食道がんになった料理人は持ち前の探究心をフルに発揮し術後を乗り切る

食事でがん克服それは料理人の意地を賭けたミッションだった|米山 昭さん(料理人)

取材・文●吉田耀子
発行:2012年12月
更新:2013年8月

  
米山 昭さん (料理人)米山 昭さん(料理人)

よねやま あきら
1970年都内の調理師学校卒業、千代田区のホテルにオードブル修行志願で3カ月間勤務。その後、アルバイトをしていた地元の天ぷら店の親方の元に戻り一緒に伊東の和食店へ。1971年夏に小田原駅近くのビル地下で8席の店を親方の協力を得て創業。1983年近くの一軒家に移り会席料理店として今日に至る

古典料理の復元に取り組んできた郷土料理店『米橋』を営む米山昭さん(62歳)。6年前、56歳のとき食道がんで大手術を受ける。もともと化学物質に敏感な体質で、術後抗がん剤治療はあきらめざるをえなかった。そこで料理人の腕を生かして「食」とリハビリで再発予防に取り組む。それはどんな料理だったのだろうか。

郷土料理の店を開き古典料理の復元に尽力

2012_12_16_03昭和46年に創業した郷土料理店「米橋」(上)店内には個室が3部屋ある。料理の吟味もあるため、予約の時間は最低半日みてほしいと米山さん(下)

幼いころから、食べ物には敏感な体質だった。給食に添加物や化学調味料が入っていると、体が拒絶反応を示してしまう。

「子どものころから食べ物には苦労させられましたね。料理の道に入ったのも、自然の成り行きです」

21歳で店を持ち、地物を使った江戸前スタンド天ぷらを営業。だが、護岸工事や河川ダムの影響で地場の魚が姿を消し、天ダネが獲れなくなった。そこで、郷土色の強い会席料理を始めたところ、次第に接待客も増え、経営は軌道に乗った。

「外食産業ブームで個人の料理店が消え、職人の手仕事が忘れられていく。そんな時代の空気を感じていたので、支店を増やすことはあまり考えていなかった。それよりも、料理人として1つのものを極めていければ、と思っていました」

米山さんがライフワークとなる“古典料理”と出会ったのは、そんな折のことだ。東京で古典料理の研究会が発足し、栄養学や本草学、江戸料理などさまざまな分野の研究者が結集。米山さんも料理人として参加し、古来の調理法を用いた古典料理の復元に務めた。

「古典料理のポイントは、醤油と砂糖を使わないこと。砂糖の代わりに水あめ・蜂蜜などが使われていました。古典料理は、糖尿病とは無縁の健康食だったのです」

小田原は戦国武将・北条早雲の拠点として栄え、数多くの史跡が残る土地柄である。その地の利を活かし、古い文献をもとに再現した「歴史・郷土会席」が、『米橋』の新たな看板となった。『米橋』はマスコミに注目され、米山さんは古典料理で知る人ぞ知る存在となっていく。

56歳で進行性食道がんを発症

米山さんを病魔が襲ったのは、56歳になった2006年11月下旬のことだ。

商売に陰りが見え始め、若い職人を外に出して、夫婦2人で店をやっていくことになった。

(暮れで忙しくなる前に、念のため検査をしておこう)

軽い気持ちで、近所のクリニックを受診。だが、内視鏡検査のモニターに映し出された異様な塊を見て、医師は血相を変えた。「がん」という言葉こそ口にしなかったが、かなり進行した悪性腫瘍であることをほのめかした。

「年内に治療したほうがいい。このままだと手遅れになるよ」

静岡がんセンター宛てに紹介状を書いてもらい、3日後に食道外科を受診。告知を受けたのは、12月22日のことだった。主治医によれば、すでにリンパ節に転移がみとめられ、3期の可能性が40~50%、4期の可能性が30~40%だという。治療法として、手術と補助化学療法を組み合わせる方法と、手術をせずに放射線療法と化学療法を行う方法の2つがあると告げられた。

手術の説明書には、手術の内容が事細かに書かれている。

(まるで、魚の3枚おろしだ)

と、米山さんは胸の中でつぶやいた。手術をすれば、長時間、内臓を外気にさらすことになる。手術がうまくいったとしても、後遺症との苛酷な闘いが待っているだろう。だが、米山さんは主治医にこう告げた。

「俺も職人の端くれだ。専門家の先生を信用して任せるよ」

告知の日は冬至だった。病院からの帰り道、つるべ落としの夕日を見ながら、ひどく黄昏れた気持ちになった。三島駅で自前のサンドイッチを食べ、帰りの電車に乗ろうとしたがベンチに置き忘れたり、ホームや電車を間違えて右往左往した。

「自分では大丈夫だと思っていても、心の中では怯えていたんでしょう。三島駅にレントゲン写真を忘れたことも、その日の夜11時過ぎまで気づかなかったんですから」

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