前立腺がんになってもあわてない――治療法、その選択肢と選択方法とは
これだけは知っておきたい! 前立腺がんの基礎知識
東京厚生年金病院
泌尿器科部長の
赤倉功一郎さん
前立腺がんは今、日本で最も増えているがんの1つ。一般的に高齢者に多く、進行が遅いのが特徴です。そのため、手術などの治療を行わずに、PSA(前立腺特異抗原)という腫瘍マーカーで進行をチェックしながら様子を見ること(待機療法)も多く、治療する場合も選択肢がたくさんあります。前立腺がんです、と言われてもあわてずに、医師とともに長期で治療の流れを見据え、できるだけダメージの少ない治療法を選ぶことが大切です。
進行がゆっくりで、初期には症状が出ない
前立腺は膀胱のすぐ下、膀胱に密着し、尿道を取り巻いているクルミ大の臓器です。精液の一部となる前立腺液を分泌したり、膀胱とともに排尿を調節する役割を担っています。
この臓器にできるがんを前立腺がんといい、日本では近年、最も急増しているがんです。その特徴をまとめると、
(1)高齢男性に見つかりやすい
(2)進行がゆっくりしている
(3)男性ホルモンに大きく影響を受ける
(4)初期は無症状
(5)転移は骨が最も多く、ついでリンパ節が多い
となります。このうち(1)の「高齢者に見つかりやすい」と(2)の「進行がゆっくりしている」は関係があると考えられます。たとえ若い時期にがん細胞が発生しても、進行が遅いので大きくなるのに時間がかかり、「臨床的に意味のあるがん(治療を行う必要のあるがん)」になる頃には、患者さんが高齢になっているということです。
また、(4)の「初期は無症状」というのは、前立腺がんが前立腺という臓器の外側の部分にできることが多いためです。
高齢者がよくかかる泌尿器科の病気に前立腺肥大症がありますが、前立腺肥大症は臓器の内側の部分で起こるため、前立腺の中央を通っている尿道を圧迫しやすく、頻尿、残尿感、排尿困難などの排尿障害が出やすいという特徴があります。ところが、前立腺がんは外側部分にできるため、こうした症状が出にくく、排尿困難や腰痛などの自覚症状が出たときには、かなり進行していることが多いのです。
なお、患者さんによく聞かれる質問に「前立腺肥大症が悪化して、前立腺がんになるのですか」というものがありますが、2つは別の病気で、前立腺肥大症ががんに変わることはありません。ただ、どちらも高齢者に多いので、「前立腺肥大症で医師にかかったら、がんが見つかった」とか、「検診で引っかかって精密検査をしたら両方あった」など、併発していることはよくあります。
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