最後まで後悔しないように、前のめりで生きていきたい 2007年に大腸がんを経験した「ザ・ワイルドワンズ」の植田芳暁さん(67歳)

取材・文●吉田健城
撮影●「がんサポート」編集部
発行:2015年10月
更新:2019年7月

  

うえだ よしあき
1948年神奈川県出身。高校生で結成したバンド「ザ・ディメンション」がフジテレビ「勝ち抜きエレキ合戦」で2週勝ち抜き、一躍アマチュアバンド界で有名に。大学受験浪人中の66年に「ザ・ワイルドワンズ」のドラムス・ボーカルでデビュー。その後、早稲田大学に入学、4年間で卒業。現在はミュージシャンとして、全国各地のライブハウスやディナショーで活躍中

人はいつか死ぬ、だからこそ後悔はしたくない――。「ザ・ワイルドワンズ」の植田芳暁さんは、病気をきっかけに、そう強く思うようになった。「ザ・ワイルドワンズ」としての活動を精力的に行う傍ら、それとはまた別に、自分のやりたい音楽を作品として残していきたいという想いが強くなったという。

半日ドックの検査で大腸がんが発覚

植田芳暁さんが大腸がんと宣告されたのは、2007年2月のこと。きっかけは、1カ月前に受けた半日ドックだった。

所属する「ザ・ワイルドワンズ」では、すでにリーダーの加瀬邦彦さんが食道がん、鳥塚しげきさんが胃がんの手術を受けていたので、植田さんの中には少なからず「がん」というものを意識していた部分はあった。ただ実際に、半日ドックを受けた都内の大学病院で、医師から「大腸がんが見つかりました。すぐに入院して下さい」と告げられたときは、ショックで、死ぬのではないかという思いが脳裏をよぎったという。しかし、医師の説明を聞くうちに、がんは早期の段階で命に関わるようなことはないとわかったので、すぐに気持ちを持ち直すことができた。

「先生から病気のことを告げられたときは一瞬、頭が真っ白になりました。ただ、周りにもがんになった人がいたし、早期であれば、部位にもよるけれど、色々治療法があると知っていたので、うろたえてもしょうがないと思いました」

がんを告げられた植田さんは、すぐに病院の外に出て、マネージャーに連絡を入れた。

「俺、がんになっちゃって……」

「嘘でしょう?」(マネージャー)

「嘘じゃないよ」

「声がやけに明るいから」(マネージャー)

「暗く話しても、しょうがないだろう」

こんなやり取りがあったという。

すぐに気持ちを切り替えた植田さんだが、最初に頭に浮かんだのは、仕事のことだった。

「先生からはすぐに入院して欲しいと言われたのですが、既に仕事のスケジュールが入っている状態でした。グループで活動している以上、入院するとなると他のメンバーに迷惑をかけてしまう。とくに『ザ・ワイルドワンズ』は替えがきかないから、さて困ったなと思いました」

「ザ・ワイルドワンズ」のメンバーと一緒に

「植田芳暁&レイアウト」のライブ中の植田さん

腹腔鏡下手術でがんを切除

植田さんは「ザ・ワイルドワンズ」のメンバーとしての活動の他、ソロミュージシャン、ドラマー、ギタリストとしても活躍しており、常に多忙な身である。4月上旬にも、2つコンサートに出演することが決まっていた。

4月2日に開催される「ザ・ワイルドワンズ」のコンサートと、9日に行われる「加山雄三&ハイパーランチャーズ」のライブである。このうち、「ハイパーランチャーズ」のライブは何とか代役を立てることができるが、「ザ・ワイルドワンズ」のほうは、代役で済ますわけにはいかない。

「結局その公演はキャンセルにしてもらったのですが、主催者のご厚意で、1年後にやらせていただけることになりました」

仕事のスケジュールを何とか調整して、植田さんは3月30日に入院。各種検査の結果、医師から勧められた腹腔鏡下手術を受けることを決めた。

1月下旬の半日ドックで見つかった際には、0.8㎝ほどの大きさだったがんは、入院時には既に1.2㎝にまで大きくなっていたという。

それでも、4月2日に行われた腹腔鏡下手術では、腫瘍のある部位とその周囲を切除し、無事3時間ほどで終了。全身麻酔から目覚めた際、主治医からは「手術は上手くいきました。どこにも転移はしていませんので、心配しなくていいですよ」と言われ、植田さんはほっと胸をなでおろした。

手術後、腹直筋の激しい痙攣で激痛に

手術後の経過は順調で、食事も最初は重湯から始まり、術後3日目には3分粥を口にし、4日目からは通常の食事を口にするまでに回復。歩行に関しても、体のあちこちに管がついてはいたものの、術後3日目から開始するなど、このまま順調に回復すると思われていた。

しかし、退院の3日前に予期せぬ事態が起きた。突然、腹部の筋肉が痙攣し、激痛に襲われたのである。

「ベッドで体の向きを変えようとした瞬間、腹直筋(腹部の中央部を縦に走る筋肉)が痙攣したのです。一瞬、呼吸ができなくなり、ちょっとパニックになって慌ててナースコールを押しました。このときは、看護師さんが来て鎮痛薬のボルタレンを飲ませてくれたので、徐々に楽になったのですが、痙攣は1回では終わらなかったのです」

腹腔鏡下手術の際、医師が腹直筋のそばに、0.5㎝ほどの孔を3カ所開けて手術器具の差し込み口を作ったため、担当医からも手術後、筋肉の痙攣が起きる可能性があるとは伝えられていた。

「事前に医師から言われてはいたものの、実際に起きるとあまりの痛さにびっくりして、脂汗が出て本当に焦りました。最初の2回くらいはナースコールを押して看護師さんに来てもらったのですが、息ができないから話すこともできなくて、近くにあった紙に『けいれん』とメモを書いて伝えました」

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