この春保険適用になり、前立腺全摘除術でますます期待される手術法
尿失禁や性機能障害を抑える最新ロボット手術
前立腺がんのロボット手術を
多数行い、治療成績を分析中の
田中一志さん
前立腺全摘除術といえば、米国ではロボット手術が主流だが、日本ではまだ、高額な手術機器を備える医療施設も少ない。
今年4月に保険が適用され、今後は普及が進みそうなこの手術。どういった手術かを紹介しよう。
前立腺全摘除術の最先端をいくロボット手術
前立腺のロボット手術は、正式には「ロボット支援腹腔鏡下根治的前立腺全摘除術」といい、「ダヴィンチ・サージカル・システム」(以下、ダヴィンチ)という手術用ロボットを用いて行う。このダヴィンチが開発された米国では、ロボット手術が広く普及しており、今、前立腺全摘除術の実に8割がロボット手術だという。
日本では開腹手術が主流だが、出血が多量になり、また前立腺の近くにある尿道括約筋(尿漏れを防ぐ筋肉)や勃起をつかさどる神経を傷つけると尿失禁や性機能障害が起こるのが難点である。
近年実施されている内視鏡手術は、出血が少なく、手術の翌日から食事も歩くこともできるので体に負担の少ない治療法だとされる。
また尿失禁や性機能障害などの合併症は、開腹手術と同程度と報告されている。ただ、手術の際の操作が難しく、臓器損傷や状況によっては開腹手術への変更もありうるという。
神戸大学医学部付属病院では2010年8月にダヴィンチを導入。2012年2月末までに行われたロボット手術は53件になった。
執刀にあたる神戸大学大学院医学研究科外科系講座腎泌尿器科学分野の田中一志さんは、根治性(がんを残さずとってしまうこと)と機能温存(合併症を抑える)とを両立させやすくなったと話す。
「開腹手術や内視鏡手術と比べて正確で安全性の高い手術ができ、尿失禁のコントロールはもちろん勃起神経の温存という、機能を保ったまま根治できる点で優れていると感じます」と、その手ごたえを話している。
ダヴィンチの鉗子は自由自在に動く
ダヴィンチはアーム(ペイシェントカート)と医師が操作するメインの機械(サージャンコンソール)、モニター(ビジョンカート)の3つの機器で構成されている | サージャンコンソール(左) ここで執刀医が操作し、ペイシェントカートの鉗子が動く。モニターに映る拡大された3次元立体画像(3D)を見ながら両手で動かす。内視鏡は平面画像(2D)で、遠近感がわかりにくいのが弱点。一方、3Dのダヴィンチは距離感や奥行きが正確につかめる ペイシェントカート(中央) ビジョンカート(右) |
ロボット手術は腹部に開けた穴からカメラや鉗子(棒の先にハサミやメスのついた特殊な器具)を入れ、医師が離れたスペースで操作する(図1)。患者さんのお腹の中で執刀医の手指の動きを再現させる点は、内視鏡手術と同じだ(図2)。
しかし鉗子の動きが制限される内視鏡手術と比べてダヴィンチの鉗子は自由自在に動き、操作しやすい(図3)。また内視鏡手術は平面画像でモニターに映し出されるが、ダヴィンチは立体画像。それで医師は距離感が正しくつかめる。このような特徴が精巧な手術を可能にした。
そのロボット手術による前立腺全摘除術(図4)は、次のような手順で行われる。①腹部に6カ所、5~12ミリの穴を開け、炭酸ガスで腹腔を膨らませる。②腹部の穴から鉗子などを入れる。③前立腺と膀胱を切り離す。④前立腺と精のうを周囲から剥離する(図5)。⑤前立腺と尿道とを切り離す。⑥前立腺と精のうを一緒に取り出す。⑦切断した尿道と膀胱とを縫合する。⑧リンパ節を郭清する。⑨穴を閉じる(図6)。
神戸大学医学部付属病院では、開腹か内視鏡、あるいはロボットという手術方法の適応基準は設けていない。それぞれの手術の説明を聞き、患者さん自身が決定する。つまり、ロボット手術は希望する患者さんに対して行っているものだ。
田中さんによると、前立腺全摘除術の場合、ロボット手術が際立って治療成績が良いのではなく、開腹手術でも良好で、決して劣っているわけではないという。
「ロボット手術と他の手術の成績を比べた試験のデータがまだ出ていないので、ロボット手術がどれだけ優れているかを示すことが難しいのです」
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