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不明確な点がまだ多い若年者胃がん 生存期間は通常年齢層と変わらず

監修●中山厳馬 がん研有明病院消化器センター消化器内科
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2016年10月
更新:2020年2月

  

「若年者胃がんの治療につながる研究を進めたい」と話す
中山厳馬さん

罹患数も死亡数も依然多い胃がん。今年(2016年)7月に国立がん研究センターが公開した「2016年のがん統計予測」では、罹患数予測は大腸がんに次いで第2位(男性2位、女性4位)、死亡数予測では肺がん、大腸がんに次いで第3位(男性2位、女性3位)となっている。

胃がんの発症原因の1つとして、H. pylori(ヘリコバクター・ピロリ菌)感染が明らかになり、その除菌療法の普及により、若年者などを含めて胃がん罹患数が将来的に減少するものとみられている。その一方で、若年者での胃がんの特性については、これまで国内外で多く研究されてきたものの、通常年齢層(60~70歳代)に比べてその実態は不明確な点がまだ多い。そうした中、今年7月に神戸で開催された日本臨床腫瘍学会(JSMO2016)において、若年者での進行再発胃がんに対する治療成績を検討した研究報告が行われ注目された。その内容を報告者にうかがった。

胃がんの少数派、若年者胃がんをどう扱うか

がんの罹患数、死亡数は、統計的に年齢が高まるに従って急カーブを描いて増加していく。胃がんはその典型例で、死亡数は40代半ばまでグラフ上ではほぼゼロで表記されるような推移が、50歳あたりから急激に上昇していく。また、男性の罹患数、死亡数は女性の2倍にも上る(図1、2)。

図1 がん罹患率~年齢による変化

図2 がん死亡率~年齢による変化

若年者胃がんの研究を進めるがん研有明病院消化器センター消化器内科の中山厳馬さんは「40歳以下の胃がんは全体の5%程度、30歳以下となると1%未満になりますが、通常年齢層(60~70歳代)のがんとは異なる特性があります」と述べる。さらに「どの年齢でもがんとの闘いはつらいのですが、40歳以下の場合は小さいお子さんがいたり、ご両親も健在かもしれません。3世代の生活が変わり、多くの人々が悲しみます。社会的な悩みも深い。どのように対応し、治療していくかは大きな課題です」と付け加える。

40歳で線を引いて症例検討

中山さんは、これまでにも多くの研究報告が行われてきた「若年者胃がん」について、今回、所属施設の症例を対象にレトロスペクティブ(後方視的)にレビュー(再検討)した。今回の研究では、若年者を40歳以下と規定したが、中山さんは「何歳で線を引くかは研究者によります。45歳以下とする場合もあるし、30歳以下とする場合もあります。さらに『若年者胃がん』を独立したカテゴリーとして考えることに否定的な意見もあります」と研究の現状を説明する。

中山さんが今回レビューしたのは、2005~2016年にがん研有明病院消化器化学療法科を初めて受診した4,610人のうち、診断時の年齢が40歳未満であった症例237人。このうち190人が転移・再発例で、97人が主に同科で治療を受けた。その他は、ステージⅡ(II)/Ⅲ(III)で治癒切除後の補助化学療法を受け再発をしていない症例、治療の主体が他院で行われ詳細を把握できない症例やカンドオピニオン目的の受診のみであった症例などであった。

対象とした患者97例の背景(特性)は、年齢中央値は35歳(年齢範囲は16~39歳)、性別は男性39例、女性58例と通常年齢層と比較して、女性の割合が高い傾向にあった(図3)。

図3 がん研有明病院における若年者胃がん患者の特性(背景)

また転移部位は、腹膜播種72例、肝転移10例などで、これは既報の如く、通常年齢層と比較して腹膜播種が多い傾向が求められた。がん細胞の組織学的所見では、胃の粘膜構造を残した分化型9例、不規則に広がり胃の粘膜構造に似ていない低分化型85例と低分化型が多かったが、中山さんは「低分化型が多かったのも、これまでの報告と同様だった」としている。

今回は進行がんを対象としたが、中山さんは「過去には〝若年者のがんは発見時にすでに進行しているので予後が悪い〟と指摘されたこともあり、通常の検診年齢以下であることから、一見すると正しい指摘に思われがちですが、よく調べてみると必ずしもそうとは限りません。事実、がん研有明病院の症例を検討した別の報告では、内視鏡や腹腔鏡で切除可能なステージであった症例も決して少なくはありませんでした」と語る。

治療成績は通常年齢層と同様

対象症例の検討期間が2005~2014年と10年間にわたっているため、1次~3次治療に使用した治療薬に違いが見られるが、97例における全生存期間(OS)の中央値は14.1カ月、1年全生存率は61.4%だった(図4)。このうちS-1+シスプラチン療法を施行した39例での無増悪生存期間(PFS)の中央値は7.0カ月であった。

図4 がん研有明病院で治療を継続した若年者胃がん患者97例の生存期間

(縦軸)Probability: 生存確率
(横軸)OS. frm_Stage4: ステージⅣと診断されてから死亡または最終生存確認までの期間(月)
Number at risk: イベントに晒される危険がある患者数
Events/N: イベント症例数/全患者数
Median OS: 全生存期間(月)中央値(95%C.I): 95%信頼区間
OS at 1yr: ステージⅣと診断されてから1年経過時の生存者の割合(95%C.I): 95%信頼区間

生存期間や1次治療のPFSに関しては、異なる試験間の比較ではあるが、過去に日本で行われたSPIRITS試験(2007年)やG-SOX試験(2013年)の成績と同等と見なせる水準であった。

S-1(TS-1)=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ

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