PSA検査と生検を組み合わせてチェック
若年者前立腺がんにも対応できる積極的監視療法

前立腺特異抗原(PSA)検診の導入に伴い、早期前立腺がんが発見されるようになり、前立腺がんによる死亡率の減少効果が認められた地域がある。その一方で、即座に治療すべき必要のない低悪性度の早期前立腺がんに対して過剰治療が行われているのではないかという反省から、PSA監視療法(積極的監視療法)が行われるようになっている。その現状について、専門医に話を伺った。
高齢者や重い余病のある人は待機療法
待機療法とは何かについてがん研有明病院泌尿器科部長の米瀬淳二さんに聞くと、「症状が出るまでは何もしない、いわゆる待機療法(watchfull waiting:WW)というのは、基本的にご高齢の前立腺がん患者さんで行われます。早期がんはもちろん、少々進行していても前立腺がん自体で亡くなる可能性がかなり低く、今後症状も出ないと考えられる方に行うものです。また、症状が出た場合の治療は原則としてホルモン治療になります。
待機療法というのは、がんはあるけれども、患者さんはがん以外の病気で亡くなる可能性が高いので、治療による弊害を考えると、がんを治療しなくても良いのではないかという考え方から生まれました。
もし、見込みが外れて、前立腺がんによる症状が出たら、そのときはホルモン治療で寿命まで進行を抑えようという考え方です」という答えだった。
待機療法を行うかどうかは、がんの進み具合や性質と、患者さんに前立腺がんがなければどれくらい元気でいられるのかというバランスが決め手になるという。
こうした患者さんでは、がんを治療することによるメリットよりも、手術による尿失禁や尿漏れ、放射線による直腸炎、ホルモン治療による筋力低下などの治療に伴う弊害のほうが大きいからだ。
「前立腺がんというのは、高齢者に多く、一般に進行が遅く、がんが原因で苦しむことなく寿命を全うされる方も多いので、症状出現まで様子を見ても差し支えないのではないか、ということで待機療法をするようになったわけです」
健康な若年者には積極的監視療法
一方、待機療法を一歩進めたのがPSA監視療法(active surveillance)で、がん研有明病院では「積極的監視療法」とも呼んでいる。これは前立腺がんが活発になると、血液中のPSAの濃度が高くなることを利用して、根治の機会を逸しないようにしながら、なるべく無治療で経過を見ようという方法で、定期的なPSAの測定と必要時の再生検において、PSAの急上昇や、悪性度の高いがんが見つかった時点で、放射線照射や手術などの根治治療を行う方法である。
積極的監視療法の対象は、生命を脅かす危険性が低い(低リスク)早期がん。いつかは根治治療が必要になる可能性があるけれども、当面は様子をみても心配がないという患者さんで、若年者や高齢であっても長期生存が期待できる、比較的活動的な生活を送っている人に向いている方法だ。
「極端な例を挙げると、30代の男性が人間ドックでたまたまPSAを測定され、高かったので生検を受けて低リスクの前立腺がんが見つかり、当科に紹介された方がいます。そんな若い人に放射線を照射したら子供もできなくなりますから、再生検して少量のグリソンスコア3+3であることを確認して経過を見ています」(図1)

顕微鏡でがん細胞を観察し、その形態から悪性度(1~5)を判断。異型細胞の占める割合が最も多いものの評価をプライマリーパターン、次に多いものの評価をセカンダリーパターンと呼び、両者の和をグリソンスコア[GS](2~10)と言う。通常はプライマリーパターンとセカンダリーパターンの両方を4+3のように表記するが、両者の和のみを示す場合もある
海外では余命によって、いずれかを選択
「どちらも即座には治療を行いませんが、両者の違いに関して、欧州泌尿器科学会(EAU)の前立腺がん治療ガイドラインでは積極的監視療法は根治の機会を逸しないように定期的にPSA測定と生検、MRI検査等を行うが、待機療法では原則として症状が出るまで何もしないと定義されています(表2)。

(がん研有明病院泌尿器科ホームページより)

積極的監視療法は必要時に手術や放射線などの根治治療を行うことを前提としており、待機療法は生涯症状緩和ができればいいという考え方ですから、原則として期待余命10年以上の方は前者の対象、10年未満が後者の対象となります。
同ガイドラインでは、PSAが10以下、グリソンスコアが6以下、病期はB1という患者さんが積極的監視療法の対象としています(図3)。一方、待機療法はとくに厳密な対象の条件はありません」(表4)

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