合唱があるからがんと共存できる 膀胱がんと診断され5回の手術
緒方富夫さん 大手設備会社・技術士・エネルギー管理士、建設設備士
合唱・スケッチが趣味の緒方富夫さんが念願のイタリアへの7泊8日の旅。その最終日の明け方、排尿するとココア色でビックリ。帰国し病院に飛び込むが、最初は痛み止めを処方されるだけで帰された。ところがその後、時間の経過とともに尿が出なくなり、とうとう夜間救急に駆け込むことに。結果、膀胱がんと診断される。これまで都合5回の手術を受けたとのこと。そんななか精神的な支えの一つになっている合唱の魅力についても訊いた――。
イタリア旅行の最終日、ココア色の尿が……
大手設備会社で空調・クリーンルームの設計・施工・省エネ計画などを担当していた緒方富夫さん。休暇がやっと取れ念願の7泊8日のイタリア観光に出かけたのは、2008年9月末のことだった。
「参加したツアーは、新婚などのカップルが多くて1人旅は私だけでしたので、『羨ましいな』と思ってみんなを見ていましたね」
ツアーの最終日はローマで宿泊だった。宿泊先のホテルで明け方尿意を覚え、目覚めた緒方さんがトイレに行き、排尿するとそれはココアのような色をしていた。
眠気も吹き飛んだ緒方さんだったが、以前、尿路結石を経験していて、そのときには濃い紅茶のような尿が出た経験があったことを思い出した。
だから「また尿路結石になったのか……」と心配になった。以前の経験から、尿路結石に伴う痛みの程度がどんなものかわかっていたからだ。
「東京に着くまでの15時間の間に『あのときの痛みが出たらどうしよう』ということばかり心配していました」
幸いにもそんな痛みは現れず、やっとの思いで東京にたどり着いたその足で、近所の泌尿器科のある病院に駆け込んだ。
膀胱がんと判明する
「土曜日の11時半ぐらいだったと思います。『やった、なんとか診療時間に間に合った!』と、ホッとしました」
しかし、ホッとしたのも束の間。「ココア色の尿が出たので、診て欲しい」と尋常ではない症状を訴えるも、処方されたのは痛み止めだけだった。
「それだけか」と思ったが仕方なく、一旦帰宅することに。
しかし、時間の経過と共に尿の出具合が悪くなっていき、心配になって午後3時頃、再びその病院に出向いて行った。
そのときも前と同じことを言われ、仕方なく再び帰宅した。が、午後7時過ぎになるとほとんど尿が出なくなってしまった。
「これはもう駄目だ」と、病院に電話を入れ、「尿が出なくなって困っている。何とかしてくれ」と切迫した声で頼みこみ、夜間緊急窓口に出向いて行った。
「尿が出なくなって困っています。何とかしてください」
緒方さんの必死の頼みで、やっと当直の医師2人が診察することになった。
事情を聞いた医師が尿道に挿管すると、大量の血尿が出た。その状態を見た医師たちは「これはひどい」と叫んだという。やっと自分の症状を理解してくれたのかという思いで「だから言ったでしょう」と返した。
なぜ、最初から自分の言う事を聞いてくれなかったのかと思ったが、ひとまずこれで安心できた。ところが、それは緒方さんが以前経験した尿路結石ではなく、膀胱がんだった。
悲壮感はなかった
膀胱に腫瘍が見つかったためそのまま入院することになり、翌々日の月曜日に経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)が行われた。この手術は全身麻酔を行い、切除用の膀胱鏡を尿道の出口から挿入し、モニターを見ながら高周波電気メスで腫瘍を切除する術式である。
幸いなことに緒方さんの膀胱腫瘍は何とか切除できた。
術後、切除した検体を検査することでがんかどうかが判明するのだが、主治医からの説明では「細胞検査にはしばらく時間がかかりますが、膀胱の腫瘍は100%がんなんですよ」と言われた。
検査結果は出ていないが、主治医の言い方では膀胱がんであることは間違いないようだ。
それを聞いて緒方さんは「ああ、膀胱がんになっちゃった」とは思ったが、不思議に悲壮感は湧かなかった。
「膀胱がんにはさまざまなタイプと進行度合いがありますが、今後の細胞検査の結果を待たなければ、ハッキリしたことはわかりません、とも言われました」
その後の検査でも、緒方さんのがんはきれいに切除されていることが判明した。
3年後に再発、再び切除手術を
しかし、膀胱がんの場合、再発しやすい傾向があるため、残ったがん細胞を死滅させ再発を予防する目的として膀胱内注入療法が行われる。
注入に用いられる薬はBCG(ウシ型結核菌を生理食塩水で希釈)療法と抗がん薬に大別される。
共に尿道カテーテルで膀胱内に注入するのだが、一般に抗がん薬よりもBCGのほうが治療効果は高いとされている反面、副作用はBCG療法のほうが強く出る傾向がある。
膀胱内注入療法は膀胱内にカテーテルを挿入し、管を通して抗がん薬投与を行い、抗がん薬を20分程度、膀胱内に留めておきその後、排尿する。
緒方さんはアントラサイクリン系の抗がん薬ピノルビン(一般名ピラルビシン)を注入する治療を最初は毎月、その後3カ月に一度、1年間に渡って行った。
それ以外に4カ月に一度、尿道から内視鏡を挿入して膀胱内の検査をし、毎月に尿検査を行い再発の有無を確かめる検査が続いたが、膀胱がんは再発しやすいいと言われていた通り、3年経って再発が見つかり再び手術をすることになった。
「それまでなんの異常もなかったのですが、内視鏡検査で膀胱内を調べるとがん細胞が見つかったのです。主治医からはもともと膀胱がんは再発しやすいと言われていたし、転移のほうが怖いとも言われていたので、再発したと聞いても別に驚きはありませんでした」
緒方さんはたまたま会社で加入するがん保険に入っていたため、がんに罹っても経済的には医療費の支払いはなく、むしろプラスになっていて1回目、2回目の手術では大いに助かった。
しかし、3回目の手術ではがんでなかったため保険金は下りなかったとのこと。
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