障害年金、給付金‥‥知っていれば活用できる仕組みをつくる!
がんで暮らしに困らないよう保険や制度のことを伝えたい
「がんになって暮らしが大変になった」と訴える人は少なくありません。がんになって利用できる公的・民間サービスについて、知っている人は申請して利用できても、知らずに申請しなければ利用できません。そのような現状(申請主義)を解決する1つの方法として始まったのが、ネット上でサービスを簡単に検索できるシステム「がん制度ドック」です。
NPO法人 がんと暮らしを考える会
理事長:賢見卓也
連絡先:info@gankura.org
http://www.gankura.org/
がん制度ドック
連絡先:info@kartepost.com
http://www.ganseido.com/
備えあっても憂いあり?
がんになって治療費が予想以上にかかったり、仕事ができなくなって暮らしが脅かされるようになり、困っている人は多くいます。訪問ホスピスで緩和ケアに携わる看護師の賢見卓也さんは話します。
「会社に勤めていれば雇用保険制度があるので、家族の介護で休業中の補償が受けられます。また、公的年金や健康保険、介護保険の制度もあります。民間の保険に加入している人もいるでしょう。たしかにみなさんそれなりの『備え』があるはずなのに、いざがんになったときに、それをだれでもうまく使える仕組みがないのが現実です」
たとえば、家族をもつ働き盛りの男性ががんで余命がわずかしかないとわかったとします。妻は専業主婦で小さな子どもがいて、マイホームには多額のローンが残っている。そのような場合、万一夫が亡くなると、ローンの支払いが弁済される制度があることは、あまり知られていません。患者さんは、多額のローンを抱えた家族は路頭に迷ってしまうと、暗澹とした気持ちで最期を迎えることになります。
賢見さんは言います。
「制度の扉はいつでも開いているのです。ただ、保険にしても制度の利用にしても、申請主義といって当事者が自分から申請しない限り何もしてくれません。ですから、制度があるのを知らないまま申請しなければ、いくら扉は開いていても利用できないことになってしまいます」
簡単に検索できる「がん制度ドック」
困っている患者さんの声にまず耳を傾けるのは、医療の役割なのでしょうか。
「患者さんの苦痛を和らげ、QOL(生活の質)や命の質を改善し高めるのが、緩和ケアです。苦痛には、身体的なものだけでなく、精神的・社会的なもの、さらに経済的な苦痛も含まれます。ですから、当然、医療の仕事の1つといえます」
しかし現実には、患者さんやその家族がお金のことで悩んでいたとしても、医療機関ができることは限られています。
「病院のソーシャルワーカーに相談した場合、公的な制度については積極的にアドバイスできても、民間の保険に関することは『保険会社に聞いてください』となってしまいます。患者さんにとっては、持ち家に住んでいるか家賃が必要か、預貯金額、加入している保険の種類など、個人の状況に応じた対策が必要です。それなのに、個人の資産に関することとなると、踏み込んだアドバイスまで手がまわりません」
そんな現状を何とかできないかと2011年、賢見さんは知り合いの医師や看護師、出版社スタッフなどに呼びかけて、月1回の事例検討の場を設けました。そこには、保険や金融、制度に詳しい社会保険労務士、税理士、フィナンシャルプランナー、生命保険営業ら専門家を招き、問題解決のためのディスカッションを行い、理解を深めていったのです。
今年2月、「NPO法人がんと暮らしを考える会」の設立総会を開催。7月には法人化が認められ、本格的な支援活動のスタートを切りました。また、6月からは支援やサービスをホームページで検索できる「がん制度ドック」を始めています。
これは、年齢やがんの種類、加入している保険などを入力すると、利用できる公的支援や民間のサービスが申請方法などとともに表示される仕組みです。金融や制度についての知識がなくても、簡単に必要とする情報を得ることができるというものです。
住宅ローンが弁済される制度も
制度に詳しい専門家がすべての手続きを代行しなくても、ちょっとしたアドバイスさえあれば、患者さんや家族が自分で申請し、さまざまな制度を利用できることは多いのです。
先に例をあげた「ローン返済が弁済される制度」について、「考える会」の協賛メンバーの1人で、がん医療専門の保険代理店「キャンサーコネクト」代表取締役の藤田雄一さんは次のように解説します。
「一般的にローンを借りる際は団体信用生命保険への加入が条件になっていますから、ほとんどの人が利用できる制度のはずです。ただし、被保険者、つまりローンを借りた側から請求して初めて利用できるので、知らないでいると損をします」