仕事優先で放射線治療+ホルモン併用療法を選ぶ 思い立ってPSA検査すると前立腺がん

取材・文●髙橋良典
写真提供●五十嵐 公
発行:2024年1月
更新:2024年1月

  

五十嵐 公さん アジアンナイス株式会社海外事業担当

いがらし いさお 1948年東京都生まれ。1972年3月東京外国語大学中国語学科卒。同年4月ジャパンライン入社。主として中国関係航路の運航管理、企画、採算管理などの業務に従事。1986年7月に退社。中国の国営海運会社中国遠洋運輸公司の日本代理店に移籍後、2013年7月退社。以後、ODA資金に支援を受けた日本企業ミャンマー内陸水運の近代化支援事業に参加。ミャンマーの国内事情により2023年4月ミャンマー事業から撤退、現在に至る

あるとき、「前立腺がん検査を受けてみよう」とふと思い立った五十嵐公さん。受けてみた結果は前立腺がんの疑い。その後の精密検査で前立腺がんと確定される。治療法は手術と放射線+ホルモン療法併用の2つを提示された。そのとき抱えていた仕事の関係で、入院することができないと、放射線治療+ホルモン併用療法を選択する。しかし、放射線治療中に思っても見なかった苦労が待ち構えていた。

PSA値8.6で「がんの疑いが50%あります」

五十嵐さんは以前から高血圧と高脂血症の治療のため、3カ月に1度、近所のクリニックに通院していた。

2022年6月のある日、ふと前立腺がん検査を受けてみようと思い立った。

「とくに体に何かあったわけではありませんでしたが、『前立腺のPSA値の検査をやってみたらどうだろう』と医師に相談してみました」

「その検査はすぐにできるから、やりましょう」と言われて検査した結果、PSA値が8.6だった。このPAS値を見て「これは少しまずいですね」と医師に言われた。

その2週間後、クリニックの医師から紹介された総合病院の泌尿器科医の診断を仰いだ。

医師からは「このPSA値からすると、がんの可能性が50%くらいあります。精密検査をする必要があるので、CTとMRIの検査を行いましょう」と言われた。

検査の結果は、「やはりがんの疑いがあるので、針生検を受けてください」だった。

五十嵐さんは8月下旬、2泊3日の入院で針生検を受けることになった。どんな検査だろうかと心配になり、医師に尋ねると「前立腺に14カ所くらい針を刺して細胞を採取します」と言われた。2泊3日も入院しなければならないほどの大変な検査なのか、と改めて思ったという。

「針生検は全身麻酔で行われたので、生検中は何もわからなかったのですが、麻酔から目覚めると体に4本ほどの管がつながれていて、痛みもありました」

排尿すると血尿が出て、退院してからもその状態が1週間くらい続いた。

肝心の検査の結果はというと、「細胞培養するので、診断結果が出るのが1カ月くらいかかります」と言われた。

仕事の都合で放射線+ホルモン併用療法を選ぶ

9月下旬、結果を聞きに総合病院を訪れた五十嵐さんは、医師から「やはり、がんです。14カ所のうち6~7カ所からがん細胞が見つかり、そのなかには進行しているものもありました」と告げられた。

進行度については、とくに何も言われなかったと言う。

当時を振り返り、「自分も歳も歳ですし、以前からいずれ何かのがんになるだろうと思っていたので、とくに驚くことはありませんでした」と淡々と語る。

「また医師からも『前立腺がんの場合、手術でも放射線治療でも生存期間は8~10年くらいありますよ』と言ってもらえたたことで気持ちが軽くなりました。私は現在、75歳なので10年も生きたら85歳になるので、それならそれでしょうがないじゃないかと思いましたね」

その後、骨シンチ検査を行なって転移はないことも判明した。

治療法の選択肢として、「1つは放射線治療+ホルモン併用療法、もう1つはロボット支援があります。ロボット支援手術を行うなら、推奨する大学病院で受けることができます」と言われた。

また、医師からこうも言われた。

「手術の場合は退院後も数週間、痛みや排尿障害、出血が続くことがあります。一方、放射線治療の場合は、QOL(生活の質)に大きく影響するようなことは、あまりありません。また、これまでの放射線治療は約40回の照射が必要でしたが、最近の新しい機器は照射線量を倍にして、半分の20回で終了できます」

五十嵐さんが紹介された総合病院の放射線科では治療ビームの形状と強度を変化させながら、身体を回転させ連続的に照射するという強度変調回転放射線治療(VMAT)を導入しており、正常細胞を避けてがん細胞だけを狙い撃つ従来の強度変調放射線治療(IMRT)を、より進歩させた治療法を行っていた。

VMATは治療装置を回転させながらあらゆる方向からIMRTを行うことができる。また照射範囲を自在に設定できるだけでなく治療時間を大幅に短縮することが可能だ。

VMATはIMRTに比べてより短い照射時間の60~90秒で照射を終えることができる。そのため患者自身の負担が軽減されるだけでなく、治療中の微妙な動きが減り、狙った箇所に正確に照射できるため、治療精度を向上させることにもつながっている。

2018年5月外国船社ミャンマー支店を訪問した五十嵐さん(右)

五十嵐さんは1970年代から長らく中国の海運関係での仕事に従事し、2013年以降はODA資金に支援を受けた日本企業ミャンマー内陸水運の近代化支援事業に2023年3月まで携わっていた。前立腺がんが見つかったのはその仕事の最中だった。

2022年10月からミャンマーに何度も出張して、その際集めた情報をベースに国土交通省の外部団体から要求されていたレポートを作成していた。そのレポートの締め切りが2023年2月末だったので、もし手術ならばその間、1カ月仕事が出来ないとなると締め切り期限が守れないことになる。だから必然的に放射線治療とホルモン療法との併用を選択することになった。

「放射線治療の場合は、1日1時間くらいの拘束で済むので、そちらを選択しました。医師からも『放射線治療の場合はQOLを維持できますよ』と言われたことと、苦痛が少ないと言われたことも決め手になりました」

過去には睾丸摘出も

2017年8月マンダレー僧院に扇風機を寄付

放射線治療に先行して10月中旬からまずカソデックス(一般名ビカルタミド)を1日1回経口服用するホルモン療法を行うことになった。それと並行してリュープリン(LH-RHアナログ製剤)注射を行った。

ホルモン療法により、突然体が熱くなって汗が流れ出るというホットフラッシュを経験することになった。

「ホルモン薬を服用当初、しばらくはホットフラッシュが続いていましたが、最近ではほとんどなくなりました」

ホルモン療法の効果もあり、2023年3月の検査では8.6あったPSA値が半年後には1.8まで下がった。

ホルモン療法の話の最中にこんな笑い話を聞かせてくれた。

「昔は前立腺がんの治療の場合、睾丸を摘出したりしましたよ」と医師から言われました。私の友人の泌尿器科医から聞いた話では、『過去に25例くらい睾丸摘出の手術をしたことがある』と言っていました。睾丸摘出後、疑睾丸を入れる際に患者に「疑睾丸の大きさが大中小とありますが、どれがいいですか」と尋ねると、99%が『大でお願いします』と言うんだと笑っていました」

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