絨毛がん、3度の再発を乗り越えて

「周りの人に助けられていた」改めて、そのことを強く感じています

取材・文●吉田燿子
発行:2013年5月
更新:2013年8月

  

藤居典子 ふじい  のりこ(アロマ環境協会認定インストラクター) 1970年生まれ。東京都武蔵村山市在住。障害を持つ娘を育てながら、亡父が起こした会社を引き継ぎ、『ジャンティ・ハーブ』を主宰。姉とともに、完全無農薬のハーブティーやエッセンシャルオイル、ハーブ化粧品などの通信販売を手がけている

10万人に0.1人にも満たないという発症頻度の希少がんに罹患した藤居典子さん。 それでも、自ら専門医を探し求めては、幾度となく襲い掛かる試練を克服してきた。 そんな藤居さんの周りには、常に支えてくれる多くの人たちがいた。


「絨毛がん」という病気をご存じだろうか。

妊娠すると胎盤の中に、胎児と母体を結びつける絨毛が作られる。これががん化したものが絨毛がんで、胞状奇胎や流産、ときには正常分娩の後に発生することもある。全国でも患者数が少ない希少がんの1つだ。

この絨毛がんと闘ってきた患者さんの1人に、東京都武蔵村山市在住の藤居典子さん(43)がいる。30歳で妊娠・出産し、その直後に絨毛がんが発覚。子どもも重度の障害を負った。

だが、3度の再発を乗り越えて健康を取り戻し、現在は姉とともにハーブの通販会社を営みながら、フィトテラピー(植物療法)の普及に努めている。

「亡き父から引き継いだ仕事ではありますが、ハーブやアロマは人を癒してくれる商品。娘が障害を持って生まれたからこそ、どこかで引き合うものがあった。その意味でも、この仕事をずっと続けていきたいと思います」

妊娠をきっかけに絨毛がんを発症

愛娘を抱く治療中の藤居さん(2001年)

藤居さんが初めて身ごもったのは、28歳のとき。だが、妊娠9週目で流産し、翌々年の20 00年2月、第2子を妊娠した。夫の転勤先である、福島県の産婦人科クリニックに通い、胸を膨らませて出産の日を待ちわびた。それが重い十字架になることなど、知る由もなかった。

妊娠後半から足のむくみに悩まされ、8月のある夜、原因不明の発熱と胸・背中の激痛に襲われた。市内の総合病院に緊急入院すると、診断は「重度の妊娠中毒症」。母子ともに危険な状態だった。

入院1週間後に胎児の心音が聴こえなくなり、急きょ帝王切開が行われた。1979gの女の子を出産したが、女の子は重症の貧血で仮死状態にあり、すぐにNICUに移された。

原因は、「胎児母体間輸血症候群」。胎児の血液が母体に大量に流れ、極度の貧血を起こしたのである。藤居さんは出産後に体重が16kgも減り、原因不明の性器出血に悩まされた。咳や息切れがひどく、CT検査を行ったところ、画像には真っ白な肺が映っていた。

「今思えば、肺にも転移していたのだと思います。抗がん薬治療後に検査したときには、転移の跡が白く残っていました」

原因不明の「肺炎」を治療するため、都内のJ病院の呼吸器内科に転院することに。思いがけない事態が起こったのは、その直後だった。産後40日検診で内診を受けたとき、気の遠くなるような激痛が走った。右膣壁に、腫瘍が発見されたのである。

NICU=新生児特定集中治療室

手探りで始まった抗がん薬治療

病理検査の結果がわかったのは、J病院に転院した後のことだ。診断結果は「破壊性胞状奇胎(絨毛性腫瘍の疑い)」。急きょ、呼吸器内科から婦人科へと、転科の手続きがとられた。

とはいうものの、藤居さんは自分ががんだとは夢にも思わなかったという。診断書には「がん」と一言も書いていなかったためだ。あとでわかったのだが、主治医はひそかに家族を病院に呼び、告知をしていた。

近年、絨毛性疾患はごく初期の段階で処置されるため、絨毛がんを発症するケースは珍しい。「J病院ではほとんど治療経験がないため、治療も手探りになる」と主治医は家族に告げた。

「腫瘍の治療に効果があるので、抗がん薬を試してみようと思います」

主治医の言葉に、藤居さんは何の疑いも抱かなかった。

11月からMAC療法を開始。抗がん薬の投与が始まると、鼠蹊部の激しい痛みは引いたが、副作用で髪の毛が抜け始めた。

「髪が抜けるのを見るのが嫌で、四六時中バンダナをしていました。そのうち、髪の毛がバンダナの中で擦れ、団子状に絡まってしまって……。母に髪を切ってもらったとき、今まで涙1つ見たことのない母が泣いたんです。なんて親不孝な娘だろう、と思いました」

MAC療法=メソトレキセート(一般名メトトレキサート)+コスメゲン(一般名アクチノマイシンD)+エンドキサン(一般名シクロホスファミド)

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