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できるだけQOLを落とさず長期の治療を
新薬の登場も!ホルモン療法が効かなくなった前立腺がんの最新治療

監修:島居徹 筑波大学医学医療系教授・茨城県地域臨床教育センター長
取材・文:柄川昭彦
発行:2012年5月
更新:2013年4月

  

島居徹さん
「ホルモン療法の効かない前立腺がんの治療にはタキサン系の
抗がん剤が期待される」と話す
島居徹さん

ホルモン療法が効かなくなった前立腺がんは、以前は治療が難しかったが、近年、抗がん剤を使った化学療法が行われている。
また、新規薬剤の開発も進んでいるそうだ。

前立腺がんの増殖は男性ホルモンに依存

前立腺がんのホルモン療法は、進行した段階でがんが見つかった患者さんに対して、主に行われている。ホルモン療法がどうして効果があるのかについて、筑波大学医学医療系教授・茨城県地域臨床教育センター長の島居徹さんは、次のように解説してくれた。

「前立腺の細胞自体が、アンドロゲン(男性ホルモンの総称)に対する受容体を持ち、アンドロゲンの影響を受けています。アメリカのハギンズ博士は、去勢により委縮した犬の前立腺が、アンドロゲン投与で回復することを発見し、前立腺がんのホルモン療法の基礎となりました。前立腺がんの細胞も、この性質を持っていて、アンドロゲンに依存して増殖します。そこで、アンドロゲンを遮断することで、がんの増殖を抑え、縮小させようというのが、前立腺がんのホルモン療法です」

アンドロゲンは主に精巣とその他、副腎から分泌されている。精巣由来のアンドロゲンを抑える方法には、手術で精巣を取る外科的去勢があるが、最近は薬を使う内科的去勢がよく行われる。使われるのはLH-RHアゴニストという薬で、これを注射することで、手術で摘出したのと同じ去勢状態にすることができる。

一方、副腎由来のアンドロゲンは、抗アンドロゲン薬で抑える。この薬は細胞内のアンドロゲンの受容体に働き、アンドロゲンが前立腺がんに作用するのを防ぐ効果がある。

海外では去勢だけで治療することもあるが、日本では去勢と抗アンドロゲン薬投与の両方を行うことが多い。

数年間でホルモン療法に対して抵抗性に

このように精巣由来アンドロゲンも副腎由来アンドロゲンも遮断するのだが、進行前立腺がんに対してホルモン療法を行うと、その半数は、数年のうちにホルモン療法が効かなくなってしまう。前立腺がんの腫瘍マーカーであるPSA(前立腺特異抗原)の値が上がり始めるのである。

「この状態を以前はホルモン再燃がんと呼んでいました。がんを取り除いたのに出てくるのが再発、ホルモン療法などで抑えこんでいたがんが、再び増殖を始めるのが再燃です。しかし、この状態でもホルモン療法に対する反応性が残っている場合があり、最近はこの言葉の代わりに去勢抵抗性と呼ぶようになりました」

[図1 進行前立腺がんの治療戦略の1例]
図1 進行前立腺がんの治療戦略の1例

血液検査でアンドロゲンの値を調べ、きちんと去勢されていることが確認され、それでも病状が悪くなっている場合に、去勢抵抗性前立腺がんと呼ばれるのである(図1)。

去勢抵抗性になる原因は、すべてが明らかになっているわけではないが、アンドロゲン受容体の変異や感受性の亢進などが関係していると考えられている。変異が起こり抗アンドロゲン薬により逆にがん細胞の増殖が起こったり、受容体が敏感になってわずかなアンドロゲンにも反応してしまったりすると考えられている。

ドセタキセル=商品名タキソテール
エストラムチン=商品名エストラサイト

抗アンドロゲン薬をやめたり変えたりする

去勢抵抗性と判断するのは、4週間以上あけて測定したPSA値が、最低値より25%以上上がり、その幅が2.0ng/ml以上だった場合である。去勢抵抗性が明らかになった場合、どんな治療が行われるのだろうか。

