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肝っ玉弁護士がんのトラブル解決します 38
父の株を売りたいが、本人でなければ売ることはできない?
多彩な弁護士活動の中でも家族、相続などの問題を得意とする。2003年より「女性と仕事の未来館」館長。2児の母。2005年男女共同参画社会作り功労者内閣総理大臣表彰を受賞。『子宮癌のおかげです』(工作舎)など著書多数。
渥美雅子法律事務所 TEL:043-224-2624
84歳の認知症の父が、頭頸部がんになりました。父に重粒子線の治療を受けさせたいのですが、費用が高いので父の株を売って治療費にしたいと思っています。しかし、父は株のことを記憶しておらず、私が証券会社に株の売却を頼んだのですが、本人以外はダメと断られてしまい困っています。他にも株に関していろいろと聞きたいのですが、個人情報保護法で娘でも答えられないといわれました。どうしたら良いでしょうか。
(50代、女性)
成人後見人の申し立てをすると良い
家庭裁判所に、成年後見人選任の申立てをすることをお勧めします。
民法第7条には「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、4親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる」とあります。
お父様は株のことを全く記憶しておられないようですから、まさに「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」といえると思います。娘さんであるあなたが申立てをすれば、家庭裁判所が後見人選任の手続きを進めてくれます。
ひとくちに後見人といっても、もっと細かく分ければ「補助人」「保佐人」「後見人」と3つにわかれます。それは、後見を受ける本人の判断能力の違いによって決まります。最も重いケースが後見、中程度が保佐、軽いケースが補助です。
後見の場合は、本人が法律行為をすることができません。代わりに後見人がすべて行います。保佐人は、本人が重大な財産処分行為(不動産の処分や借金、相続の承認や放棄など)をする際にだけ保佐人の同意を必要とし、補助の場合は、裁判所が定めた特定の行為についてのみ補助人の同意が必要とされています。
お父様の場合、たぶん後見開始ということになるでしょう。そうすれば後見人が選任され、その人がお父様に代わって財産管理、身上監護についての判断をすることになります。もちろん、お父様名義の株の処分も成年後見人がすることになります。
ただ、この申立てをしても家庭裁判所が直ちに後見人選任の審判をだしてくれるかというと、そうではありません。医師の診断に基づいて判断をするので審判までに2、3カ月の時間を要します。
一方、お父様の病状によっては1日も早く治療にかからなければならないし、そのためには治療費の調達が必至で、なるべく早く株を処分したいという状況であるならば、「審判前の仮処分」をかけることもお考えになるほうが良いように思います。
「審判前の仮処分」とは家事審判規則で定められている手続で、急を要する場合、審判の申立てをすることを前提として仮の保全処分を求めることができるシステムです。
治療費の調達はもちろん、緊急手術とか、治療とかが必要な場合は「審判前の仮処分」によって、まずその治療をする許可を得たうえ、続いて成年後見人が決まった段階で全体的な治療費調達の方法を考える、という2段構えでおやりになるのが良いのではないかと思われます。