編集部の本棚 2019/1Q
人生でほんとうに大切なこと がん専門の精神科医・清水研と患者たちの対話
稲垣麻由美著 発行:KADOKAWA 1,400円(税別)
本書は、「精神腫瘍科」を知ってほしいと切望したひとりのがん患者の熱意から生まれた。彼は、当時56歳。やりがいのある仕事を任されていたさなか、進行性の肺がんで手術はできないと診断された。
化学放射線療法後、退院。時短勤務に復帰したが、たった2週間で仕事に行けなくなる。国立がん研究センター中央病院の主治医から、同病院精神腫瘍科の清水研・精神腫瘍医(サイコオンコロジスト)を紹介されたが、初めは〝精神科〟にかかることに強い抵抗感があった。
しかし、何で涙が出るのか、何に苦しんでいるのか、何に悩んでいるのか、清水医師の穏やかな優しい誘導によって、彼はその1つひとつを明確にしながら、自分自身と向き合っていった。
清水医師は患者の悩みの本質を見極めて患者に提示すると、「思ってもみなかった自分の本質」と患者は向き合うことになると言う。
彼の場合も、男とは〝強き者、頼れる者〟と思っていたが、がん罹患でそれができなくなり涙が止まらない。清水医師の診察を受けるうち、家族、会社、医療者などに「申し訳ない」と思う気持ちの涙と気づく。そして〝絶望を越える生きる希望〟とは「寝れば、次の日に目がさめる」、そんな一見当たり前のことが〝希望〟なのだと思えるようになる。そして「がんになったおかげで、生まれかわることができた」とまで彼は言う。彼だけでなく本当の幸せは「何気ない日々の中にこそあることに気づいた」と言うがん患者は多い。
本書は、彼を含めて7人のがん患者と清水医師との対話とコラムで構成されている。7人それぞれの人生の向き合い方に、参考になるヒントが溢れている。(松)