お笑いがあったから頑張れた 33歳で直腸がんステージ3に

取材・文●髙橋良典
写真提供●ラフィーネプロモーション
発行:2022年3月
更新:2022年3月

  

尾形友道さん お笑い芸人

オガタ トモミチ 1986年山形県米沢市生まれ。2005年高校卒業後、プロダクション人力舎タレント養成所スクールJCA14期生として入所。卒業後、2014年1月1日、同期の長谷川さんとお笑いコンビ「パシフィックオーシャンパーク」を結成。その後、コンビ名を「ザ・ギンギンマル」に。芸名を「オガタ。」に改名し、現在に至る。ラフィーネプロモーション所属

お笑いコンビ「ザ・ギンギンマル」の尾形友道さんは33歳のとき直腸がんステージ3と診断され、手術と抗がん薬治療を受ける。ところが、抗がん薬治療が終わったその日に肝臓に転移が見つかったのだ。その2カ月前に「ザ・ギンギンマル復活祭」で復活を果たしたばかりだったのに……。さてこれからというときに、またまた試練が尾形さんに襲いかかる。この試練をどう乗り越えたのか、尾形さんに訊いた。

痔と思っていたらステージ3の直腸がん

お笑いコンビ「ザ・ギンギンマル」。右は相方の長谷川デビルマルさん

お笑い芸人の尾形友道さんが体調に変化を感じたのは2020年秋、33歳のときのことだった。以前から切れ痔気味で、痛みがあっても2~3日すると症状が落ち着いていたのだが、そのときは1カ月経っても鈍痛が続いていた。

「それでもあまり気にはしていなかったのですが、後輩が痔瘻(じろう)の手術をするという話を聞いて、これ以上悪くなっては困るなと思い、近所の肛門科で診てもらうことにしました」

「これは、うちでは診れません。別の病院を紹介するので、そちらで診てもらってください」と、クリニックの医師に肛門を触診するなり言われた。

翌日、紹介された病院に出向いた。

大腸内視鏡で直腸内部を医師と一緒に見ていると、尾形さんにも肛門のすぐ近くに大き目の腫瘍ができていることが見て取れた。まだCTやMRI検査が残っていたのだが、内視鏡検査をした医師から、「検査結果を聞きに来るときには、誰か一緒に来たほうがいい」と言われた。

「私も大腸内視鏡で直腸内を見て、結構大きい腫瘍があるのがわかったので、『これは普通じゃないよな』と思いましたね」

尾形さんの父親がちょうど単身赴任で東京都下の三鷹に住んでいたので、3週間後、検査結果を聞きに2人で病院に出かけて行った。

「当初は自分1人で検査結果を聞きに行くつもりだったのですが、このことを父に話すと、1人じゃ心配だろうから一緒に行こうと言ってくれました」

精密検査の結果は、転移はしていなかったものの、医師から直腸がんステージ3と告げられた。

「やっぱりそうなっちゃったかというのと、芸人をこのまま続けられるのか、その思いが強くありました」

尾形さんは「ザ・ギンギンマル」というお笑いコンビを結成していて、相方の長谷川さんには病院で腫瘍が見つかったけど、まだなんとも言えないとは話していたからだ。

迷いはあったが手術することに

医師から今後の治療方針として、すぐ手術するか、術前化学療法を行って腫瘍を小さくしてから手術を行うかの2つの選択肢を提示された。

ただ医師からは「尾形さんの腫瘍はかなり大きくなっているので、半年間の術前化学療法を行ったとしても、腫瘍が小さくなっているより逆に大きくなっている可能性もないわけではない。手術ですぐに切除したほうが賢明だ」とのアドバイスも同時に受けた。

一方、尾形さんにも迷いがあった。それはこのまま手術を受ければ、人工肛門(ストーマ)で生きていかなければならないという現実だ。

「いますぐ手術をすれば人工肛門になるとの話もされたので、抗がん薬で腫瘍を小さくして手術をすれば、人工肛門を回避できるならそうしたいと思いました」

迷っている尾形さんを見て医師は「ここでいますぐ決めなさいとは言わないから、よく考えて4~5日後に改めていらっしゃい」と優しく言ってくれた。

診察が終わり病院を後にしようとしたとき、たまたま病院の廊下で先ほどの医師にばったり出会った。そのときに先生から「人工肛門は心配だろうが、早めに手術はしたほうがいい」と改めて言ってくれた。

「改めてそう言われたことで、どうしようか、迷っていた思いは消え、すぐに手術することに決めました。父親も私と同じ意見でした」

術後、6カ月で復帰ライブの舞台に

2020年12月7日に入院、9日に直腸がん切除と同時に人工肛門造設手術を行った。

手術時間は7時間に及ぶ大手術だった。

入院期間中に人工肛門の取り扱いや手入れの仕方などを教えてもらい、「自分で手入れができるようになったら退院できる」と言われ、自分でストーマケアもできるようになり入院2週間で退院することができた。

2021年1月からは再発防止のため、2週間に1度のサイクルでmFOLFOX6療法(5-FU+レボホリナート+エルプラット)が始まった。

「最初の3回はポートの埋め込みがあったので入院して行いましたが、それ以後は、外来で、都合10回行いました」

副作用はどうだったのだろうか。

「手足のしびれ、吐き気、倦怠感、便秘などの副作用がありました」

手術から半年後の2021年6月25日、尾形さんは復帰ライブのステージに立てるまでに快復していた。そして、8月には最後の抗がん薬治療も終了した。

「闘病中、舞台を休んでいるときもTVやYouTubeを見ていましたが、お笑いが多くて、自分はいまそれができないのだと、取り残された気持ちにもなりました。だから何としてもがんを克服して、相方のためにも、もう一度舞台に立ちたいという思いは強くありました。

だから6月25日に『ザ・ギンギンマル復活祭』が出来たときには本当に嬉しかったし、楽しかったです。本当に続けてきてよかったと思いましたし、相方にもその間、待っていてもらったことに感謝しています」

そのライブでは、がんのことはネタにしたのだろうか。

「自分が大腸がんだということは公表していたので、そのときに来てくれたお客さんは皆さん知っていたので、そのことをMC(司会者)や相方からいじられてもお客さんが笑いづらいという感じはなかったです。ただ、普通のライブでは3分ぐらいでネタをまとめるのでその短い時間のなかで、自分の病気についてお客さんに受け入れてもらうのは難しいですね」

「復活祭」のための事前リハーサル

2021年6月25日、「ザ・ギンギンマル」の復活ライブでのオガタ。さん

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