髄腫は、今まで欧米人に多く、日本人には少ないといわれてきた。が、最近は日本人にも増えている。原因は不明だが、食生活の変化や日本人が長寿化したこと、合併症の出ない初期の骨髄腫が、検診などで見つかるようになったこと、などが考えられる。

検診で見つかるようになったのは、Mタンパクは検出されるが、骨髄腫の細胞が見当たらないMGUS(良性単クローン性免疫グロブリン血症)だ。

このうち将来骨髄腫に進行するものと、そのまま一生をまっとうできるものをどう区別するかが、大きなポイントになっている。なお、Mタンパクは多発性骨髄腫が進行しているかを見る、いちばん重要な指標(腫瘍マーカー)となっている。

「多発性骨髄腫は残念ながら、今のところ治癒のむずかしい病気です。その一方、今ふれたMGUSをふくめ、進行のゆっくりしたケースも少なくありません。
しかも、高齢者に多いがんであることを考慮すると、抗がん剤によってからだそのものを痛め、免疫力を落とすより、合併症への対処に徹して共存するほうが、結果として長生きにつながる可能性もあります」

慶応義塾大学病院血液・感染・リウマチ内科助手の服部豊さんはこう語っている。

つまり、多発性骨髄腫は固形がんと違って、早期治療が必ずしも患者さんのためにならないというのだ。病気の進行度や合併症、年齢、生活などを考慮し、治療をするかしないか、するならいつ始めるかを、見極めることが重要だ。

そうしたことが議論された結果、03年には新しい国際病期分類(IPI)も作られた。血清ベータ2-マイクログロブリン(β2M)とアルブミン(ALB)という2つの検査項目だけで、治療効果と病気の進行を判断するものだ。重視されるのは「症状があること」で、採血、検尿、X線などで簡単に診断できる(下表参照)。

ただし、慶大病院では、Mタンパクの数値が毎回上昇しているようなケースでは、たとえ検査の結果が無症状でも、治療を進めるようにしているという。どう見ても病気が進行しているのだから、骨が痛むなどのつらい症状が出る前に、進行を食い止めるのが狙いだ。

[国際病期分類(IPI)]

ステージ1 β2M<3.5  ALB>3.5
(生存期間中央値62ヵ月)
ステージ2 β2M<3.5  ALB<3.5
またはβ2M 3.5~5.5
(生存期間中央値44ヵ月)
ステージ3 β2M>5.5
(生存期間中央値29ヵ月)
β2M=血清β2マイクログロブリン(mg/dl) ALB=血清アルブミン(g/dl)

[国際病期分類(IPI)による生存率]
図:国際病期分類(IPI)による生存率


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