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高齢肺がん患者の治療 本人と家族の希望を大切に

高齢者個々に合った肺がん治療を選ぶ

監修●坪井正博 国立がん研究センター東病院呼吸器外科科長
取材・文●池内加寿子
発行:2015年2月
更新:2015年4月

  

「患者さんとご家族は同じ方向を向いて治療を受けていただきたいですね」と話す坪井正博さん

肺がん患者さんは高齢者が多数を占める。高齢者の場合、手術、化学療法、放射線治療などの治療に関して、どのように適応を判断しているのだろうか。高齢者の肺がん治療の現状と展望について、国立がん研究センター東病院呼吸器外科科長の坪井正博さんに伺った。

併存疾患の有無や全身状態で治療の選択肢が異なる

肺がん患者の高齢者の占める割合について、国立がん研究センター東病院呼吸器外科科長の坪井正博さんは次のように話す。

「日本では肺がん治療における高齢者の定義は75歳以上とされ、肺癌診療ガイドラインにも明記されています。がん研究センターのデータによると、肺がん患者さんの約半数、手術例の約40%を高齢者が占め、今後も増えていくと予想できます」

肺がんの治療は、病期や組織型によって、手術、化学療法、放射線療法を単独または組み合わせて行うが、どの治療法も高齢者では合併症のリスクが高くなる。

「高齢者は併存疾患(持病)をお持ちの方が多く、心肺機能等も低下しがちです。どの治療でもストレスを伴いますから、暦年齢(実年齢)だけでなく全身状態を総合的に判断します。暦年齢が75歳以上でも、併存疾患がなく体力・気力・意欲のある方は、若い方と同様に標準治療を。逆に全身状態の悪い方は、治療の合併症によって寿命を縮める危険性もあるので、合併症を軽減できる治療法や緩和治療、自然の経過に任せることも選択肢の1つになります」

例えば「すりガラス陰影」で発見される肺がん(GGO)はおとなしく進行がゆっくりなので、自然の経過に任せるほうが天寿を全うできる可能性もあるという。

表1 PS(パフォーマンス・ステータス)

(ECOG)

では、患者さんの全身状態はどのように評価するのだろうか。「医師から見た患者さんの印象、例えば、肌のつや、呼吸の状態、判断力、目標の有無などが判断の大きな材料になります」

客観的な指標としては、全身状態を表す指標であるPS(パフォーマンス・ステータス=表1)と併存疾患の有無や軽重、心肺機能評価などがポイントとなる。PSは、0~2(歩行や身の回りのことができる状態)が治療を行う一応の目安となるという。

「心肺機能は、心電図やスパイロメーターで検査して評価します。手術を希望する患者さんには、坂道の歩行や階段の上り下りを日常的に行っているかお聞きしたり、実際に階段を上り下りしてもらい、息切れや不整脈、酸素濃度等を診て、異常がなければ手術に耐えられると判断します」

肺気腫などのCOPDがあり、肺機能が低下している人でも、普段から体を動かしている人は、比較的合併症が少ないという。

「元の生活に戻れて、初めて治療の成功といえます。歩行ができないなどPS 3~4の方は、治療によって肺炎などの合併症を起こしやすく、寿命を縮めることが過去のデータで示されているので強くはお勧めしていません。PS 3~4でもイレッサなどの分子標的薬が使える場合は全身状態が劇的に改善することがある半面、間質性肺炎などの合併症のリスクも高まります」

重要なのは、「患者さん本人はどうしたいか」「患者さん自身が判断できるかどうか」だと坪井さんは強調する。

COPD=慢性閉塞性肺疾患 イレッサ=一般名ゲフィチニブ

注意すべき併存疾患は心肺機能低下、腎臓病、糖尿病など

併存疾患の種類によっては、治療法の選択に影響することがある。

「例えば、重度の肺気腫があると放射線治療ができず、手術が選択されることがあります」

糖尿病で血糖コントロールが不十分な場合は、手術、化学療法ともに合併症が起こるリスクが高いという。血流が悪いため術後は傷が治りにくく、胸腔内に膿が溜まる膿胸などの感染症を起こすことがある。また抗がん薬治療の副作用対策でステロイドを用いると、糖尿病が悪化する例も。

「血糖コントロールを優先し、HbA1cを悪くても7前後にキープする必要があります」

腎臓病等で透析を受けている方は、がん治療を行う病院と透析を受ける病院との連携がポイントだ。「併存疾患がある場合は、主治医を1人に限定せず、疾患別に主治医を持つ感覚で治療に臨むのも賢い方法です」

HbAlc=ヘモグロビンAlc

体力のない高齢者には縮小手術を検討

肺がんの手術では、肺葉切除と付属のリンパ節郭清術が標準の術式だが、最近では、切除範囲の狭い縮小手術が普及してきた(図2)。腫瘍が小さく、体力がない人や肺の機能が悪い人、併存疾患が多く合併症が予想される人などが対象となる。

図2 現在行われている肺がんの主な術式

「通常の肺葉切除ではダメージが大きく合併症の懸念がある高齢者には、腫瘍を含めて楔形に切除し、リンパ節郭清は省略する部分切除を行うことがあります。高齢者は肺の切除によって血流が変わり、心不全を起こしやすくなるので、肺の切除範囲が小さい方が心不全のリスクが低くなると考えられます。

また、リンパ節郭清によって神経が損傷されると、高齢者はとくに痰が出しにくくなり、術後肺炎などの合併症のリスクが高まります。標準手術と部分切除や区域切除の予後が変わらないのであれば、高齢者には縮小手術のほうがよいのではないかとデータを収集中です」

部分切除の可能な部位は、腫瘍が肺の外側3分の1程度にある場合に限られ、肺門近くにある場合は適応外だ。

「部分切除が適応となる方は、定位放射線療法も選択肢となるので、両方を提示しています。縮小手術と定位放射線治療のどちらが有効かについては、臨床試験が難しいため、結論が出ていません」

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