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ステージ2と3では補助化学療法としてTS-1の術後1年間服用が標準治療に 胃がん術後の再発を抑えるエビデンスが登場した!

監修●桜本信一 北里大学医学部外科講師
取材・文●柄川昭彦
発行:2009年4月
更新:2019年8月

  
桜本信一さん
北里大学医学部
外科講師の
桜本信一さん

古くから胃がんの術後、再発を防ぐための治療として1~2年間の補助化学療法が行われてきた。しかし、このような術後化学療法で生存期間が長くなるとか、再発率が抑えられるといった確かなエビデンス(科学的根拠)は得られていなかった。だが、TS-1の登場により2001年10月に始まった大規模臨床試験は2004年12月まで続けられた。結果ステージ2、3の術後補助化学療法としてのTS-1の有用性が明らかとなり標準治療として認められることになった――。


昔から行われていたがエビデンスに乏しかった

日本の胃がん治療は、手術を中心にして進歩してきた歴史がある。日本人に胃がんが多かったこともあって、手術の技術は世界をリードするようになった。しかし、それでも手術ですべての胃がんが治るわけではない。手術を行っても、しばらくすると、腹膜、リンパ節、肝臓などの他臓器に再発してくるケースがあるのだ。これを防ぐための治療として、術後補助化学療法が行われるようになった。北里大学医学部の桜本信一さんによれば、1950年代から術後補助化学療法は行われていたという。

「胃がんの標準的な手術では、胃切除とリンパ節郭清を行います。それでも再発が起きてしまうのは、手術した時点で、目に見えないほど小さながんがすでに転移していたからだと考えられました。そうした微小ながんを死滅させるために、手術後の1年から2年にわたって、抗がん剤を投与するという治療が行われていたわけです」

ただし、このような術後補助化学療法が、確かに効果的であるという科学的な証拠はなかった。数多くの研究が行われてきたのだが、術後補助化学療法を行うことで生存期間が長くなるとか、再発率が抑えられるといった確かな結論は、得られていなかったのである。

そのため、2001年に『胃癌治療ガイドライン』が刊行されたときも、術後補助化学療法については次のように書かれていた。

「現時点では延命効果の面から見た推奨すべき術後補助化学療法はない。従って、漫然と投与することを慎み、標準的な術後補助化学療法のレジメン(治療計画書)を確立するために、積極的な臨床試験への取り組みが重要である。また症例の早期集積を行うため、多施設共同研究が望ましい」(『胃癌治療ガイドライン』2001年版)

刊行されたガイドラインは、推奨すべき術後補助化学療法はないとしながら、エビデンス作りのために臨床試験を行うべきだと語りかけていたのだ。これが、胃がんの治療に携わっていた多くの外科医を動かすことになった。また、TS-1(一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム)という抗がん剤が登場していたのも、大規模臨床試験が行われることになった大きな理由だった。

「日本では手術の治療成績がいいので、化学療法を加えても上乗せ効果がはっきりと現れにくかったのです。しかし、TS-1なら試してみる価値があると思った外科医は多かったと思います」

桜本さんは当時を振り返ってこう語る。

1999年に発売されたTS-1は、すでに進行再発胃がんの治療に使われ、優れた成果をあげていた。単剤での奏効率は、従来の抗がん剤の2倍以上となる47パーセント。また、胃切除後1年間投与の安全性もすでに確認されていた。こうして、大きな期待がかけられ、術後補助化学療法の臨床試験が行われることになったのである。

日本全国の病院がTS-1の臨床試験に参加

臨床試験の対象となったのは、進行度がステージ2、ステージ3A、ステージ3Bの胃がんの患者さんで手術でがんの取り切れた患者さんである。

ステージ1Aとステージ1Bは、そのほとんどが早期がんで、手術のみで治療成績が良好なため術後補助化学療法を必要としないことが明らかになっている。そこで、手術が成功しても再発の可能性があるステージ2、3A、3Bの患者さんが試験の対象となったわけだ。

ただ、厳密に言うと、ステージ2の中でも、がんが胃壁の筋層まで達していないものは除外されている。これも早期がんに分類され、術後補助化学療法は推奨されてないからだ。

手術を受け、がんが取り切れた患者さんを2つのグループに分け、一方は「手術単独群」、もう一方は「TS-1投与群」とし、両群を比較することになった。

「この臨床試験には、多くの病院と多くの患者さんが参加しました。しっかりしたエビデンスとするためには、統計学的に1,000人の患者さんが必要ということで、それを目標に試験が進められていったのです」

試験は2001年10月にスタートし、2004年12月まで続けられた。参加施設は109施設。参加した患者さんは1,059人となった。

TS-1投与群は、手術後6週間以内にTS-1の服用を開始し、「4週間服用し2週間休薬」のサイクルで、1年間治療を続けることになっている。これがTS-1の基本的な服用方法なのだ。ただし、副作用などで継続が難しい場合には、減量したり、休薬期間を延ばしたりできることになっていた。

「がんの治療成績では5年生存率がよく使われますが、この臨床試験では、5年生存率が出る前に中間解析を行うことが最初から決められていました。大規模試験なので、患者さんに与える影響が大きいからです」

中間解析が行われたのは、1,059人が登録されてから1年後。最初に登録された患者さんたちは、術後すでに4年ほどが経過していた。

「どういう結果が出るのかは、臨床試験に参加していてもわかりませんでした。この施設でも54例登録していましたが、1,000例を超える症例からどういうデータが導き出されるのか、予想できなかったのです」 結果は、TS-1による術後補助化学療法の有効性を証明するものであった。


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