70代からの肺がん罹患を積極治療で

自分の体は自分で守る!副作用に悩む患者さんの栄養相談を

取材・文●増山育子
発行:2014年3月
更新:2014年6月

  

斉岡明子 さん (栄養士・栄養相談室ララファミリー代表)

さいおか あきこ 1936年東京生まれ。父の仕事の関係で小学3年生まで天津(中国)に。帰国後は金沢市で暮らす。「食は生命なり」を学びたく上京。女子栄養学園本科(女子栄養大学の前身)卒業。栄養士資格を取得。結婚後は大阪在住。実妹を肺がんで亡くし、予防栄養の必要性を痛感。分子栄養学などを積極的に学ぶ。これを活かすため、大阪府の助成を得て「栄養相談室ララファミリー」を開設。NHK・毎日放送などTV・新聞などで紹介される。女子栄養大学生涯学習講師・大阪市生涯学習講師、栄養・食生活に関するセミナーやスポーツ栄養指導など幅広く活動している

アレルギーに悩む子どもやスポーツクラブの子、盲ろう者(視聴覚二重障害者)、高齢者の健康サポート。幼児の食育、企業の栄養セミナーなど、長きにわたり栄養士として食生活の指導・カウンセリングに務めてきた斉岡さん。肺がん罹患後は、その知識・経験を活かし、見事、自分なりに治療をこなしている。


健康そのものの体が、がん細胞に侵入された!

スタッフとの打合せ。「闘病中、彼女たちとの電話にどんなに励まされたか。栄養士スタッフには感謝」と

栄養士の斉岡明子さんは60歳だった1996年、当時急増していたアトピー性皮膚炎で苦しむ子どもたちの役に立ちたいと「栄養相談室ララファミリー」を開設。以来、きめ細かなカウンセリングと基礎栄養素サプリメントを活用した食生活全般の指導に取り組んでいる。

「栄養指導って好きな物まで我慢しなさいと言われるような怖いイメージがないですか?アレルギーの除去食は別として、好物やおいしいものは食べつつ『まごわやさしい』を食事に取り入れるという小さな努力を続けるのが良いと思うし、私自身そうしています」

そう言って穏やかに微笑む斉岡さんは、73歳だった2009年10月に肺がんを宣告され、闘病4年目。77歳となった今も「糖尿病や高血圧などの持病はなく、骨密度は同年齢比125%、入れ歯もなし、白髪はまれに2~3本あるくらいで毛染めも必要ありません」という。

もちろん煙草は吸わないし、周りに喫煙者もいない。

「そんな体ががん細胞に侵入されました。でも人間の体は60兆個の細胞で造られていて、がん細胞に侵されたのは60兆個分の1カ所だけ。私は何としてもこの1カ所だけで止めようと決意しました。最近はがん治療に有用だとして栄養療法が知られてきていますし、私も自分の知識や経験をがん闘病で積極的に活かそうと考えました」

まごわやさしい=吉村裕之さん(医学博士)が提唱するバランスの良い食事の覚え方。ま(まめ)=豆類、ご(ごま)=種実類、わ(わかめ)=海藻類、や(やさい)=緑黄色野菜・淡色野菜・根菜、さ(さかな)=魚介類、し(しいたけ)=きのこ類、い(いも)=いも類

期待を打ち砕く告知と イレッサ1錠から治療開始

斉岡さんは健康そのものだったが、70歳からは毎年5月20日の誕生日前に健診を受けるようにしていた。それがこの年は体のだるさや咳込むという異変を感じていたにもかかわらず受けそびれた。8月の欧州旅行中は止まっていた咳が帰国後に悪化。かかりつけ医で胸部レントゲンを撮影したのは9月になってからだった。

そこで「左肺に昨年はなかった影がある」と指摘され、地元では肺疾患に強い病院として定評のある国立刀根山病院(現・独立行政法人国立病院機構刀根山病院)で精密検査を受けた。

そして10月。主治医の難波良信さんから「左肺上葉部に約5㎝の悪性腫瘍あり」という検査結果が、斉岡さんと家族に告げられた。肺がん治療においては高齢者として扱われる年齢だったが、全身状態が良いので手術が可能、抗がん薬治療という選択肢もあると説明を受けた。

「もしかしたら良性かもという期待を打ち砕かれ、『夫と私の顔がこわばった』と同席した次男は言っていました。いくら冷静にいようとしても、両親と妹をがんで亡くしていますので……そういうものでしょう」

次男が余命を訊ねると、「1年は大丈夫だが、その先は今はわからない」との答え。主人はかなりショックを受けた様子で、私は思わず「『大丈夫よ!』と明るく言った」と振り返る。

「次男はそのとき『自分たちのほうが励まされるようだった』と。この時点で私は『がんになってしまったものはお医者さんに任せ、がんになっていない細胞は栄養療法を活かして自分で守るぞ!』と強く思いました。その思いがなければ私は泣いてしまって、逆に家族が私を慰めてくれたでしょう」

斉岡さんは抗がん薬治療を選び、遺伝子検査を受けた。その結果、EGFR遺伝子変異型と判明。このタイプに効果の高い分子標的薬イレッサの1日1錠服用が始まり、60日間の入院予定となった。

「その時、毎週月曜日にFM放送の生番組を受けもっているのをどうしようか?ララファミリーは?と思いました」

入院中は、頭皮や腕につらい湿疹は出たが懸念された副作用の間質性肺炎もなく、放送局にも通え、体調も良かったため50日で退院した。12月中旬のことだった。

イレッサ=一般名ゲフィチニブ

サプリメントを利用した栄養療法で治療に耐える

「がん闘病中は、治療や副作用の影響で満足な食事ができないこともあり、栄養状態が悪くなりがちですが、そもそも通常でも細胞の活動に必要な栄養素は、現在の食べ物からだけでは十分ではありません。栄養が吸収される過程で損失分が生じ、栄養欠調状態になるからです。それをサプリメントで補うのも1つの栄養療法です」

がんになっていない細胞は、自分で守ると決めた斉岡さん。全身の細胞全体を元気にすることで健康な細胞を守る。つまり転移の予防と、副作用の軽減、薬の効果を最大限発揮させることを目指して実践したのがこの方法だ。

サプリメントというと誤解も多いが、斉岡さんが用いるサプリメントは厳選した基礎栄養素のみ。「体の細胞にあるもので、欠落したものを多めに取り入れるだけです。サメ軟骨など、人間の体内に存在しないものは一切使いません」と強調する。

もちろんサプリメントの摂取について、イレッサの効果を減弱させる成分を含むグレープフルーツは食べない、また、それを含有するサプリメントは摂らないことなどを、栄養士である自分と主治医・薬剤師と共に十分に話し合った。

「抗がん薬治療中は栄養の吸収率が半減するといわれているので、腸内状態を良好に保つ善玉菌を食べ、量や摂り方も工夫しました。舌にのせた瞬間から吸収が始まるマルチビタミンミネラル、EPAやDHAと呼ばれる魚のオイル、炎症を抑える作用のある月見草オイルなど必要に応じて7~8種類くらい、通常のほぼ倍量を摂りました」

EPA=エイコサペンタエン酸 DHA=ドコサヘキサエン酸

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