やっと診断がついた悪性リンパ腫ステージⅣ 生き方の呪縛から解き放されコスプレスタジオを開設

取材・文●髙橋良典
撮影●「がんサポート」編集部
発行:2020年12月
更新:2020年12月

  

田中 茜さん 和風中華撮影スタジオ すたじお灯屋店長

たなか あかね 1987年横浜市戸塚区生まれ。2018年2月、30歳のときに悪性リンパ腫ステージⅣと告知される。抗がん薬治療中、アレルギー、脱毛、嘔吐などの副作用に苦しめられたが寛解。2020年6月、横浜市戸塚区にコスプレ向け貸切限定の撮影スタジオ「すたじお灯屋」をオープン

田中茜さんは30歳の2018年2月、悪性リンパ腫ステージⅣと宣告された。脱毛や嘔吐、皮膚が腫れあがるなどのつらい闘病生活を支えてくれたのは、両親、家族、友人らの励ましもさることながら、元来好きだったコスプレだった。一旦は好きだったコスプレを止め結婚、不妊治療を行ないながら子づくりに励んでいた。

しかし、悪性リンパ腫の闘病を機に自分らしい生き方をしようと決心する。そして「どんなときであっても気兼ねなく好きなことを楽しめる」空間を作りたいと、横浜市戸塚区にコスプレ向け貸切限定の撮影スタジオをオープン。自分の命と向き合ったがん治療中より自分の気持ちを蔑ろにしていた不妊治療中のほうが余程つらかったと語る田中さんにそれまでの思いを訊いた。

全身のリンパ節が腫れ、声嗄れが

「何かおかしいな」と田中茜さんが自身の体の変調に気づいたのは2017年7月のことだった。全身のリンパ節が腫れてきたのだが、それは前からよくあったことなので「人間って、こういうものなのかな」くらいにしか思っていなかった。

ただ、いつもと違って声も嗄(か)れて、出なくなっていた。「風邪かな」と思い、近所の耳鼻科を受診し薬を処方されたのだが、声の嗄れは一向に良くはならない。

「医師からは『声帯にポリープが重なって、声が出にくい状態ではないか』と言われたのですが、早く子どもを産まなくては親孝行できないと思い込んでいたので、ポリープぐらいなら『まあいいかな』と思って、そのままにしていました」

ところが、その年の12月、歯が猛烈に痛み出して近所の歯科を受診すると、歯科医から「虫歯ではないけど口腔内が腫れています。紹介状を書くので大きい病院で検査してください」と告げられた。

歯科医から紹介された総合病院の口腔外科を受診したのだが、この病院でも判断できなかった。そこでさらに地元の大学病院の口腔外科を紹介され、MRIを撮影すると「口腔内の腫れは病気ではないのだが、喉に病気がある」と言われ、今度は東京の大学病院の耳鼻咽喉科を紹介された。

ここでも田中さんは血液検査を始めあらゆる検査を受けたのだが、はっきりした原因はわからない。結局、喉の奥にあるポリープの生検を受けることになった。

悪性リンパ腫ステージⅣと告知

何カ所目かの病院でやっと診断がついた

病院をたらい回しにされ、「もしかしたら自分はとんでもなく悪い病気……、もしかしてがんかも知れない」と不安になっていた田中さんは医師に「自分はがんなのですか」と尋ねた。

すると医師から「血液検査の結果はがんを示す数値は高くはなってないから、がんではないよ」と言われて安心した。

生検の結果は1週間後に判明すると言われたのだが、医師から「がんではないよ」と言われていたので、その間を心配することなく過ごした。

しかし、検査結果はまったく田中さんが思ってもみないものだった。医師から「悪性リンパ腫です」と告知された。

そもそも悪性リンパ腫がどういう病気かよくは知らなかった。しかし、少なくとも悪性という名前がついている以上、それはがんだということぐらいはわかったという。

「悪性とリンパという何か危ない組み合わせだなという思いはあったので、その診断名を聞いたとときには絶望的な気持ちになりました。悪性リンパ腫と告知した先生は臨時で病院に来ていた若い先生で、詳しくは『翌日、悪性リンパ腫に詳しい先生に会いに来てください』と言われました」

翌日、病院で医師から改めて悪性リンパ腫で、ステージがⅣであることを告げられた。田中さん30歳になってすぐのことである。

悪性リンパ腫は血液細胞に由来するがんで、白血球の1つであるリンパ球ががん化する病気だ。悪性リンパ腫はがん細胞の形態や性質によって70種類以上に細かく分類されているが、大きくはホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫(日本人の約90%)の2つに分類される。

田中さんの場合、最初は非ホジキンリンパ腫の月単位で病状が進行する中悪性度のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫と告げられた。しかし、途中違うかもしれないと言われ、入院予定日が延びる事態が起こった。結局は最初に診断された病名に落ち着いたのだが、そのくらい悪性リンパ腫は診断が難しい病気である。

抗がん薬治療を重ねるごとに副作用に慣れ

田中さんは治療を受けるなら地元の病院でとの希望があったため、紹介状を書いてもらい神奈川県のがんセンターで治療を受けることにした。

2018年2月に入院し、抗がん薬治療、R-CHOP(アール・チョップ)療法が開始された。

入院期間は当初、1クール2週間の予定だった。

しかし、分子標的薬のリツキサン(一般名リツキシマブ)が投与されると、アナフィラキシーショックの副作用が思いのほか強く出たため、1クール目の途中でドクターストップがかかった。

「肌がボコボコになって、皮膚に岩がついたように腫れ上って痒くなりました。また、呼吸もしづらくなりました」

1クール目はリツキサンの副作用で苦しめられた。結局3クール目まで入院することになった。

「でも丸々入院するということではなく、アナフィラキシーショックが出たときのために、薬を投与するときだけ入院することになりました」

当初、抗がん薬治療は6クールで終了する予定だったが、6クール目が終了した時点で主治医からもう2クールやったほうがいいと言われ、結局、最大限度の8クール受けた。

リツキサンは通常3時間程で点滴するのだが、その通常速度で点滴するとアナフィラキシーショックが出る可能性があるので、ゆっくりゆっくり体内に入れるようにしたことで点滴に19時間も要したという。

「3クール目以降はリツキサンに体が慣れてきたのか、点滴にかかる時間は3時間かからなくなり、最終的には1時間かからなくなりました。主治医の先生はびっくりされていたのですが、私は1クール目が一番つらく、クールを重ねるごとに、その副作用に慣れていきました。主治医の先生がおっしゃるには通常、副作用はクールが重なるごとにつらくなってくるので『田中さんの場合、珍しいね』と言われました」

しかし、さすがに点滴を受けた当日は身体がだるく、何もする気は起きなかったという。 そんな抗がん薬治療を8クールで終了して寛解に至った。現在は経過観察中で体調は悪くはないという。

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