「抗アンドロゲン薬を使っているのであれば、それをやめてみます。やめることで、悪くなっていた状態が落ち着くことがあります」

前立腺がんのアンドロゲン受容体が変異を起こし、逆に抗アンドロゲン薬に反応するようになっている場合、薬をやめることで状況が好転することがある。

「それでも悪くなってきたら、別の抗アンドロゲン薬に変えてみます」

抗アンドロゲン薬には、日本ではカソデックス()、オダイン()といった薬がある。最初にカソデックスを使っていたら、オダインに変える。問題は、それでも悪くなり始めた場合にどうするかである。

「別のホルモン療法薬を行う方法と、抗がん剤治療を開始する方法が考えられます。海外ではタキソテールという抗がん剤が標準で、日本でも同様の傾向ですが、まだホルモン療法が優先されることも少なくありません」

ホルモン療法としてよく使われるのは、エストラサイトという薬や、ステロイド薬だ。

カソデックス=一般名ビカルタミド
オダイン=一般名フルタミド

タキソテールで生存期間が延長

[図2 海外の臨床試験におけるドセタキセルの効果(生存率)]

図2 海外の臨床試験におけるドセタキセルの効果(生存率)

出典:Tannock IF,et al N Engl J Med 2004;351:1509  

D3P:3週間おきにドセタキセルを75㎎/㎡投与 D1P:1週間おきにドセタキセルを30㎎/㎡投与
MP:3週間おきにミトキサントロンを投与。D3P群で有意な生存期間の延長が認められた

[図3 ドセタキセルの海外・国内の代表的な報告]

試験名 人数 用量
(mg/㎡)
生存期間
(月)
PSA効果
(%)
TAX 327
(2004, 2008)
335 75 19.2 45
Shimazui T, et al.
(2007)
16 70 12.5 68
国内第2相
(2008)
43 70   44
Ide H, et al.
(2009)
20 75   45
出典:Tannock IF, et al. N Engl J Med. 2004; 351:1502-1512./Berthold DR, et al. J Clin Oncol. 2008; 26:242-245./Shimazui T, et al. Jpn J Clin Oncol. 2007; 37:603-608. Naito S, et al. Jpn J Clin Oncol. 2008; 38:365-372. /Ide H, et al. Jpn J Clin Oncol. 2010; 40:79-84.

[図4 ドセタキセルによる治療の流れ]
図4 ドセタキセルによる治療の流れ

承認量は75㎎/㎡だが、日本では70㎎/㎡で治療する場合も多い

去勢抵抗性前立腺がんの治療薬として、日本では2008年からタキソテールが使えるようになっている。海外の大規模な臨床試験(TAX327試験)で、タキソテールとプレドニゾン(ステロイド薬、本邦未発売)の併用群が、海外で前立腺がんの治療薬として評価されているノバントロン()併用療法の対照群に比べ、生存期間を延ばすことが明らかになった。

生存期間中央値は、タキソテール群が18.9カ月、対照群が16.4カ月だった(図2・3)。

「延長された生存期間はわずかですが、去勢抵抗性前立腺がんの化学療法が生存期間を有意に延長させたのは、これが初めてでした。QOL(生活の質)を改善するとされる抗がん剤はあっても、それまでは生存期間は延ばせなかったので、そういう意味で注目された結果でした」

日本ではタキソテールを3週おきに点滴で投与し、経口剤のプレドニゾロン(日本ではプレドニゾンの代わりに用いられる)は1日2回毎日服用する(図4)。

「外来化学療法室が充実している医療機関なら、外来でも治療できますが、最初の1~2サイクルは入院して行うところが多いようです。外来化学療法が難しい施設では、3週おきに1~2泊入院する方法をとることもあります」

ノバントロン=一般名ミトキサントロン(日本では前立腺がんの治療薬として承認されていない)


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