編集部の本棚 2019/2Q
ろう者のがん闘病体験談
川淵一江/江木洋子/寺嶋久枝/寺嶋幸司/金井一弘著 発行:星湖舎 1,200円(税別)
聴覚障がい者が医療機関で検査を含めて医療を受けるということが、健聴者にはわからない困難を抱えて大変だったとは。
本書は、2人の乳がん患者の聴覚障がい者と2人の手話通訳者、うち2人は夫婦(夫が手話通訳者)の4人が、座談会形式で進行する構成となっている。
「手話通訳者がいなければ、筆記で対応できるのではないか」と思っていたが、本書を読んでそうではないことが多いということに驚いた。なぜなら、聴覚障がい者でも日本語は当然読めるものと思っていたから。「筆談するから、手話通訳者はいらない」と言う医師がいるのも、無理ないことかもしれない。
しかし、かつてのろう学校では口話法で教育していたため、日本語の文章を読むのが苦手な人が多いそうだ。英語の文章を読んで知識を得なさいと言っているようなものだとか。
手話医療通訳問題と共に、外国人患者に対する医療通訳者の数がまったく足りていないこともいま大きな問題になっている。政府の外国人労働者政策が変わるため、この問題はこれからより深刻になり、善意のボランティアだけに頼っていては、破綻は避けられないだろう。聴覚障がい者も含めてどうすれば不利益にならないか考える必要がある。
ちなみに、市立伊丹病院では常設の手話通訳者がいて、通訳件数は年間600件ほどにのぼるそうだ。しかし、全国的にはまだまだこのような病院は少ない。
市立伊丹病院作成の「聴覚障がい者来院時の対応マニュアル」が添付してある本書は、医療従事者にこそ一読してほしい1冊である。(松)